装備と訓練と皇国の対応
翌日、カレーナは三番隊の拠点に向かった。どのような訓練を行うのか気になったが、装備を作るために俺は店に残った。
「飛竜の素材でお願いします」
昨晩の彼女の言葉だ。当初の予定では古赤龍の素材を考えていたが、断られたのだ。確かに飛龍でも十分な性能があるので問題はないだろう。
「装備を狙われ、襲われるかもしれないので」
と言われると頷くしかなかった。俺も普段は使っていないし。
彼女の私服を一着借り、それを型に作る予定だ。だが、革を伸ばすローラーは貸したままなので、新たなローラーを作った。
ブルゾン風の上着とカーゴパンツ、革の用意は錬金空間の時間調整を使い一瞬で終わらせた。あとはローラーで伸ばすだけだ。
パンツと袖は二ミリ厚、胸と背中部分は三ミリになるよう伸ばしていく。パンツと袖の鞣しは柔らかくなるよう、タンニンに浸す時間を長くした。
「これで衝撃が吸収できれば最高だけど、そんな素材は無いし、どうするかな」
そう、切断は防げるが、衝撃はある。剣で斬られる、叩きつけられた衝撃で骨折は防げないだろう。
龍種の革と飛竜の革を取り出し、陶器の器に被せ叩いてみた。力加減を替えながら何回も繰り返すと、飛竜より龍種のほうが衝撃を吸収しているようだ。だが、陶器が割れない程度の力でも腕を叩くと痛そうだ。二重にして工夫を試みるも、効果は期待通りにはならない。
「これがあれば、普段着にも使えるのだけどな」
呟きながら、対処を考えていた。
その間、ガーダはタツヤの行動を見ていた。彼が何をしたいのか理解したガーダ、糸を出して足で叩いている。衝撃耐性のある糸を作りだそうとしていた。だが、糸は切れたり弾んだりしていた。何回か繰り返していたが、満足できる糸が出せたのか、タツヤに近づいていった。
「うん?ガーダ、どうした?」
「主、糸、できた」
ガーダが飛竜の革に糸を着けていく。粘着糸を着け、その上に糸を張り付ける、いつもの作業だ。
その革を陶器の上に乗せ、叩いてみるが割れなかった。力任せに叩いたら、テーブルが壊れてしまった。
「ガーダ、凄い糸だね。これなら骨折も防げるかも」
ガーダの背中を人差し指で撫でる。掌サイズの蜘蛛だから撫でる場所も限られるな。
裁断した革の内側にガーダの糸を張り付けてもらう。これを貼り合わせれば装備は完成だ。ガーダが粘着液を吐きながら革を貼り合わせていた。蜘蛛だよな?最近は何でもできるようになったな。
昼食には飛竜の肉をガーダに振舞った。もちろんアブソにも。二匹とも美味しそうに食べていた。
装備を持ってカレーナが居る訓練場へと向かった。そこにはボロボロになった彼女の姿がった。
「どんな訓練したら、あそこまでボロボロになる?」
訓練場の端にいる三番隊隊長、モナハルゾが目に入ったので、歩み寄って状況を確認した。
「カレーナ譲の希望で攻撃を避ける訓練だけをしています。義足の使い方を探っているようですね」
見ていると木剣や木槍を持った隊員が三人一組でカレーナに向かっていた。彼女は攻撃を躱すことに専念し、前後左右に動き回っている。俺から見ても義足での踏み込みが弱いのは分かる。膝下の筋肉が無いからか、義足を使った場合の距離が短いのだ。
「義足に改良の余地はあるかな」
俺もしばらく訓練を見ていた。
徐々に左右への動きの違和感が減っていく。彼女が義足になれてきたのだろう。何回目かの休憩となった時に新しい装備を渡す。
「この掃除なら多少の攻撃も防げるから」
カレーナは小さく頷き、無言のまま奥へと着替えに向かった。疲れていて言葉も出せないのだろうな。一日目からハード過ぎ。
戻ってきた彼女は訓練を再開する。今の装備は木剣が当たっても衝撃が和らいでいるので、攻撃に怯むことが無くなった。だが、当たっても大丈夫、そう思われると実際の戦闘には不向きかもしれないな。訓練が終った後に、隊長さんも交えて話をする必要がありそうだ。
「あの装備は回復魔法でも仕込んでいるのですか」
俺の所見を察したのか、隊長さんが聞いてきた。
「あれは衝撃吸収効果があります。全てを受け流すことはできませんが、木剣で叩かれても骨折はしないはずです」
「なるほど、隊員が全力を出しても大丈夫ですかね?」
全力?そうか、怪我を恐れて攻撃を抑えていたのか。
「大丈夫?ですよ」
隊長さんが右手を上げ、振り下ろす。同時に隊員達の剣速が上がった。見た目で倍のように感じるな。
カレーナも攻撃とうける回数が増えていく。しかし、装備頼りとはいえ臆することなく、隊員の攻撃を躱そうと動き回っていた。
そんな訓練が数日続いていた。
俺は職人さんにレンガ、いやタイルだな、作り方を教えていた。
それには炉の改造が必要で、三日間の日数が必要だった。温度と時間を設定できるよう改造が必要だったのだ。
型に嵌めたタイルを天日干ししてから炉に入れれば不要なのだが、時間設定をすれば夕方炉に入れて、朝には完成しているのだ。作業効率を上げるための改造だった。
教えたのはドワーフの職人、三人に説明した。土は俺が一袋大銀貨二枚で販売する。タイルの売値は一枚が大銀貨一枚、炉に使う魔石の代金も考えれば無難な価格だろう。
それは表面の仕上げを行わない製品の価格で、表面を滑らかに仕上げたタイル一枚の価格は大銀貨三枚となった。
型に土を入れた後、表面を一つずつ仕上げるので三倍の価格にしたようだ。俺が売ることは無いので、報告を受けただけだが。
三人の職人は白いタイルを見て、土にいろいろと混ぜて研究したいと言っていた。青や赤ができれば販路が広がると騒いでいた。自分達で土の調達が可能になれば、俺の仕事も減るので、頑張ってほしい。そう言ったら収入が減って困るだろうと言われたので、素材が十分にあるので、売れば困らないと伝え、アダマンタイトの鉱石を見せておいた。売るなら最初に声を掛けるから、少し離れてくれないかな。
カレーナの努力もあり、訓練開始から十日後には全ての攻撃を躱せるようになっていた。
次の段階に進むことになった。武器の選択だ。剣や槍、短剣もありだな。俺ならスコップ一択だけど。
彼女が選んだのは篭手。体術で挑もうとしていた。今から剣を習っても間に合わない、そう判断したようだ。それなら機動力を活かしての一撃、なるほどと感心してしまった。
俺にできるのは剣を受け止められる篭手の作成。店で篭手の製作を始めた。
素材は龍の骨。これなら白いので彼女に似合うだろう。
前腕部と手の甲、指の第二関節までを覆うよう、三分割にして篭手を作っていく。
カレーナの腕を型取りして、骨を型に沿うように削るだけだ。各部の連結にはガーダの糸を使うので、隙間を攻撃されても防御はできるはず。だは、念には念を入れ、各部のつなぎ目は櫛のようにした。交互に入る櫛型により、隙間が無くなるのだ。
スコップ付属のナイフで龍骨をガリガリと削っていく。櫛型の部分も綺麗に削れた。あとはガーダが作った長手袋に接着すれば完成だ。
ガーダの手袋は装備と同じで物理防御と衝撃吸収能力がある。シャツの上から履けば二重になり、防御能力は上がるだろう。
しかし、今回の篭手は自信策だったが、関節部分を櫛型にしてまでは良かった。しかし、逆反りにすると食い込むようで痛いのだ。そこで一定の角度以上曲がらないよう細工した。ここは企業秘密にしておこう。
カレーナは篭手を装着して、自分で叩いて感触を確かめていた。
彼女の腕力は強いとは言えないが、殴っても自分の拳が痛くないと知り、訓練では全力で拳を叩きつけていた。
「タツヤ殿、カレーナ譲の装備に使っている衝撃を吸収する素材ですが、隊員にも分けてもらえませんか。カレーナ譲の攻撃で隊員達の体が・・・」
ガーダにお願いして衝撃吸収の糸を大量に作ってもらった。糸の使い方は三番隊に考えてもらおう。 今までのようにガーダが接着していたのでは、時間が掛かりすぎるからね。
ガーダの糸は鎧下として仕立てられ、隊員達に配られていた。完成まで二日、隊長さんの本気が伺える。
どうやら総隊長で皇太子でもあるギルベルト王子が見学に来たらしい。カレーナの攻撃から逃げ廻る隊員に苦笑していたそうだ。流石に装備の話をしたそうだが、この先は情けない姿を見せられないと俺に頼んできたのだった。
鎧下を新調した隊員達はカレーナの攻撃に臆することなく向かっていった。こうなるとカレーナが不利になってくるな。ここからが本当の訓練だろう。
数日が立ち、宰相さんが訓練場を訪れていた。
「糸の代金ですが、金貨三十枚でいかがでしょうか」
代金、貰えるの?訓練場を使ったり、隊員さんの時間も貰ってるので、無料でもいいのだが、貰えるものは貰っておこう。
「つきましては他の隊にも支給したいので、前回の十倍ほど譲っていただけますか」
おお、金貨三百枚!
「喜んで」
その晩、ガーダにお願いして糸を出してもらった。もちろん、ご褒美の焼肉も忘れない。しかし、俺よりガーダの稼ぎが上のような気がするが、問題無いと自分に言い聞かせた。
そういえば数日前、ガーダが一部屋借りたいと言っていたな。深く考えず了承したが、何に使っているのだろうか、聞いてみた。
何と!配下を増やすため、卵を産んでいた。その数五十。魔物だからな、交尾はどうしたのか聞くだけ野暮だと思った。あと数日で孵ると言っていた。
黒死蜘蛛王、その子供は何になるのか、大きさも気になっていた。
翌日も宰相さんが訓練場に顔を出していた。
「皇国侯爵家との決闘ですが、二十日後に決まりました。侯爵家前の広場で十時です。ドワーフ国としては、どちらにも協力できませんので、ご理解下さい」
予定通りの日程で決闘が決まった。
「相手は侯爵次男と騎士二名、都合三名が相手となります。そして、決闘と名がついていますが、殺意を持っての殺害を禁止としました。こちらの勝手な判断ですが、ご了承下さい」
相手が三名なのは想定済。殺さないのもカレーナなら殺さないだろうと想定済。あとは皇国に向かうだけだな。
「カレーナ譲の動きは見事ですね」
隊員の脇腹に蹴りを入れたカレーナを見て宰相さんが呟く。
「剣も受けずに躱すとは、国で雇いたいですね」
彼女の動きを目で追いながら、俺も頷いていた。ここまで戦闘のセンスがあるとは思っていなかった。
「兎人族は戦闘に向いた種族なのですか」
「いえ、兎人族は戦闘より、畑仕事に従事する者が多いですね。確かに脚力は優れていますが、腕力と持久力は他種族に比べ劣っています。カレーナ譲の努力なのでしょうね」
確かに、店に戻ってもカレーナは部屋で筋トレをしていたようだ。俺が教えたインターバルトレーニングだ。部屋の中なので足踏み状態になるが、全力で腿上げを百回行う。次はゆっくり呼吸と整えるよう腿上げを百回行う。これを五回繰り返すと言うものだ。本来は外でのダッシュとジョグを繰り返すのはいいのだろうが、室内だと動作が限られるので、こんか感じだろうと教えたのだ。
就寝前と訓練前に行っているようで、持久力が上がった要素の一つと考えてもいいだろう。
「では、十日後に出発します。皇国までは三日間の予定で大丈夫ですよね?」
「問題ありませんね。現地のギルドには行くのですか?」
「もちろん行きますよ。ある程度の報復は必要ですからね。それに皿は俺の物ですから」
そう言って笑っておいた。
「モナハルゾ隊長、カレーナ譲は最初からあのように優れた運動神経でしたか?」
「いえ、最初は一日に内半分は休憩時間でした」
「そうですか、タツヤ様が絡んでいるので、新しい訓練方法があるかもしれませんね」
「私もそう思っていますが、訓練場で特別な事はしていません。帰った後に秘密があるかもしれません」
二人が帰った後に宰相とモナハルゾは話をしていた。カレーナが強くなった理由をしりたいのだった。
翌日、カレーナにモナハルゾが確認すると、新しい訓練方法を教えてくれた。
カレーナの指示でモナハルゾが試してみるが、三回目で根を上げていた。
「初日に私は二回できませんでした。流石は三番隊隊長さんですね」
褒められはしたが、今のカレーナは五回の繰り返しを容易く行えると聞き、項垂れるのであった。
その日から訓練前と後に追加されたメニューに隊員の悲鳴が聞こえていたらしい。
タツヤとカレーナは知る事は無かったが。
そして出立の日となった。
前日は訓練も休みにして、休養日としたのだが、カレーナは部屋での訓練を止めなかった。五回を十回まで増やしていたのだ。
(もしかして脳筋になったのか)
不安になるタツヤだが、皇国へと出立したのであった。




