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ドワーフ国で陶芸始めます3

 翌日の朝食は前日のスープに肉を加え、パンと共に食べる簡単な食事とした。

 カレーナには魔道具の購入と食材の購入を頼み、店内の棚を作る。

 白い食器だから黒い棚、食器が映えるだろうか。背面も黒とするため板を貼る。これはガラスが入手できたら窓から見える位置に置く棚だ。通常だと店内の陳列で使うのだろうが、陶器は割れる。来店した客が落として割ることも考えられる。あまり展示品は増やさない方針だ。

 だが、外から見える品には力を入れるつもりだ。窓は工房も含め五か所なので棚も五個作った。

 窓は観音で外側に開く。外壁に沿うように固定でき、ガラスは室内側でスライド式にした。結構な自信策だ。棚にキャスターを取り付け、移動を可能にしている。ただ、固定方法が無いので、要検討部分だった。

 カレーナが戻ったので、昼食はピザに挑戦することにした。

 この世界、パンを焼くためのドライイーストがある。多分、地球の技術だろう。どうやらエルフが作っているらしい。ドライなので他国への輸出も盛んなようだ。

 小麦粉を練り、ドライイーストを混ぜて伸ばす。具材はトマトと茹でた芋、刻んだ肉、上にチーズを乗せて焼く。もちろんオーブンは陶芸で作った品だ。箱と蓋、それを火にかけるだけの簡単な品だが。蓋は横だよ、上だと取り出せないからね。

 三十センチ以上もあるピザを二人で食べたのだが、スープも用意していたので、余るかと思うほどの量だった。

 ゆっくりと休んだあと、カレーナは魔法で掃除を開始した。食器までもが綺麗になるので、効率はいいな。だが、カレーナは仕事が無くなり、手持無沙汰のようだったので、夕食用のうどんを買いに行かせた。昼をガッツリと食べたので、夕飯は肉うどん。出汁は節で作った残りがあるので、茹でるだけで大丈夫だ。肉は薄く切って湯通しして使う。余分な脂を落とすのだ。

 五十センチの大きな皿に龍を描く。陶芸空間ならイメージ通りに描ける。黄、赤、青の三枚を作り、窓に飾る予定。ガラス越しでも目に留まればインパクトはあると思う。

 次は一メートルほどの神様を作る。この世界の神、スグンターナ様だ。アーステラ神は俺を巻き込んだので後回し。窓の高さが一メートル五十センチなので、高さ目一杯で作る。関西弁のイメージを消さないと大阪のおばちゃんを作りそうだ。

 完成した像はイメージ通り、崇高な雰囲気を持っていた。

 次はアーステラ神を作ったが、少し劣る。胸が。実際に会ったイメージだからな、勘弁してもらう。

 工房で二体並べて祈ろうかな。この世界も悪くない。こうやって陶芸が生きているからね。

 跪き目を瞑り、手を合わせて祈りを開始する。

 「何とか生きていますよ。この先も生き抜けるよう頑張るよ」

 前回と同じ文句だが、他に報告する内容も無かった。

 目を開けると召喚の時に通った部屋にまた居た。

 「今度の神像は大きいんや、ありがとぅな。うちにそっくりや」

 「ちょっと胸、業とやったでしょ!」

 二人揃って権現しました。

 「ご無沙汰しています。二柱の神にお会いできたこと光栄です。私のイメージで像を造らせていただきました。少々の不出来は容赦して下さい」

 「ええんやない、立派な像やで」

 「次回は見栄えも考慮して下さいね」

 「神像に偽りが無いよう慎重に作ります」

 「ドワーフの所に居るのか。彼ら真面目やからな。面倒見のいい奴らや」

 「はい、ドワーフ達にはお世話になっています」

 「こら~私を無視するな!」

 「何か聞きたいことは無いんか?」

 「奴隷制度について、教えていただければ」

 そこから奴隷制度について教えてくれた。神が推奨していることではないが、繁殖率の高い獣人が生き延びる手段として人族に認めていると。ドワーフに聞いた内容と一緒だった。

 「最初の発端が獣人からの申し出。止めへんわ」

 やはり難しい問題なのだな。本当に駄目なら神様が何かしているだろうし。

 「当分の間、ドワーフの国にお世話になる予定です。今後もよろしくお願いします、スグンターナ神様」

 「私も見ているからね、覚えておいてね。忘れないでね、お願い」

 最後にアーステラ神が叫んでいたが、聞こえない。『恨み晴らさでおくべきか』と言いたいな。

 気づけばカレーナも横で祈っていた。

 「素晴らしい神像ですね。こちらはスグンターナ様ですよね。隣の神像は」

 「俺の世界の神様でアーステラ神だよ。この世界に来る時に会った神だよ」

 カレーナが驚いている。確かに地球でも神に会ったなどと言ったら病院直行だからな。

 「教会には神託が聞こえると言う方もいますが、会ったという人は聞いたことがありあません。タツヤ様は神に愛された人なのですね」

 この話は今後しないと決めた。間違って召喚されたのに愛されているわけがない。四人の高校生は神の正体を知らず、声だけしか聴いてないから、神の姿が本物だと証明もできない。

 「この像は飾らずに、二階に置く。好きな時に拝んでいいよ」

 「飾らないのですか。教会にある神像より素晴らしい像なので、絶対に飾るべきです」

 結局、ガラスが入手できたら飾る事になった。事前に宰相さんに確認して許可を得ることが条件で。

 その晩、カレーナが宰相さんに報告したようで、翌日の早朝から訪ねて来た。

 「素晴らしい像です。飾るべきです。飾らないなら王城に持ち帰りたいですが、よろしいでしょうか」

 そこまで言われたら飾るよ。ガラスを売っている店も紹介してくれるので二人で出かけた。

 希望の大きさで作れるそうなので、窓のサイズに合わせ十五枚を注文した。自分でも手を加えたいので、失敗を考慮して多めの発注だ。完成は五日後になった。

 昼食を終えまったりしていると扉がノックされる。小窓から覗く、そこには人間が立っていた。人間という言い方も変だが、この世界、初めて人間と接触したのだった。

 「どちら様でしょうか。ここは店舗として営業はしておりませんが」

 「はじめまして、私、ミュツザハルフ皇国で商人をしております、サイベルガといいます。こちらの店舗に使われている素材について聞きたく、訪問させていただきました。お時間をいただけないでしょうか」

 宰相さんの言ったとおりになった。皇国の商人が早速攻めて来たか。

 「今、開けますので」

 扉を開けるとサイベルガさんが入ってきた。

 「お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、外壁に使われている素材を教えていただけませんか」

 「あれはドワーフ国の試作品です。無理を言って新規に始める店舗用に分けていただいた品です。それ以上のことは口外を止められているので、お答えできることは少ないと思います」

 「ほう、ドワーフ国の試作品ですか。珍しい品を入手されたのですね、羨ましいかぎりです。担当者を教えていただきたいが、無理なのでしょう。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。私の店は王城の傍にありまして、『サイベルガ商会』といいます。何かご入用がありましたら来店下さい。では、失礼します」

 商人さんは帰ってくれた。しつこく聞かれるかと思ったが、国の試作品と言ったのが良かったかな。

 だが、横にあった龍の皿をさり気なく見ていたな。興味があるのだろうか。国の知り合いと言わなければ買ってくれたかな。

 などと思っていましたが、この人、曲者だったのです。実は室内も確認していたようで、数分の後に、別の皇国商人が尋ねてきましたよ、ええ、情報共有が素晴らしく早い方達です。尊敬に値しますね。

 「初めまして、皇国商人にギルヌントです。珍しい品があると聞いて訪問させていただきました。お時間、よろしいでしょうか」

 今回は詳しい話を聞きました。皇国の商人事情についてです。

 まず、皇国ではドワーフの国と取引する商人を規制している。商品は王国内の各領地で店を構える中堅商会を抜擢し、大きくなったら交代をするよう皇国が定めている。利益が集中しないよう配分するのはいいことだ。

 ドワーフ国内で買付する場合、各商会で取り扱う商品を皇国が決めている。サイベルガさんは建材等の素材。ギルヌントさんは食器や鍋等の厨房機器。他にも服や防具、食材等で分業しているそうだ。

 皇国に戻るときに商人間で商品の販売を行う。ここで利益を出さないよう皇国が決めていた。皇国内では商品を満遍なく販売できるよう考慮していた。

 往復は全商家で一斉に行い、場合によっては領主や貴族の私兵が護衛を行う。これは商人に無理難題を言う貴族がいて、皇帝から『無理行って商人を使うのだから、護衛を無料で派遣するのは当然だよな。魔獣や盗賊に襲われて品を奪われた商家に賠償とか言わないよな』と貴族に圧力を掛けたのが始まりらしい。皇帝の采配は素晴らしいね。

 この皇帝、現役で二百歳以上らしい。過去にエルフ族と皇族が婚姻関係になり、その子孫らしく、エルフの特徴を受け継いでいると言われていた。他の皇族に長寿は無く、現皇帝だけらしい。だが、エルフとの直接交易は出来ないらしく、他の皇族からは世代交代の声も聞こえるようだ。しかし、臣下や民衆からの支持があり、聞こえる声も減っている。

 そのような話を聞いてから本題に入った。

 「そちらの大皿ですが、販売する品物でしょうか。もし販売するなら価格を教えていただけませんか」

 「これは販売より展示用として作ったので、今は売る気が無いですね。ですが、他にも皿はありますよ」

 そう言って工房に入る。皇国の人間に空間収納を見せるのは控えておいた。

 「これが販売用の皿、コップ等のセットになります」

 大皿一枚、皿十枚、スープ皿五枚、コップ五杯、小皿五枚だ。

 「皇国の商人さんから見て、この商品の価格はいくらが妥当と考えますか」

 物の価値など知らないので、相手に任せてみた。相手の言った価格で初回限定特価すれば万事大丈夫。

 「そうですね、金貨八枚でしょうか」

 「なるほど、金貨八枚ですね。それが最終回答ですか」

 「・・・金貨十二枚でいかがですか」

 「今回は初の取引ですから、ギルヌントさんの価格で取引しましょう。次回からは再商談ですからね」

 税を入れて金貨十四枚と大銀貨四枚をいただいた。自分で作った品が初めてうれたのだ。正直、嬉しい。彼が居なかったら飛び上がっていただろう。

 「ありがとうございました。またの来店をお待ちしております」

 カレーナと二人で外食に出かけた。いつものように酒場で定食だが、今日の定食は一段と美味く感じていた。


 翌朝、また宰相さんがやってきた。

 「昨夜、皇国から連絡があり、ドワーフ国に異世界人が居るのかと聞かれましたが、皇国の人間と接触しましたか」

 そこで昨日の出来事を話していく。商人が二人訪れて、一人が皿を買った、と言ったところで宰相さんが

 「二人が来たのは迷い人の確認でしょう。どこかで見かけて、一人目が直接会い確認する。迷い人だと思ったら二人目が入り再度確認する。二人の意見が一致したので皇国に報告したのでしょう。タツヤ様は皇国に対して知られても問題無いと考えていますか」

 昨日聞いた皇帝の話、宰相さんから見た皇帝との相違点を確認する。

 「商人の言っていた皇帝の話は真実です。私も同じように、優れた施政者と思っています。獣人やドワーフにも偏見のない人物だとも思っていますから」

 「それなら知られても問題無いですよね。何か悪巧みでもしてきますかね」

 「自国へ定住を誘う程度でしょうか。他には『一度でいいから訪問してくれ』とか言うと思いますが、タツヤ様の思うように対応して下さい。ですが、武力行使があった場合はドワーフ国として皇国と戦う用意はできています」

 物騒な話が聞こえたが、そこでカレーナが来たので

 「タツヤ様の思うままに行動して下さい。ドワーフ国は制限しませんから」

 そう言って帰った。

 まずは皿が売れた。それを喜ぶことにして他は気にしないこととした。



 タツヤの店から戻ったサイベルガとギルヌントはドワーフ国内の皇国商人を緊急招集していた。議題は迷い人について、その言葉だけで緊急招集に値するのだった。

 二人が確認した迷い人について報告と相談をする。もちろん母国への報告についての相談だ。

 結果、皇国へは『迷い人らしき人物』が表れたと報告し、全員が今後の行動指示を受けていた。

 「可能であれば皇国に連れて来るように」

 まずは国としての勧誘がはじまったのだった。同時に購入した皿を送るようにとも言われていた。

 翌朝、皇国商人の一人が走竜で皇国へと向かっていた。従者一人と護衛の冒険者三人を伴って。

 夜明けと共に出立したので、昼前には両国間の深い森にある街道に至っていた。だが、これまでなら一度は遭遇するはずの魔獣に一度も会わず、昼食の休憩となっていた。

 冒険者の一人が出立前に

 「持ち物からの気配が異様だな。受けたのは失敗だったか?」

 と仲間と話していたが、その気配で魔獣が近づかなかったとは思ってもいなかった。気配の元は達也の作った皿、それに使われた竜の釉薬から放たれていた。試作品に竜の骨を砕いて釉薬として塗っていたのだ。仕上がりに変化が無かったので忘れていたのだが。魔獣にとっては強者の気配として感じられ、決して近づいてはいけない気配だった。

 翌日の夕方、皇国内に入った一行であったが、魔獣に襲われなかったことを運で済ませていた。




 初めて売れた達也の皿は皇国の城へと運ばれていったのだった。


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