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ゴブリン達が進軍する。先遣隊だ。そこにトラクターがつっこんでくる。ガソリンが燃え上がり大爆発し、沢山のゴブリンが巻き込まれる。それを引き起こした一人の少女が近くのゴブリンを切り裂きながら見栄を張る。「しばらく、付き合ってもらうぞ」
――その妖魔、ゴブリン達はただ己の悦楽を満たすためだけに進軍していた。
山に生えた鬱蒼として木々が光を遮り、薄暗い中。無秩序に蠢く者達がいた。
ゴブリンである。自らを大量発生せた洞窟から抜け出し、”上位存在”に命令された方向に向けて歩くその群れは、10や20では決して済まない数である。その歩みは整然とはしていない、決してその場に留まる程停滞している訳でもなかった。ただ色々な方向に視線を散らしながら、集団で歩く姿は、決して能率的でも効率的でもなかったが、ただその不気味さと数だけで、妖魔の軍隊と呼べる態を成していた。そう、一つの明確な目的をもって行動していた。
時折「グギャガガゴ」と喜びの色をにじませた叫び声が上がる。その様子をあえて表現するならば、ハイテンション、と呼ぶことになるだろうか。実際のところ、彼らが浮足立っていることは否定できなかった。
というのも、彼らは人間の村を探し襲う事を目的として進軍していたからだ。
彼らにとって人間の村とは、己の性欲を満たす事ができる生体が沢山いる場所、という以上の意味はない。妖魔の中でももっとも繁殖力旺盛な彼らにとっては、人間のオスもメスも、飼っている家畜も、等しく性行為の対象でしかない。そもそも性行為を子をなすためにしているという自覚すらなく、ただひたすらに生殖行為を行うための対象を探す生物なのだ。子が生まれるのは、たまたまの結果であり、親子と言った感慨すらない。
当然、ゴブリン同士でもまぐわいはする。だがそんな彼らにとって人間とは、いわばご馳走に見えるのだ。普段妖魔を相手にするよりも数倍の快楽を味わわせてくれる存在。それが彼らにとって他者の存在であった。
なお、現代であってもゴブリンに雌雄があるかは分かっていない。オスしかいないように見えるが、それでいてゴブリン同士の性交で子供が生まれる事も確認されている。また、仮に人間が被害にあって子供を産まされたにせよ、ゴブリンしか生まれない。人間を子をなす相手というよりは、子を宿らせるための巣か何かと考えているのではないか、というのが現在の有力な仮説となっている。
そんなゴブリン達が人間の村を目指して歩くのだ。テンションが上がらないはずもない。浮足立って歩く彼らの先頭が、開けた場所にたどり着いた。
明らかに人間が切り開き、歩きやすくした道に出たのだ。これを人間が作ったものだと想像することができるのも、故にこれを辿る事により人間の村へ辿り着くことができるのではないか、と発想することができるのもゴブリンという生き物だった。
整備された道に出れば、当然歩きやすくなる。次々と鬱蒼とした木々の間から抜け出しアスファルトが敷き詰められた道路に出たゴブリンは、人間がいると思しき方向へと歩みを進める。その足取りは軽く、ゴブリン達の心情を表しているかのようでもあった。
と、先頭らへんいいたゴブリン数匹が何かの音に気付いた。ブロロロロ、とでも表現すべき音はゴブリン達が向かっている先から聞こえてくるようだった。
その正体に気づく事もできないゴブリンは、音を必要以上に気にする事もなくただ前進する。
その音の正体はすぐに分かった。鉄の塊であった。それが猛スピードで突っ込んできていた。
ゴブリンの語彙にはなかったが、それはソルケ村にあったトラックであった。それが目いっぱいアクセルが踏み込まれた状態でゴブリンの群れに飛び込んできた。
「グギャッ!?」
「ゴバッ!」
「ゴェギャバッ?」
断末魔の叫びを上げられたゴブリンいただろう。しかし巻き込まれたゴブリンの大半は、自らに何が起きたのかを近くする間もなく、高スピードでぶつかってくるトラックにぶつかられ、下敷きにされ、はねられていった。
もっともトラックの方もずっとスピードを維持し続ける事はできなかった。大量のゴブリンの死体の切れ端がタイヤにまとわりつき、駆動系にまで至ってしまったのだ。ついにはタイヤが回らなくなる。と、猛スピードを制御しきれずにトラックの車体がつんのめり、勢いのままに横転した。
横転する直前にトラックから人影が飛び出していったのに、遠くのゴブリンは気づけただろう。だが近くにいたゴブリンにそんな余裕はない。横転し地面に倒れながらも、勢いそのままに横滑りするトラックは、更にゴブリン達を超重量で下敷きにしていった。
ようやくトラックが止まる頃には、そこにはゴブリンの死体だったものが多数地面にこすりつけられた、燦燦たる光景が広がる事になった。
そのトラックの餌食にならずにホッとしているゴブリンもいた。が、そんなゴブリンは足元にヌルついた液体が広がってきたのに気づいた。同時に鼻を衝く刺激臭。それが何なのかゴブリンが考えるよりも早く、横転しているトラックから火が上がり、それが地面の液体をつたって周りに爆発的に広がった。トラックに積まれていたガソリンが広がり、それにトラックの火が燃え移ったのだ。
「ガッガッガッ!!」
「ウギョガガガッガガ」
火だるまになったゴブリン達が地面を転がり、更に延焼範囲を広げていく。
――やがてそこには黒焦げになったゴブリン達の死体がそこかしこに転がることになった。
そんな残り火がある光景のなか、ゴブリン達の視線がある人影に集まる。トラックから飛び出てきた人影だ。
前述の通り、ゴブリンは主に繁殖を行うという衝動に常にとらわれている妖魔と言ってよい。だが、それは彼らが通常の思考ができない生き物であることを意味しない。トラックが目の前の燦々たる光景を作り出したことも、そしてその人影がそれを成した事も理解できていた。
故に、怒りが、憎悪がその人影に突き刺さる。
その人影――アルカはゴブリン達の視線に気づき、軽く肩と首を回しながら、ゴブリンに向かって言い放った。
「おーおーおー、ちゃんとヘイトは集められたみたいなだな。でもまあ――もうちょっと付き合えや」




