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1565年5月 上洛への最終調整



永禄八年(1565年)五月 尾張国(おわりのくに)名古屋城(なごやじょう)




 永禄(えいろく)八年五月一日。高秀高(こうのひでたか)の居城・名古屋城では今月に行われる(みやこ)への上洛戦に向けた最終調整を兼ねた会議が名古屋城の本丸御殿・秀高の書斎にて行われていた。


「…各地の戦備えは順調に行われているよ。尾張・美濃(みの)伊勢(いせ)志摩(しま)飛騨(ひだ)の五ヶ国の各城主からは各々の動員できる軍勢の概算が上がってきてるね。」


「そうか…大体どれくらいの数を動員できるんだ?」


 その書斎の上座にて膝を机の上に置きながら秀高が下座の小高信頼(しょうこうのぶより)に対して詳しい情報を尋ねた。すると信頼は膝の上に広げられている各城主からの報告書に目を通して軍勢の数を伝えた。


「代表的なところだと南伊勢(みなみいせ)北条氏規(ほうじょううじのり)殿の六千に北伊勢(きたいせ)滝川一益(たきがわかずます)が五千、それに東濃(とうのう)遠山綱景(とおやまつなかげ)殿の五千だね。あとは殆ど三~四千は動員できるって書いてあるよ。」


「これに旗本の軍勢八千を合わせれば…上洛軍は八万五千ほどに膨れ上がりますな。」


 こう発言したのは下座にて腕組みをしながら計算した筆頭家老・三浦継意(みうらつぐおき)であった。この言葉を聞いた山口盛政(やまぐちもりまさ)も継意に続いて発言した。


「それに徳川(とくがわ)の援軍が加われば上洛軍は十万余りにまでなりまする。十万という数が京に向かうなど応仁(おうにん)の乱より聞いた事がありませぬ。」


「まぁ、その軍勢を全て動員して京に向かえるわけじゃない。せいぜいそれより千~二千は少ない軍勢の数にはなるだろうな。」


 秀高が上座から盛政に対して言葉を返すと、その言葉を聞いていた信頼が傍らから算盤(そろばん)を取り出して珠をはじきながら計算した。


「とすると…現実的な数字としては六万弱になるだろうね。それでも、徳川の援軍を加えれば七万にまでなるんじゃないかな?」


「そうか…高俊(たかとし)、父から徳川殿の事について何か聞いていないか?」


 と、秀高はこの会議の席に出席していた坂部(さかべ)城主・久松高俊(ひさまつたかとし)にこう尋ねた。高俊の父・久松高家(ひさまつたかいえ)徳川家康(とくがわいえやす)の継父であった為である。


「はっ…我が父からの申し出によれば、徳川勢は九千ほどの軍勢を用意するとの事にて、総大将は家康殿自らが執るようでございます。」


「そうか…となれば、上洛軍はやはり七万あたりになるな。」


 秀高が高俊の情報を聞いてそう言うと、秀高はそのまま信頼に先ごろから任せていた方策について尋ねた。


「信頼、それで肝心の後方支援についてはどうなった?」


「うん、丁度重臣の方々もいるみたいだからここで説明するね。」


 そう言うと信頼は秀高の上座に控えていた自身の妻・(まい)に目配せをしてその場に絵図を広げさせた。すると信頼は指示棒を片手に居並ぶ重臣たちに対して説明を始めた。


「まずこの尾張などの現在の高家の領国の主要な街道筋、東海道(とうかいどう)中山道(なかせんどう)伊勢街道(いせかいどう)北国街道(ほっこくかいどう)などの道筋に一里(約4km)間隔で(まぐさ)や兵糧を蓄える兵糧庫を配置し、ここから行軍中の軍勢に兵糧等を支給させる。」


「兵糧庫ですか、そこから軍勢にはどうやって支給させるので?」


 と、その意見に対して客将の真田幸綱(さなだゆきつな)が意見を述べると、信頼は幸綱の方に視線を向けて返答を返した。


「そこで先の評定で名乗りを上げてくれた加賀井(かがのい)殿や伊木(いぎ)殿の出番となるんですよ。この美濃と尾張の兵糧庫の管理を仙石(せんごく)殿を合わせた三名の率いる人足の管轄とし、各々の兵糧庫に軍勢が到達すればそこで人足たちが軍勢に兵糧等を支給するんです。」


「なるほど…そうなれば軍勢によってはそこで飯を食べて休息を取り、次の行軍に備えることが出来まするな。」


 その説明を聞いた山口重勝(やまぐちしげかつ)がこう言うと、その言葉に反応した盛政が信頼に対してある事を尋ねた。


「信頼、先程美濃と尾張についてはと申したが他の地域はどうなっておるのだ?」


「それについては各地を治める城持大名達が各々の街道筋に同様の兵糧庫を建てています。それと兵糧庫の兵糧等が少なくなれば、補給拠点とした各城からすぐさま補充されるので、兵糧の心配は無くなる訳です。」


「なるほどな…それほどの対策があれば行軍の速度も上がるであろうな。」


 その方策を聞いた継意が感嘆してそう言うと、その言葉に信頼の傍にいた村井貞勝(むらいさだかつ)と盛政がそれぞれ口を開いて発言した。


「ご家老様、当方が行った試算によれば今までは四里(約16km)弱ほどしか一日に行軍できませんでしたが、この改善によって最大六里(約24km)ほどまでは行軍が可能となりました。」


「それに加え、此度信頼殿の思案を取り入れて新たに馬車(ばしゃ)という馬に荷車を曳かせるものを開発いたしました。これらに兵糧等を積み込めば各軍勢への兵糧支給や兵糧庫への物資補充の速度も飛躍的に向上しましょう。」




 この信頼の方策を実行するにあたって、信頼はこの時代の日本には無かった馬車の技術を導入した。


 この馬車を走行させるには悪路や蛇行する道を改善させる必要があったが、信頼は兵馬奉行に任じられた以降貞勝や加賀井重宗(かがのいしげむね)らと軍道の整備を行い、道中の落石を取り除き蛇行する道を直線に整備するなどの街道整備を同時に行っていたのである。




「ふむ…馬車の導入に軍道の整備。これらが整ったならば軍勢の行軍速度もより早くなり、またその馬車によって前線に矢玉が容易に届くようになるのう。」


 継意が信頼らの言葉を聞いた上でこう発言すると、信頼はその発言を聞いて頷いた後に言葉を続けた。


「はい、それ以外にもこちらで補給拠点に指定した墨俣(すのまた)伊木山(いぎやま)勝山(かつやま)に加え、新たに尾張国内に築城した岩倉城(いわくらじょう)などの城下に整備された職人小屋や馬小屋・鉄砲鍛冶によって馬や鉄砲などが生産され、今度の戦からそれぞれの軍勢に均一に支給されます。」


「ほう、馬や鉄砲が揃う様になれば俺たちの力も飛躍的に増すな。」


 その信頼の言葉を聞いて大高義秀(だいこうよしひで)が口を挟むと、それを聞いた秀高が首を縦に振って頷いた後に信頼にこう言った。


「信頼、僅か七ヵ月余りでここまで整備するとは見事だ。心から感謝する。」


「そんな、僕は秀高の天下統一の為に尽力したまでだよ。」


 その言葉を聞いた秀高はその場にいた重臣一同に対してこう宣言した。


「よし、皆聞いてくれ!この信頼の方策によっていよいよ上洛の体制は万全となった。上洛軍の出陣は今月二十日とし、その際軍勢を二手に分ける事にする。」


 秀高はそう言って上座から降りて下座のところまで歩いてくると、傍らの信頼から指示棒を受け取って立ちながら絵図を示して説明し始めた。


「伊勢・志摩の諸将は鈴鹿峠(すずかとうげ)から、尾張・美濃・飛騨の諸将は関ヶ原(せきがはら)口から近江(おうみ)へと進軍する。継意、その旨を一益らに早馬で知らせてくれ。」


「ははっ!」


 秀高は継意に対して指示を飛ばすと、視線を高俊の方に向けて高俊にもこう指示した。


「高俊、父の高家に徳川軍については二十五日までには美濃大垣城(おおがきじょう)に参集するよう伝えてくれ。」


「はっ!その旨しかと我が父に伝えます!」


 この高俊の返答を聞いた秀高は首を縦に振って頷き、今度はそのまま視線をその場にいた竹中半兵衛(たけなかはんべえ)へと向けた。


「半兵衛、策の実行は本隊出陣と同時に行う。それまでに手勢を率いて浅井(あざい)領内に侵入しろ。決行の時期はそちらに任せる。」


「ははっ、しかと承りました。」


 秀高はこの半兵衛の言葉を聞くと、首を縦に振って頷いて改めてその場の一同に対して言葉をかけた。


「良いか、出陣までまだ日にちがある。それまで各々万事抜かりなく出陣準備を整えてくれ。よろしく頼むぞ。」


「ははーっ!」


 その場に居並ぶ重臣たちは立っている秀高から言葉を掛けられてその場で頭を下げて一礼した。こうしてここに秀高は上洛軍進発の日時を大々的に示し、その日程が各地の諸大名に知れ渡った。それを受けて全国の諸大名の視線が上洛を行う秀高へと集まり始めたのであった。





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