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翌日、マーシャの機嫌がすこぶる良かった。
「さあ、今日中に集落を目指しましょう!」
女としての自信が漲っているようだ。
こういうことは普通、男の方が自信をつけるものだと思うのだが、ドニャーフ族では違うのだろうか。
オリヴィアもあれから胸の調子は良さそうだ。このまま速やかに完治してくれるとありがたい。
一行は昨日と同じルートで北上した。するとやはり毒草のホグウィードが立ち塞がる。
「なあ、集落ではこういう道を塞がれた場合にどう対処するものなんだ?」
「普通は魔法の使えるエルフが一人は付き添っているから、安全な遠距離から刈ることが多い。だが我は魔力が弱いゆえにそれができない」
「なら、魔法でやっちゃいましょう!」
ノリノリのマーシャが指先から光矢を飛ばして、危険植物の根元を打ち抜いた。
「なっ!? マーシャは魔法が使えたのか!」
「はい、わたしたちは使えます」
「たち――? ってことはニイトも!?」
「一応な」
隠すつもりはなかったが知られてしまったので遠慮なく使う。
二人で魔法を連射して前方を掃討する。
その後、あーくんを使って綺麗に掃除を兼ねて道を作る。
「なっ!? 植物が消えて道ができただと!? ニイト! これもお前がやっているのか?」
「ああ、もう面倒くさいから道は俺が作るよ」
「信じられない……こんな魔法は見たことがない。しかもヒュノムがエルフよりも巧みに魔法を操るなんて……。ニイト、お前は本当に人間なのか?」
「俺の場合はちょっと特殊なんだよ。あとこのことは内密にしておいてくれ。面倒な事態になるのはゴメンだ」
昨日とは違い、強引に最短ルートを進んでいるのでぐいぐい進むことができる。しかも毒草は調合素材として高値で売れるのでポイントまでぐいぐい貯まる。
食用の植物や服の繊維になりそうな草など、有益な資源は売らずに確保してある。
はじめは植物が暴れまわるとんでもない世界かと思ったが、こうして冷静になってみると資源が豊富な優良物件だったかもしれない。何せこの森を丸ごと売却したら億単位の資産になりそうなくらいだ。
「すごいな。夢でも見ているようだ。これなら集落に帰還することも十分に可能だ。――っと、危ない!」
オリヴィアに引っ張られてニイトはたたらを踏む。目の前に上空からでかいナマコのようなものが落ちてきた。
「ヒルバナだ! 麻痺毒で獲物を弱らせて血を吸うやっかいなヤツだ!」
オリヴィアは素早く虫ナイフで切り裂く。
「ありがとう。危ないところだったよ」
「なに、今の我にはこれくらいしか役に立てないからな。それにしてもこの武器は本当に切れ味が鋭くて使いやすい」
「集落では刃物はないのか?」
「もっぱら木や石を加工している」
ならば虫製の武器は高く売れるかもしれないと、ニイトは腹の中で算段を始める。
ヒルバナは一応食用だった。しかし食べる気になれないので、そのまま【売却】してしまう。
しばらく進むと、またもやオリヴィアに止められる。
「まて、あそこに擬態している敵がいる」
「どこだ?」
「木の枝だ。ナナフシバナと言って、枝の振りをして獲物に襲い掛かる。よく見たらコノハチョウバナもいるじゃないか。葉っぱに擬態して催眠効果のある鱗粉を撒くんだ」
危ないところだった。ニイトとマーシャの二人だけだったら見抜けなかっただろう。森に詳しいオリヴィアのおかげで取り返しのつかない事態にならずに済む。
ニイトとマーシャの魔法を同時に打ち込んで処理する。
さて、そろそろ日も暮れかかって来てニイトらは寝床に苦心する。
「どこで寝たらいいんだ?」
「普通は原生木がある場所で野営をするのだが……」
「原生木って?」
「大昔の災厄が起こる前から存在する自然な樹木のことだ。どういうわけかプラテインは原種の植物には危害を加えないし近づかない習性がある。だから我らは森の中に原生木を植林して安全地帯を多く作っているのだ」
「その原生木って地面から生えてないとダメなの? それとも切り落とした枝だけとかでもいいの?」
「むぅ~、実際に試したことがないからわからないな」
「なら試してみるか」
あーくんで周囲を整地して見晴らしを良くした後に、【購入】した薪材や切り株などでぐるりと囲んでみる。
「なっ!? き、きき、木が突然現れた!? しかもこれは原生の木じゃないか! いったいどうなっているんだ!?」
オリヴィアは目を白黒させて薪材を掲げた。
「このことは内密に頼む」
「無茶を言うな! こんなことができるなら人類の救世主になれるかもしれないぞ!」
熱く語るオリヴィアだったが、ニイトは特に興味なさそうに【転送】で取り寄せたベッドと毛布を並べて寝床の準備をしていた。
「じゃあ、少し早いけど明日に備えて寝るわ」
「おいっ! 待ってくれ、我はこのままだとまた気になって眠れないじゃないかっ!」
「それはちょうど良かった。夜の見張りを頼む」
「おいってばぁー! というかその寝具はどこから出した!?」
昨日と同じ流れで、ニイトは眠りこけた。
しかし、昨日の流れと同じなのは何もニイトだけではなかった。
深夜を過ぎたころ、
「す、すまないニイト。疲れているところ申し訳ないのだが、また胸が疼いてきたのだ」
両手に収まりきらないほどたわわに実った果実を揺らしながら、上気した頬のオリヴィアが四つん這いで迫ってきた。
……またかよ。
ピクッと猫耳を反応させて飛び起きるマーシャ。
「ニイトさま。どうか困り果てた彼女の願いをお聞き届けください」
「マーシャはそれでいいのか!?」
「ニイトさまの深すぎる愛は、一人で受け止めるには大きすぎます。多くの信徒たちで分け合わなければならないのです」
「信徒ってなんだよ! 勝手に変な宗教を作らないで!」
「それで、できましたらオリヴィアさんの次に、わたしも……」
それが狙いか。
やけに雌ヒョウのポーズが似合う二人に迫られるニイトだった。
◇
翌日。激流の川べりを登り続けた一行は見覚えのある景色に気付いた。
「この場所は確か……」
「オリヴィアさんが身を投げた場所です! 間違いありません!」
ついに出発点まで戻ってくることができた。
あとはこの高い崖を登りきればいい。しかし、ずいぶんと高い上に、頂上付近が反り返っているので容易には越えられそうにない。
「どうするのだニイト。もう少し登りやすそうな上流に向かうか?」
「いや、このまま登ろう。俺に策がある」
ニイトはあーくんをツルハシモードにして崖に足場を掘っていっく。
「ひとりでに足場ができていくぞ!? ……もう我は何も言わぬ。短い付き合いだが、ニイトが尋常ではない非常識な存在だと言うことは骨身に染みて理解した」
「人を変人のように言うのはやめてもらおう。それとこのことは内密にな」
「わかったよ。しつこい男だ」
おっぱいを揉んで下さいと迫ってくる誰かさんのしつこさ比べれば大したことないと思う。
楽々と崖を登りきった三人は、ついに出会った場所まで戻ってきた。
「二人とも、本当にありがとう。まさか再び崖の上まで戻ってこれるとは夢にも思わなかった。ここからは一本道だ。集落まで我が案内する」
ニイトたちは集落までオリヴィアに随行した。




