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16-1 背中を追って

 光が収まるのと、音が止むのはほぼ同時だった。

 チカチカする目を無理やりこじ開けて空を見上げると、巨大な鳥が一羽、空を覆っていた。


『やはりそうか、我らより先んじてフェルトマに来ていたとは。我らの目に狂いはなかったわけだ』


 ゼフォンの声は上空の、鳥の方から聞こえて来た。


「なに、あれ。帝王の声がするんだけど」


 カノンも気づいたようだ。光が収まり全員が声のする鳥を見上げていると、それは徐々に降下し、フェルトマの正面に着地した。

 よく見ると、それは鳥の形をした建造物だった。首に当たるところが開き、階段が現れると何人かが地上に降りてこちらへと向かってきた。


「久しいな、サレインノーツ!」


 タクトは懐かしい楽士団の名前を聞いた。

 声の主はやはりゼフォンだった。彼が数名を引き連れて降りてきたのだ。


「今はレイヤーコードだ、帝王様よぅ」


 一瞬たじろいだタクトに代わってノイゼルがしゃしゃり出て答えた。


「おおう、其方がノイゼルだな? リコード殿から聞いておるぞ! この『発掘移動型巨大天空劇場』を発見できたのも、そなたら先人の導きがあったからだ! 感謝しておる」


「はっく…… 劇場!?」


 タクトは、改めて建造物を見る。


「わが帝国が各地で巨大楽器や楽機を接収していたのを覚えておるか?」


(そういえばそんな話があったな)


 タクトはコダの街で初めてディフロントと出会ったときのことを思い出した。


「其方たちが組合を離れてしばらく後に、トンデモない楽機獣が世界中を襲ったのだ。それによって各地の国響楽士団とフィンテール・メルハンディーが総出で対応に出たのだが、全く歯が立たなんだ。そこで我が帝国の巨大楽器に組合が目をつけたのだ」

「元から移動式劇場という形で帝国が押さえていたらしいんだ。だが、出力的にもっと大きな出力機関があれば空を移動することもできそうだと気が付いてね。いっそ楽士団たちを乗せて空から演奏できる劇場にグレードアップしようと調整させてもらったんだ」


 もはやそれは調整のレベルではない。ゼフォン、リコードの説明にレイヤーコードのメンバー全員はそう思った。


「しかし、まさかダルンカートのパイプオルガンがメインエンジンになるとは思わなかったぞ! 数少ない、無事な劇場であったのも救いだ!」

「あ、そういえば今さらっととんでもない事言いましたよね!? 神獣がどうとか、天奏楽士が歯が立たなかったとか!」

「シンジュー? ……どうやら、其方らの情報も統合する必要がありそうだな。とりあえず乗れ! 我らが空飛ぶ劇場『オクタービート』に!」


 ゼフォンは両手を広げてタクトたちを招待した。

 アンクたちがぞろぞろと乗り込んでいく中、タクトとノイゼル、カノンとネンディは目配せしながらちょっとずつ後退りしていた。


『どうするタクト? 乗っちゃう?』

『リコードもいるなら一旦また別行動でもいいんじゃあないかな?』

『ウチも賛成。こないだの会議抜けからそう経ってへんし』

『オレ様も、まだ別行動がいいと思う』


 しかし、数歩下がったところで何かにぶつかった。彼らの後ろには見慣れた顔がいくつかあり、それ以上の後退を妨げていた。


「久しぶりね」

「ま、マーサさん!?」


「先生、観念して」

「ポーリア、お前、なんでここに!?」


「来てもらうッスよ」

「ビ、ビオナはん!?」


「手間を掛けさせるな」

「げっ、ディフロント……」


 抵抗虚しく、レイヤーコードのメンバーもひとり残らずオクタービートに連れ込まれていった。




 キツく厳しいお叱りと無事であった安堵を伝えられると、双方の情報交換が行われた。

 とりわけタクトたちが驚いたのはポーリア含め他の国響、巡海楽士団メンバーが神獣の襲撃によって散り散りになり、飛行劇場へ避難できた学士も僅かな人数だということだ。


「オクタービートの完成がもっと早ければ巡海楽士団あたりは救えたかもしれんが、いかんせん神獣の進行が早すぎた」


 タクトはゾッとした。


「……あの、間に合わなかった人たちは?」

「当然、音に還った」


 背筋が凍る。わかっていたはずなのに、横に置いてきた現実が深く胸に突き刺さった。


「タクト、もう一度言う。これは戦争だ」


 リコードが冷たく語った。


「一般の楽士やそれに準ずる者たちは、少なくとも奏で(たたかい)方を知っている。だが、その技術を持たない人々は、戦場に晒されればただ消えるのみ」


 わかっている、いや、わかっていたつもりだった。

 それでもタクトは、胸のうちにある想いに嘘をつくことはできなかった。


「だが、其方らのしてきた事全てが無駄だった訳では無い。結果論ではあるが怪音律四重奏(カルテリオス)の一角を落とし、神獣の復活を遅らせ、今なお神獣の完全な復活を妨げておる!」


「……へ?」


 タクトは素っ頓狂な声を上げた。それを見たゼフォンはニヤリと笑う。


「リコード殿らとの調査によれば、神獣の(いなな)きによる音律(こうげき)は、例え一級楽士といえど抵抗できず音へと還るほどの演奏(いりょく)らしい。だが、今なお抵抗できている事実は、神獣はまだ完全な力を取り戻しておらぬのだ」

「それは…… 心当たりはありません」

「いや、それに関してだけどね。僕の推論が正しいなら君たちのおかげだし、君たちの今後の目標にも大きく関わる」


 その言葉にレイヤーコードらは身を乗り出す。彼らの目標とは、現時点で一つしかない。


「神獣の演奏に乱れがあるそうなんだ。あの音怪の中に潜む別の音…… 〝彼〟が息づいている証拠なんじゃあないかなぁ?」

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