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短いので二話投稿(2/2)
「さぁさ、食べておくんなさい。ここの伝統料理ですよ」
そう言いながらマルチナの母がもってきた大皿に、アルカの目が引き付けられた。
今アルカがいるのは、マルチナの実家であった。木造で大きいとは言えなかったが、素朴な良さがある家だなとアルカは思っていた。小さな村であるソルケ村には泊まるところもないだろうからと、ラペルがディアニス社が建てた建物の一部屋を貸してくれるよう段取りをつけてくれたのだが、マルチナにご馳走させてくださいと引っ張られてきたのだ。
(まあ、別にいいか)
ソルケ茸を使った料理が食べられると聞き、アルカは素直にマルチナの招待を受ける事にした。名前こそ聞いた事はあったが食べた事はなかったソルケ茸を本場で、食べさせてくれるというのだ。興味をそそられない訳もなかった。
「伝統料理といっても、串を打って焼いただけなんですけどね」
隣に座っているマルチナがこっそりと耳打ちしてくる。どうやら豪華料理という訳でもないのが少し気恥しいらしい。子供の頃から食べているマルチナにはわからないのかもしれないが、アルカの目には大皿にのったソルケ茸はえらくおいしそうに見えた。
ソルケ茸は傘が大きく軸が短い。それを干して乾燥させたものが世界に出荷される訳だが、大きさが足りなかったり傷物だったりすれば、出荷できないと判定される。そういったものが村人に回ってくるのだそうだ。
小さいと言ってもアルカが知っているどの茸よりも傘が大きいソルケ茸を一口には少し大きい位に切り分け、数個をまとめて串にさして火で焙るのだ。塩を振られた茸の表面にうっすらと水が湧いてきたところが焼き上がりで、それが数個まとまって大皿に乗せられてアルカの前に運ばれてきた。
早速手を伸ばすアルカだが、心の内は結構な楽しみに思っていた。メビアに来る時から一度は食べたいと思っていたのだ。それを本場で食べられるなど、なんと贅沢なのだろうという思いがアルカにはあった。
口に入れて噛むと、シャクシャクともいうべき小気味よい歯ごたえと共に容易くぷつんと切れる。そして溢れてくるの汁からは、独特のなんとも言えない香気が立ち上った。よい塩梅に振られた塩が茸の旨味を引き立ててくれ、アルカはこれを食べるためだけでもここに来る価値はあったなと感じていた。
アルカが楽しんでいるのを見たのか、マルチナも串に手を伸ばす。食べても「いつもの味だ」と言わんばかりに表情を変えないが、それはもしかしたら勿体ないことなのか?とアルカは益体もない事を思った。
アルカと同じテーブルにはマルチナのパーティメンバーであるエド、ジェイク、ジョディもいたが、この三人もソルケ茸をこんな量食べたのは初めてらしく、感動した面持ちで食べていた。
しばらくは食事の音だけが食卓を支配したのは、身体を動かして疲労した食べ盛りの者達の集まりでは仕方もない。ソルケ茸を使っていないスープや、パン、焼いた肉なども一緒に食べながら、一行はそれぞれに満足した夕食を取ることができた。
と、少し余裕が出てきたのか、ソルケ茸を輪切りにしたものをパンにのせて焼いたものを食べながら、エドがアルカに声をかけてくる。
「し――アルカさんは、もう帰るんですか?」
七骸、と言いかけたのをマルチナに睨まれて軌道修正したエドが、少し冷や汗をたらす。アルカが好まないからと七骸という言葉を使わないようマルチナに言ったが、彼女はそれをパーティ内に報せておいてくれたらしい。
彼のもう帰るのかという言葉は、バイクで半日かけてきたのに仕事がもう終わったからすぐ帰るなんて大変ですね、というニュアンスでかけれたものであることは、アルカにも会話の流れで伝わってはいた。
が、アルカは手にしたコップからお茶を飲み、首を横に振る。
「いや、ちょっと気になる事があってな。それを調べてく」
「気になること? え、でも仕事はゴブリン退治だったんですよね。もう終わったじゃないですか」
「それはそうなんだけどな」
エドの言葉は純粋な驚きであり、別にアルカを邪魔に思っているために出たものではない。何より今回アルカは、エド達パーティ全体の命の恩人ともいえる立場なのだ。
確かに彼の言う通り、ただ仕事をこなすだけであれば、アルカは十分に果たしたと言えるだろう。
「なんか――なんか引っかかるんだよ。まぁ、勘だな」
上位実力者に勘と言われればそれ以上は聞けないと思ったのか、エドがパンの残りを口に押し込む。その代わり話に乗ってきたのはマルチナだった。
「手伝います!」
「はっ!?」
言葉に驚いたのはエドだ。そのせいで喉にパンが詰まったのか、慌てて水を流し込んでいた。それには目もくれずにマルチナが続ける。
「ここあたしの実家ですし、土地勘もあるんです。調べるなら一緒の方が良いですよね? あたしもつきあいます」
ニコニコと言うマルチナに、エドが「休みで来た筈なんだけどな……」と苦虫をかみつぶしたような顔で小さくつぶやいた。
***
「やあナナセ。偶然だな」
メビアのギルド事務所に赴いたナナセを見かけて、そこで何某かの用事を済ませた後らしいラペルが声をかけてきた。
いつもの如くパリッとしたスーツを着こなしており、顔に浮かぶ爽やかな笑顔は、事務所内の若い女性の熱い視線を集めているようだった。そのラペルが親しげに声をかけた事により若干の苦々しさを含んだ視線が自分にも飛んでくるのを感じて、ナナセは勘弁してくれと天井を見上げてしまった。
今日のナナセは外出するからと上着を着せられたものの、比較的近所でもあり古巣でもあるギルドへ立ち寄るだけなので、大分油断した格好をしていた。あまり櫛の通っていない髪や、野暮ったい眼鏡をかけているところなど、自分は敵ではないのだと判断する人たちばかりだったはずなのだから、こういった視線を受けるのは理不尽だとナナセはおもう。しかし一方で想定外の人間がイケメンと親しげにしてたから、逆にそれが気に障ったのかもしれないと思い至れるのもナナセだった。
「アルカ君、すごかったんだって?」
白い歯を見せながら笑顔でいうそれに、ナナセはいつもと変わらないテンションで答えた。
「ああ。そちらにも連絡が入ってるんだな」
「そりゃ、出張所があるしね」
ナナセ自身はアルカから連絡を受けていたので知っていたが、それを報告するためのギルド訪問でもあったのだ。それを依頼者のラペルの方が先に知っているとなれば、ギルドの立場が無いのではないかとチラリとナナセは思った。
「あまり悪い意味にとって欲しくはないんだけど、正直、一人にしか頼まないというからちょっと不安に思ってたんだよ。だけどさすがナナセ、適格だったね」
「……まあ」
妹の事を褒められるのは悪い気はしないが、ナナセはその言葉が自分に及ぶとそっけない反応しか返せなかった。
「肩の荷が下りた感じだね。ちょうど良いから食事でもどうだい? 依頼の成功のお祝いはもちろん、旧交を温める意味も含めてさ」
こういう誘いを自然にやれるからイケメンなんだろうなと思いつつ、ナナセは手にしたファイルを気にして首を横に振った。
「いや、用事がちょっと時間がかかるかもしれないんだ。また次の機会にしてくれ」
「おや、そうかい? じゃあ、後で予定表を送っとくから、空いている時間を選んでおいてくれよ」
ナナセの断りにラペルは全く気にせずに答えた。そしてナチュラルに食事の約束ができあがったことに、ギルド内からの厳しい視線が増えた感じがしたナナセは「勘弁してくれ」とこっそりため息をついた。
それじゃあ、と別れナナセがギルドの奥に進んでいこうとした時に、ラペルが思い出したと言わんばかりに振り返った。
「そうだ、会社に戻るつもりはある?」
「……は?」
「ディアニス・エンタープライズにさ。君ほどの能力だったら、私でも口利きできると思うんだけど」




