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1567年3月 八木城での軍議



永禄十年(1567年)三月 丹波国(たんばのくに)八木城(やぎじょう)




 永禄(えいろく)十年三月七日。高秀高(こうのひでたか)率いる軍勢が三好長慶(みよしながよし)の本拠・河内(かわち)飯盛山城(いいもりやまじょう)の前線拠点である交野城(かたのじょう)の攻略戦を行っていた頃、大高義秀(だいこうよしひで)指揮する丹波路の軍勢は、軍勢の集結地点である内藤宗勝(ないとうむねかつ)の居城・八木城に集結。そこで摂津(せっつ)方面の三好勢攻略の軍議を開いた。


「まずは皆、よくそろってくれた。俺がこの丹波路の指揮を執る大高義秀だ。」


 八木城の本丸館内に集結した諸将を目の前に、義秀は上座に置かれた床几(しょうぎ)に座りながら参列した諸将に対して自己紹介を含んだ挨拶をした。するとその言葉を受けた上でこの八木城主でもある宗勝が、参陣した諸将を代表して義秀に対して言葉を返した。


「義秀殿、此度の三好攻めこの内藤宗勝、心よりお待ちしておりましたぞ。」


「そうか。宗勝、お前の力を当てにしてるぜ。」


 義秀は言葉を掛けてきた宗勝の方を振り向いてそう言うと、その言葉を受けた宗勝は義秀に対して頭を下げた後に言葉を返した。


「はっ。それで義秀殿、ここに控えますのが八上(やがみ)城主・波多野元秀(はたのもとひで)殿にございまする。」


 宗勝は義秀に対してそう言うと、自身の隣の床几に座っていた一人の武将に視線を向けた。その武将こそ、この八木城の元に参陣した八上城主・波多野元秀であった。元秀は宗勝からの視線を受けると、自身も改めて義秀に対して頭を下げた後に挨拶をした。


「お初にお目にかかる。丹波八上城主・波多野元秀にござる。」


「お前が波多野元秀か。その名は良く知ってるぜ。」


 自身の挨拶を受けた義秀からの返答を聞くと、元秀は頭を上げて義秀に視線を向けるとそのまま言葉を義秀に向けて発した。


「お言葉、有難く存じまする。我が波多野勢は将軍家のご意向に従い、ここにおわす内藤殿との禍根を水に流して三好征討に倶奉(ぐほう)致す所存。」


「よく言った!今後はお前の軍勢の力を当てにさせてもらうぜ。」


「ははっ!」


 義秀は元秀の心意気を汲み取って元秀にそう言うと、元秀はその場で返事をした後に再び頭を下げた。その後、義秀に代わってその席上で発言したのは、義秀の軍勢に付随している観音寺(かんのんじ)城主の三浦継高(みうらつぐたか)であった。継高はこの義秀が指揮する摂津路の副将を務めていた。


「摂津路の副将を務める三浦継高にござる。まずは総大将に代わってこの(それがし)と御前様から発言させていただく。本日ここに参集した諸将はここにおわす大高兵庫頭だいこうひょうごのかみ殿の指揮下、明日より丹波の国境を越えて摂津に攻め込む!」


「…そこで今日は諸将に対し、今後の予定をお伝えします。重晴(しげはる)、絵図を。」


「ははっ!」


 継高の後に義秀の正室・(はな)が発言すると、華はその場にいた家臣の桑山重晴(くわやましげはる)に対し、机の上に絵図を広げるように促した。重晴はこの促しを受けるとその机の上に摂津国内の絵図を広げ、それを見た華は指示棒(さしぼう)を手にして諸将に今後の手立てを説明し始めた。


「我らが軍勢は明朝、この八木城を発ち堀越峠(ほりこしとうげ)を経て能勢郡(のせぐん)に進入。そこで我らに従う手はずとなっている丸山城(まるやまじょう)能勢頼道(のせよりみち)、及び隣の川辺郡(かわべぐん)山下城(やましたじょう)城主・塩川国満(しおかわくにみつ)と合流します。」


「なるほど…御両所(ごりょうしょ)は摂津国境を守る国衆。彼らが味方に付いたとなれば摂津国内に用意に進入できまするな。」


 この華の説明を受けて、摂津路の軍勢に急遽加勢した浅井高政(あざいたかまさ)が義秀の方に視線を向けながらその場で発言すると、それを聞いた義秀が自身に発言してきた高政の方を振り返りながらこう言った。


「それだけじゃねぇぜ。俺たちの進軍開始と同時に荒木村重(あらきむらしげ)伊丹親興(いたみちかおき)、村重配下の中川清秀(なかがわきよひで)を挙兵させて摂津国内を大いにかき乱させる。そうすりゃあ国内の中小の城砦は、俺たちに対して主だった抵抗は出来なくなるだろうぜ。」


「のみならず、明日になれば東播磨(ひがしはりま)別所安治(べっしょやすはる)殿が有馬郡(ありまぐん)有馬則頼(ありまのりより)殿を伴って参陣して参ります。そうなればより戦況は優位になるはずです。」


 義秀の発言に連動するように華がその場で発言すると、その説明を受けて宗勝が華に対して質問をした。


「然らば御前、手筈は分かり申したが差し当たっての目標は如何なる物にございまするか?」


「私たちの目標は二つあります。一つは池田長正(いけだながまさ)の居城である|池田城、そしてもう一つは三好長逸(みよしながゆき)が城代として入っている芥川山城(あくたがわやまじょう)です。」


 華は宗勝の問いかけに対し、指示棒で絵図の箇所を個々に指しながら返答した。華の発言を受けてその目標を聞いた坂井政尚(さかいまさひさ)がその場で言葉を発した。


「なるほど…その二つが摂津方面の主目標にございますな。」


「その通りだ。という訳で明日からは摂津国に進入後、軍を二手に分けてこれらの城を攻略する。長逸の芥川山城方面は継高に政尚の手勢と浅井勢と内藤勢、それ朽木(くつき)勢に任せるぜ。」


「ははっ、芥川山城攻めはお任せくだされ!」


 義秀がその場でそう言うと、その軍議の席に列していた幕府奉公衆(ばくふほうこうしゅう)でもある朽木元綱(くつきもとつな)が言葉を発して答えた。その言葉を聞いた義秀は元綱の方を見た後、こくりと頷いた後に言葉を続けた。


「そして池田城には残りの軍勢で向かう。明日からは戦が立て続けに続くだろうが、それに備えるためにも今日はゆっくりと体を休め、明日からの戦に備えろ。良いか!」


「ははっ!!」


 義秀の問いかけを受けて軍議の場にいた諸将が一斉に返事を返すと、その義秀の言葉の後に副将である継高が諸将に対してある訓示を伝えた。


「なお、武具兵糧に関しては事前にこちらで整えた補給網で各軍勢に対して随時補給する。よって摂津国に進入後は村々での乱取り掠奪の一切を禁ずる!各将はそれを肝に銘じておくように!」


「はっ!」


 その訓示を受けた諸将はその場で再び返事を発し、その意向に従う事を表明した。その後軍議が終わると諸将は明日の出陣準備を整えるべく、各々の部隊の所へと帰っていった。




 その後、本丸館に残った義秀は、その場に義秀たちに同行している忍び頭の中村一政(なかむらかずまさ)を呼び寄せると、一政に密書を手渡した後にこう伝えた。


「…じゃあ一政(かずまさ)、村重たちに明日になったら決起するように伝えてくれ。」


「はっ!では御免!」


 一政は義秀の言葉を受けると、その場で一礼をした後に颯爽とその場から去っていった。一政がその場から去った後、華が義秀に対して早馬から伝えられた情報を伝えた。


「…早馬の報告によれば、ヒデくんの軍勢は前線の交野城を一日で攻め落としたそうよ。」


「さすがだな。ならこっちも負けるわけにはいかねぇな。宗勝、摂津国内で気を付けるべき城はどこだ?」


 義秀は華の言葉を受けて返事を発すると、その広間の中にいた城主の宗勝に対して摂津侵攻に際しての最重要拠点を尋ねた。


「やはり長逸が守る芥川山城にございましょう。芥川山城は本丸の周囲に大小三十の曲輪を構えた山城にて、その規模は飯盛山城に劣らぬかと。」


「そうか…ならそこを攻めるのは厄介だな…」


 宗勝の言葉を受けて義秀はその場で顎に手を掛けて考え込むと、ふとある事を思い出してその場にいた継高に対して、確認するように尋ねた。


「…おい、確か真田幸綱(さなだゆきつな)は秀高の方に従軍していたか?」


「はっ、陣立てによればその様に。」


「義秀殿、何か良い策でも思いついたので?」


 その問いかけを聞いた宗勝が義秀に尋ねると、義秀はふっとほくそ笑みながら宗勝に対して言葉を返した。


「あぁ。上手く行けば短い期間で城は落ちるぞ。」


 そう言った義秀の表情は自信に満ち満ちており、それを傍らで見ていた華もふふっとその場で微笑んでいた。そしてその翌日である三月八日、遂に義秀の軍勢は八木城を発して摂津国境を踏み越え、摂津国内の三好領へ侵攻を始めたのであった。





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