11-2 下へ、横へ、上へ
一行は、エタンギルが逃げていった舞台の奥を覗き見た。
舞台袖からぐるりと反対側へと繋がる通路の中央には舞台の奈落へと繋がり、その先は光の届かない深みへと続いていた。
時々そこからひっきりなしに風が吹き出し、大小、高低様々な音が混ざり込んで空間を支配していた。
「ダメですね。奥の方までは見えません」
リコードは小さく呟く。
『……既に奥へと行かれてしまった、か。だが、あのモノの好きに、させるわけにはいかない』
パラヴァリカと名乗った古代楽機は、リコードの声に反応してエタンギルを追うべく立ち上がる。だがその一歩を踏み出したとき、体のバランスを大きく崩し、前のめりに倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ッスか!?」
ビオナは倒れるパラヴァリカの前に回り込み、地面との衝突を回避させる。
『……力を、少し使いすぎた、ようだ』
「あの奥には何があるんスか?」
『……この世界を支えている四大楽器が一つ、『洞穴機関』に続いている』
その単語に反応できたのは、リコードだけだった。だがその反応の様子は遺跡マニアのワクワクではなく、顔面蒼白の戸惑い顔だった。
「リコード?」
タクトは思わず声をかける。
「まさか、いやしかし……」
リコードが戸惑っていると、肩を支えられて立ち上がったパラヴァリカは、借主のビオナを見て尋ねた。
『君は、楽士か?』
「そうッス! ご覧の通り、ドラム系を担当してるッス!」
『楽機と契約はしているのか?』
「まだッス! でも、近いうちに扱えるよう練習を積むッス!」
ビオナはパラヴァリカを支えているというのに、まだバスドラムを構えたままだ。いくらがらんどうの楽器とは言え、その姿勢はかなり偏った立ち方になっているはずである。
『面白いね、君。ちょっと借りてくれるかな?』
「へ?」
言うが早いか、パラヴァリカはその体を輝く光の束へと姿を変えた。
「ファ!? 何が起こってるッスか!?」
急に支えるべき体重を失った体が、一瞬大きく傾く。そして、四方に散った光の一つ一つが、ビオナと彼女の楽器へと吸い込まれていった。
「何ッスか!? 何ッスかぁ!?」
何度も叫ぶビオナが、一瞬静かになる。
「『譲渡』……か?」
仄かに輝くバスドラムが一瞬、強烈な光を纏う。そして光が消えると同時に、それはスネアドラムへと変わっていた。
『少し貸しておくよ。さあ、あいつを追うんだ!』
「何なんッスか! どういうことッスか!?」
「……まあ、今は奴を追うか」
パラヴァリカの案内をもとに、タクトたちは遺跡の地下深くへと降りていく。洞窟から響く音の大きさから浅い地層と侮っていたが、いざ潜るとひたすら縦穴を下るばかりで、もう空からの光が心もとなくなっていた。
『もうすぐ大きな横穴が見えてくる』
言われて左右に首を動かす。しかし穴はおろか風が動く素振りすらない。
「予想が正しいなら、その穴が開くのは『大音量が響いているとき』ですね?」
『楽士ならば造作なき。その際に奴の場所も割れよう』
大音量がどの程度のものか分からないので予想も立てられない中、すぐに動けるように全員身構える。カノンは足元に手を置き、タクトは壁に。ネンディは耳を軽く塞いだ。
「……来る!」
『左だ! そちらが開く!』
パラヴァリカの声に重なるように、背後から大音量の空気の波が襲いかかる。
最初に動いたのはカノンだ。床の振動を頼りに開く壁を察知し、開ききる前に穴の奥に体を滑らせる。
「さ、早……!」
カノンの誘う声がタクトの耳に届く前に、一行はとてつもない衝撃に見舞われた。
「……!! ……!?」
あまりの轟音に誰の声も耳に届かない。鼓膜と言わず脳と言わず、体の細胞全てが揺さぶられるその衝撃は、視界にも影響をおよぼし縦に横に光が歪む。
タクトは何とかカノンがいる方へと歩みを進めては穴に潜り込み、その場でへたり込む。他のメンバーも足取りがおぼつかない中何とか移動を完了する。しかし、壁は開いたままで閉じる気配はない。
『……、……! ……』
パラヴァリカが何かを言っている振動だけが楽士章を揺らすが、それを聞き分けられるほどまだメンバーは成熟していない。リコードはそれを何とか理解し、一行を穴の先へ行くように促す。プレシアだけがいつも通りの涼しい顔なのがなんともシュールだ。
ようやく縦穴以外の洞窟へと体を滑らせ先を進むタクトたちは、徐々に狭くなる洞窟に違和感を覚え始めた。
楽器の基本構造として、音を出す部位へ進むごとにその管は細くなる。
入ってきたあの舞台裏の入り口がどこに相当するかはわからないが、そこから考えてもかなり狭く、細くなっていることは明白である。
ようやく轟音が消えたので、タクトはパラヴァリカに問いかけた。
「教えてください。あなたはなぜここで劇場を守っていたんですか? どうしてエタンギルがここに来たんですが?」
『質問の意味が良く分かりません。私はあの侵入者を排除しなくてはいけません』
何故排除しなくてはいけないのか、それを聞きたいと思ったタクトは、次に告げられた言葉に耳を疑った。
『でなければ、せっかく封印した天楽が、再び世界に晒されてしまう』
ここまでお読みいただきありがとうございます。
↓にある☆☆☆☆☆で評価、感想、いいねなどで応援いただけると励みになります。
ぜひよろしくお願いします。




