第4話 クーリングオフって効きますか?
そして迎えた芽吹きの祭り最終日。日も傾きそろそろ祭りも終わりに差し掛かるころラムアの町では恒例のあるイベントが開催された。
「ラムアの町恒例!種飛ばし豊作祈願大会~!」
その掛け声とともに町長が大人の身の丈ほどの長いの柄のついた大槌とシーソー、それに大量の種の入った袋を持ってきた。どうやらこのイベントはラムアの町限定のようでグリューナクは珍しそうな顔をしていた。
「芽吹きの祭りでは町ごとに特色があるのは知っていたけどこうして自分の目で見るとやっぱり面白いなあ」
町長はテンション高めにイベントの説明を始めた。
「皆知っているとは思うが、この説明もまた種飛ばし大会の一つだから聞いてくれよ?まず、この大会に参加できるのは成人以上の大人だけだ。こんなに大きな槌を子どもたちが振り回せば怪我をしてしまうからな。そして、参加したい者はこっちに並んでくれ。成人の儀を受けた青年たちは全員参加だからな。
さて、まずはこの袋の中に入っている種をひとつかみ取って、シーソーの地面に近い方の片側に置く。そして、この初代町長がダンジョンで拾ってきたと言われている『気まぐれ大槌』を使ってシーソーの種を置いていない側を思いっきり叩くんだ。そして、誰が一番種を広範囲にばらまくことができたかを町のみんなで決めて、1番になった者にはこの町で作られるエールを一番乗りで飲む権利を与えよう。あと、なぜかは知らないが、この気まぐれ大槌で叩くと時々すごい力が出ることもあるからそれを期待するのも良いだろう。さあ!誰が最初に挑戦するのかな?」
いつも見ていただけのイベントに参加できることにワクワクしていたラークはふと気まぐれ大槌を見て、何かを思い出したかのような大きな声を上げる。
「あーーっ!あの紋章!古代遺物についていた奴とおんなじだ!やっぱどっかで見たことあると思ってたんだよなあ」
その言葉を聞いたグリューナクは血相を変えて部下たちに指示を出し、また別の道具を持って町長のところに走って行った。
「町長殿、並びに町の皆様方。お楽しみのところ邪魔をしてしまい申し訳ない。ただ、この『気まぐれ大槌』がもしかしたら古代遺物かもしれないと聞けば我々第一部隊は調査をせざるを得ないのです。ほんの少しだけで良いので我々に時間をもらえないでしょうか」
グリューナク達の突然の行動に町の人たちの間には動揺が走り、互いに顔を見合わせていたものの、ともに芽吹きの祭りを心から楽しんだ仲間としてグリューナクの言葉を信用することにした町の人たちは気まぐれ大槌をグリューナクに手渡した。
「ありがとう。我ら帝国騎士の任務の一つとして未登録の古代遺物の調査と管理があるんです。見たところこれは登録されていない古代遺物ようだから調査をさせてもらいますね。ただ、調査と言っても時間はかからないのでごあんしんを。この『古代遺物の真名』という古代遺物の端末を当てればこれが何であるかすぐにわかるはずですので」
ぱっと見手のひらに収まるサイズの石板にしか見えないものを気まぐれ大槌に当てた瞬間石板が光り、音声でそれが何であるかを教えてくれた。
『ピピッ! ミーティアナンバー10993 ヒャクノオオツチ コウカ シヨウシャ ノ チカラ ヲ ランダム デ イチ カラ ヒャクバイ ニマデ ゾウフク サセル ナオ コノコウカ ハ ヒャクカイ ニ イッカイ ノ ワリアイデハッセイ スル』
グリューナクは先ほどまでの真剣な表情を解き、朗らかな表情で『百の大槌』を町長に返却した。
「お待たせしました。この古代遺物に目立った危険性はありません。ですので我々はラムアの町に百の大槌があることだけを記録いたします。お騒がせしました。さあ、種飛ばし大会を楽しんでください!あ、もしかして私も参加してもいい大会だったりしますか?」
グリューナクの言葉で町の人たちの間にどっと笑いが起き、種飛ばし大会はグリューナクを先頭にしていつも通りの雰囲気で始まった。流石は第一部隊の隊長なだけあってド派手に種を飛ばし、町の人たちは大いに盛り上がっていた。
さて、ついにラークの番となった。ラーク自身は確かに非力であり、[力]のステータスは凡人以下の12。それでもありったけの力を込めて百の大槌を握り締め、全力で振りかぶり、全体重を乗せて大槌をシーソーに叩きつけた。「町の人たちがずっと笑顔で暮らせますように」と心からの願いを込めた全力の一振り。そう、[運]のステータスが999もある男による『ランダム性のある』古代遺物による叩きつけ。そこに添えられた優しき願い。この一撃はもはや必然と呼べるものであることをこの時は誰も知らなかった。
その時、不思議なことが起こった。
全力で叩きつけられた大槌は信じられないほどの爆音を響かせてシーソーを跳ね上げ…たかと思いきや、なんと木製のシーソーが奇跡的な湿度含有率と衝撃によってまるでゴムのように一瞬しなり、種を真上ではなく真横に向かって音を置き去りにする速度で吹き飛ばしたのだ。
さながらそれは現代で言うところの散弾銃のようなもの。銃弾と化した種は奇跡的に町の人や第一部隊の騎士たちに一切当たることなく村の茂みに飛び込んでいった。
そしてその茂みからは悲痛な叫び声が聞こえたのである。
「ぎぃぃやぁぁぁ!」
叫び声を聞くや否やグリューナクは飛び出していき、部隊の何人かを連れて茂みの方に向かう。するとグリューナクから思いもよらない言葉が飛び出したのだ。
「こ、コイツは…!おい、ラーク、大手柄じゃないか!」
爆音の中心地にいたラークはまだ耳がキーンとしており、グリューナクの声があまり聞こえていなかったものの、自分を呼んでいるような気がしてグリューナクに近づいた。すると、茂みの中には全身に種が突き刺さり、白目をむいて泡を吹き、手足があら方向に折れ曲がっている人相の悪い男の姿があった。
「グリューナクさん?どうかし…って、どわぁ―!!!え!?こいつ誰!?ってか、俺のぶっ飛ばした種が当たっちまったんだよな!?やべえ!このおっさんに悪いことしちまった!すぐに手当てしないと!」
慌てふためくラークをグリューナクは諫め、あられもない姿になった男を部下の隊員たちに任せて引きずって行かせた。
「ラーク、大手柄だぞ。さっきの男は帝都で強盗殺人を何十件と繰り返し、指名手配をされていた『血濡れ鎌のジョゼ』だ。どうやら数日前に騎士団に追われて帝都から逃げ出し、この茂みに潜伏していたようだ。それに彼の荷物を先ほど確認したところ研がれたばかりの鎌が見つかった。おそらくいつものように強盗をし、町の人の命を奪うつもりだったのだろう。まあ、幸いなことに我々第一部隊の騎士団がいたことで祭りの期間中は襲撃してこなかったようだがね。だが、我々ですら気が付かなかったジョゼの潜伏を見破った挙句、一切暴れさせることなく無力化させるなんてとんでもない大手柄だよ!これは、近々騎士団から正式に賞金を渡すことになるだろう。おそらく50万ギルは下らないはずだ」
ラークはその言葉を聞いていて頭が混乱してきたが、とりあえずその場は引きつった笑顔でしのぎ、くるりと身をひるがえしてぶつぶつとつぶやきながら今起きた状況を整理し始める。
「ええと、まず『百の大槌』の確率100分の1で起きる[力]を強化する効果が発動した。あの叩いた時の爆音や種の速さを考えれば[力]が100倍になったと考えるのが普通だろう。そして種はなぜか上ではなく真横にぶっ飛んでいき、町の人や第一部隊の人たちには一切当たらず、逆に町の人たちを狙っていた凶悪指名手配犯に全弾命中して一撃で全身の骨をボキボキに折って意識を飛ばした。しかも、その指名手配犯には賞金がかけられていて50万ギル…すなわちラマンドルおじさんの薬屋の売り上げ3ヶ月分近くの賞金が俺のものに…
え!?これ、かなりやばくね!?いや、幸運であることに間違いはないんだが、非力な俺の力がなんやかんやあって屈強な男を一撃で昏倒させるって…あ、この【隠しスキル】の[運Lv.999]ってガチでやばいやつじゃん…え?下手するとこれのせいで死人出るくね?
…こいつは、想像以上のバケモンスキルを手にしちまったみたいだな。怖いからしばらくOFFにしておこう。うん」
かくして自身の持っていたスキルが想像以上の化け物スキルであることを確信したラーク。前途多難な学園生活もそのスキルがあれば一発逆転…って、OFFのまま行くの?
…最強スキルを手にしたはずの主人公が死に物狂いの努力で運をつかみ取る学園生活が今始まる!
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