ドワーフ国で陶芸始めます。
王城で食事もこの朝食で最後だ。
柔らかいパンと肉入りスープ、サラダと健康に良さそうな献立である。これも異世界の知識が役立ってそうだな。
勢いよく扉が明けられる。『バーン』という効果音が似合う状況だ。
「素材!素材を頂戴!」
駆け込んできたのはシルバーナ王女だ。もう王女とか着けなくてもいいかもしれない。
「素材でしたらジェイナンド宰相にお渡ししました」
「嘘!彼に渡したの!」
その場で崩れ落ちるシルバーナ。予想通りの行動が見事だ。素直な性格なのだろう。
「どこに隠したの!教えなさい!」
「渡しましたが、どこに収納したのか私は知りませんよ」
じーっと見つめるシルバーナ、視線を反らせば負けだ、解っていたが反らしてしまった。
「知っているのね、教えなさい」
ん?シルバーナの後ろに人影?
スパーンと叩かれた頭。王妃様の登場だ。
「タツヤ様、おはようございます。娘がご迷惑を掛けたようで、申し訳ありません」
そう言うと王女の襟首を掴み、引き摺りながら部屋を出て行った。王妃様強い!
慌しいひと時も終り、王城を後にする。宰相さんに『着信拒否機能』を確認したが無かった。『煩いようでしたら王妃様に相談いただければ』と言われた。宰相さんでは防ぎきれないようだ。
店に向かい街を歩いていく。商人の店舗には販売している品が分るような絵を看板として掲げていた。個人商店には扉がなく、開けっ広げになっている。店内に野菜だったり肉だったり、商品が外から見えるようになっていた。地球の八百屋や魚やと同じだな。肉は氷の上に置かれており、鮮度を保つ工夫がある。
武器や防具を扱う店は扉に剣や鎧の絵を描いており解りやすい。
で、自分の店舗だが、作りは鍛冶屋なので扉タイプだ。扉には絵を描くより作品を張り付けることにした。
そう考えているうちに店舗に到着した。
ここが自分の城になると思うと感慨深いな。
仲にはテーブルと椅子が六脚、他には何も無く殺風景な状態。棚を作って商品を陳列しないと。
店舗は住宅兼用な造りで結構な広さがある。
建物は幅四十メートル奥行二十メートルだ。一階の半分は仕切られており、左側が作業場になっている。店舗側を半分に分割し奥には炊事場とトイレ、風呂が設置されていた。二階には炊事場から上がれ、四部屋あった。一番奥が広かったので自分の部屋とした。部屋には昨日運び込まれたベッドがあるだけだ。だが、布団が無い。忘れていたな、昼食も兼ねて買い物だ。
店舗脇は広い通路になっており、馬車が通れるほどだ。建物と合わせて五十メートルはあるだろう。裏は石畳みが敷き詰められた空間だった。馬車があったのだろう、奥行は十五メートル程だ。通路の反対側は土になっていたので、厩舎があったのかもしれない。
この空間なら収納にある木材を取り出しても大丈夫だ。収納内では加工ができないので、棚を作る木材は庭で加工する。
庭に接する扉は中からしか鍵が掛けられない。鍵の状態を確認して表に廻り、扉に鍵を掛けて昼食だ。
南門方面に進むと広場があり、屋台の串焼きや野菜が売られている。その場で食べられるようベンチも置いてあり、便利な場所だとカレーナが教えてくれた。広場の先にはキャンプ場のような場所があり、若い冒険者がそこで暮らしているらしい。獣人の冒険者が多いが諍いは少ないと言っていた。
他国の商隊も利用するので六番隊の見回りも重点的に行われているのだ。もちろん金のある商人は宿に泊まるので、使用人や護衛の冒険者が使っている。
カレーナの話を思い出しながら屋台を物色する。豚や牛の絵が描かれた屋台は串焼きや煮込み肉を販売していた。
うどんや蕎麦の屋台もあり、器の盗難防止に身分証の提示が必須だった。魔道具に身分証を翳してから器を受け取り、返却時に再度翳す事で盗難を防いでいると店主が教えてくれた。
醤油ベースのうどんに少々の肉が入った肉うどんを食べながら聞いた話だ。肉うどん大銅貨五枚、うどんは大銅貨二枚だった。
物足りないので串焼きを二本購入した。これは猪の魔獣で、壁の外側で多く狩れるため流通量も豊富。しかも冒険者や各隊員が狩ってくるので、ギルドが定額買い取りと販売をしており、手軽に食べられる肉だと教えてもらった。塩焼きとタレ焼きの二種類を頼んだが、どちらも美味かった。
串焼き屋の店主に布団を売っている店を教えてもらうが、一般家庭は自作だそうだ。販売なら洋服か布の看板がある商人の店だと言っていた。『普通は魔獣の革だが』と最後に言われた。そうか、羽毛布団など存在しないよな、と思いながら店を探しに向かう。
まずはベッドの骨組みを買った店だ。展示状態ではベッドだったので、マットレスの製造販売に関して知っていると思ったのだ。
「いらっしゃいませ。おや、昨日の坊ちゃんですね。今日は何をお探しで」
揉み手で接待する店主だが
「ベッド用のマットレスを買いたいのだが、販売している店を紹介してくれないか」
「えっ、マットレス無かったですか?少々お待ちください」
裏に向かって走っていく。もしかして付属品なのか?
「お待たせしました。運搬を忘れたようで申し訳ありません。直ぐにお届けします」
「付属だったのか、よかった、これで今晩眠れるな。今、家は不在で鍵が掛かっているので持ち帰るよ」
「収納袋をお持ちですか。宰相様のお知り合いに大変失礼しました。枕と掛け布団もお付けしますので、容赦して下さい」
「サービスしてくれるの、ありがとう。配達ミスも忘れるよ」
裏の倉庫にある寝具一式を収納する。
「どこに収納したのですか?」
今日は飛竜の装備だったが、鞄は持っていなかった。
「企業秘密です」
そう言って店を後にした。危なかった。収納鞄なのだから鞄が必要だと認識できた。戻ったら装備の一部として鞄を作ることにした。
その足で冒険者ギルドに向かい、登録することとした。
南門に近い場所にあるのが冒険者ギルド、ドワーフ国南支部だ。門に近いのは冒険者の便宜を計ってのこと。門外への出入りが多い彼ら、依頼の受付と報告がギルドなので、仕事場近くにあった。例の広場もギルドから近い場所だ。
扉を開け中に入る。正面にカウンター、右側にテーブルと椅子が並べてあり最奥に厨房が見えるが酒場だろうか。左側は掲示板、手前にはテーブルが並んでいるが椅子は無い。
カウンターはコの字形で何か書いてあるが読めない・・・文字が読めないのは不便だった。早急に勉強だと思っていた。
正面のカウンターに向かい歩を進める。一応フードで顔を隠すようにしたのだが、お約束の絡みは無かった。というか、人が居ないのだ。昼過ぎに酒場で飲んでいる冒険者は少ないらしい。そう少ないだ。三人組がこっちを見ているが動く気配は無かった。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが、こちらでよろしいでしょうか」
カウンターにはお姉さんが二人と初老の男性がいたので男性の前に向かい尋ねた。
「ここで問題ないぞ。一応確認だが十五歳になっているか?それ以下だと見習い登録になるが、大丈夫か」
「十五歳なので大丈夫です」
確か水晶で見た年齢が十五歳だった。誕生日は解らないが大丈夫だろう。
「そうか、この書類に必要事項を書いてくれ。文字が書けないなら代筆もできるが」
「文字は書けないので代筆をお願いします」
「解った。まずは水晶に手で触れてくれ。そこに名前と年齢、生まれた日、種族が表れる。こちらで用紙に書き写して問題無いか?」
「お願いします」
水晶に触れると名前等が浮かび上がる。門の水晶と違いスキルは表示されないようだ。
「コウダテ・タツヤでいいか」
「名がタツヤで家名がコウダテです」
「貴族だったのか?」
「いえ、平民ですよ?」
「うん?そうか、異人?なのだな」
男性職員が小声で話しかけてきた。気を使ってくれていた。
「ええ、隠しきれないと思いますが、一応は内密でお願いします」
「種族は人族、年齢十五歳、誕生日は二百二十二日、間違いないか」
「間違いないです」
誕生日は二百二十二日だったのか。
「過去に罪を犯したことは?」
「無いです」
「これからギルドの規則について説明するが、長くなるので、テーブルに移ろう。その後で登録となる」
二人で椅子に座り、二十分ほどギルドの規則を聞いていた。要は『罪を犯すな』『ギルド員同士揉めるな』『一般人に手を出すな』だった。
「これが冒険者証だ。最初はGランクだが依頼数によりランクは上がる。Gランクは一年で十回の依頼を受け達成しないと抹消される。その後、一年は再登録できないから気をつけろ」
と言われ冒険者証を受け取った。
「依頼は正面左に貼ってあるから、帰る前に見ていくといい」
そこで思い出した。従魔登録だ。
「すいません。従魔の登録もお願いしたいのですが」
「従魔登録か、こっちの書類だ」
「二匹いるのですが」
「二枚だな。こっちの代筆は有料になるが、大丈夫か」
「はい、いくらですか」
「一枚大銅貨一枚だから大銅貨二枚だ」
「問題ないです。お願いします」
「よし、従魔の種族は?」
「蜘蛛とスライムです」
「蜘蛛とスライム、それは種類だな。種族が必要なのだが、水晶で鑑定できるか?」
両手でポケットを叩くと二匹が出てくる。掌に載せて水晶の傍に卸した。
「確かに蜘蛛とスライムだが、小さいな。戦闘には向かいないが、大丈夫か」
「はい、大事な従魔なので問題無いですよ」
「蜘蛛に水晶に載るよう言ってくれ」
ガーダに念話で水晶に載るよう伝える。ピョンと飛び乗った。
現れた表示には
黒死蜘蛛王と出た。職員さんが固まった。珍しい種族なのだろうか。
「驚いたな。黒蜘蛛でも珍しいが上位種が黒死蜘蛛、その上位が黒死蜘蛛王だぞ。飛竜に匹敵する強さだ。戦闘に向かないとか悪かったな」
ガーダ用の書類に記入を始める。
「だが、小さいな。更なる変異種か」
「いえ、今は小さくなるよう言っています。本来はニメートル以上ありますね」
「そうか、キングだからな、大きさなど自在に操れるか。次はスライムを載せてくれ」
スライムのアブソは普通のスライムだったので問題なく登録が終った。
「従魔が問題を起こした場合、飼い主の責任となる。注意してくれ」
これでギルドでの用事は全て片付いた。あとは夕食だけだが家で焼肉の予定だ。ガーダとアブソにも食事を与えないと拗ねてしまうだろう。王城に居る間は食事抜きだったからな。
夕食前に宰相さんに通信する事にした。文字を教えてくれる人を探すのだ。このまま文字が書けないのは情けないからな。
そんな事を考えながら店に戻る。店の前にはカレーナが待っていた。
「お帰りなさい。ジェイナンド宰相に頼まれて本を持ってきました。異世界の文字で書いてあるので読めると言っていました。写本なので返却は不要とのことです」
カレーナの持つ本には『楽しい異世界の歩き方』と書いてあった。日本人が書いた日本語の本だな。ぱっと見たが著者名は無い。知り合いに行方不明者もいなかったし知り合いではないかと探してしまった。
「ありがとう。態々届けてもらったお礼に夕食を一緒に食べないか」
「いえ、戻らないと叱られます」
カレーナの扱いは奴隷だった。自分で判断はできない立ち位置だったのだ。
申し訳ないと言いながら帰っていった。
一人と二匹で焼肉を食べ、本を読んでいた。
この世界に転移で来た迷い人だったようで、いろいろな常識が書かれていた。特に注目したのはスキルについて。異世界人特有なのかこの世界の住人よりスキルの習得が容易に行えるらしい。言葉は理解できるが、文字が読めないのは特有の症状で、召喚者だけは可能になっていると書かれていた。文字を覚えるのは簡単で、名前が書けるようになると全てが可能になると書いてあった。試しにギルドで書かれた名前を真似て羊皮紙に書いたら、全てが可能になったようだ。巻末にある文字が読めたのだ。そこには『簡単だっただろ』と書かれていた。
異世界人にはスキルのレベルが存在せず、習得すれば現地人のレベルマックス相当らしい。あとHPとMPも表示されず、表示がある場合は鍛錬しても伸びないと書かれていた。
著者はご都合主義と書いていたが、基本は最大でそれ以外が表示されるのだろうと解釈した。最大でなければ召喚する意味が無いからな。
獣人の奴隷制度を嘆いている、増える人口への対応が難しいと。確かに繁殖率の高い種族は人口増加による飢餓が生じる。国土は人口が増えても広がらないからだ。だが、奴隷として虐待される状態も好まないが。くれぐれも能力を使って奴隷解放とかするなと書いていた。農作物や魔獣の肉も同時に増やせるなら試してみろとも書いているが、実質不可能なのは理解できている。
寿命についても言及があった。
獣人は六十年くらいが平均で、エルフは千年生きる場合もあるとか。ドワーフは三百年から四百年、人間は七十年が平均でレベルが上がった人は百五十を超える場合もあると書いていた。著者が本を書いている年齢は百六十歳、長寿だった。自分も長寿なのかと心配していた。長いと苦労も多くなるからだ。
明日は宰相さんに連絡して店番兼留守番の人材を紹介してもらおう。今日のように訪問者を店前で待たせるのは良くないことだ。
給料が気になるが、素材販売で賄える。掃除や料理も可能であれば対応してほしいが、贅沢は言わない。とにかく店番を探してもらう事にした。