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1564年11月 後方支援部門



永禄七年(1564年)十一月 尾張国(おわりのくに)名古屋城(なごやじょう)




信頼(のぶより)、その後方支援専門の部隊とはどういう物じゃ?」


 名古屋城の本丸御殿の大広間。小高信頼(しょうこうのぶより)が打ち出した方策を隣で聞いていた三浦継意(みうらつぐおき)が信頼に対してその内容を問うた。


「はい、後方支援専門の部隊とは即ち戦の際に必要な武器・弾薬や矢玉などの軍需品から馬に食わせる馬草(まぐさ)に兵糧などの消耗品、それに柵に使う木や竹束用の竹などを管理し、それらを戦場まで迅速に運んだり進軍中や合戦中の軍勢に武器弾薬・兵糧を支給する部隊の事です。」


「管理というのはどういうことです?」


 信頼の真向かいの席に着座していた北条氏規(ほうじょううじのり)が信頼に対して発言すると、信頼は氏規の方を振り向いて発言した。


「簡単に言えば今まで職人たちに任せてきた武器の生産や兵糧の管理調達など一切を統括する物を作ろうというのです。」


「それに付いては俺からも意見を言わせてくれ。」


 と、その信頼の言葉に続けて上座に座る高秀高(こうのひでたか)は下座の家臣たちに向けて自身の意見を述べた。


「例えば今までは軍馬や鉄砲の調達をする際は馬商人や畿内(きない)の鉄砲鍛冶などと交渉してそれぞれ金子を払って調達していただろう?だがそれだと兵力が増えた時に軍勢の備えの中の足軽の比率が大きくなり野戦や攻城の際に有効打に欠けることになりかねない。」


「確かに…槍や刀を得物とする足軽が備えの主体となっては、弓を射掛けてくる敵や騎馬で突撃してくる敵には無防備になりまするな。」


 秀高の意見を聞いてかつて鉄砲隊の指揮を執った経験のある滝川一益(たきがわかずます)が発言すると、秀高は一益の意見に頷いて答えた。


「そうだ。そこでこれらの軍需物資を自分たちで調達し、それを各軍勢に対し物資を絶やさぬように配備する部隊が必要になる訳だ。」


「なるほど…それで先ほどの兵糧の事も関わっておるのですか?」


 その秀高に対して岩村(いわむら)城主の遠山綱景(とおやまつなかげ)が先ほど信頼に兵糧の事について問われた稲葉良通(いなばよしみち)が返答した内容を踏まえて秀高に尋ねた。


「あぁ。さっき信頼が言った通りだ。もし進軍中の軍勢や敵地にて戦う味方の軍勢に兵糧や武器弾薬が絶やさずに供給されたらどうなると思う?」


「それは…前線で戦う将兵は兵糧などに気を配る心配は無くなりましょうな。のみならず、矢玉の供給を受ければ弓や鉄砲の射手は敵に雨あられともいうべき矢玉を浴びせることが出来るかと。」


 秀高の言葉を受けて烏峰城(うほうじょう)の城主である森可成(もりよしなり)が秀高に返答するように言うと、その言葉を聞いた秀高は頷いた上で視線を下座の信頼の方に向けた。


「そう、そこでこの後方支援専門の部隊が必要なのです。この部隊の役目は三つ。戦に備えて国内に補給拠点を構築してそれらを管理する事。戦に必要な鉄砲や軍馬などを用意しそれらを各城主に分配する事。そして戦の際には進軍する部隊や敵地の部隊に兵糧などを運搬する事です。」


「…まるで輜重(しちょう)部隊を発展させたようなものですね。」


 その信頼に対して竹中半兵衛(たけなかはんべえ)が言葉を返すと、信頼は半兵衛の言葉を聞いた上で首を縦に振って頷いた。


「そうです。その認識で間違いないと思います。この構想を実現するためにも今僕たちが所有している城のいくつかを補給拠点に変換し、または新規に補給拠点を構築する事が必要なんです。」


「つまりあれか、その部隊は戦で戦う訳じゃねぇから足軽を動員する必要は無くなる訳か。」


 信頼の隣に着座する大高義秀(だいこうよしひで)がそれらの発言を聞いた上でそう言うと、信頼は義秀の意見に頷いて言葉を続けた。


「うん。補給拠点になる各城主たちは戦に動員される義務は無くなるけど、その代わり人足や職人、馬飼いたちを統率して補給任務に当たってもらう必要があるんだ。でもこれには一つの懸念がある。」


「…功名を立てる機会を無くす、という事ですな。」


 そう言ったのは信頼の背後にいた木下秀吉(きのしたひでよし)であった。秀吉の言葉を聞いた信頼は秀吉の方を振り返って頷いた。


「…そう。目の前の城主の皆は全て武士。この構想は武士にとっては何物にも代えがたい功名を立てる機会を無くすという事だ。それを承知してくれる城主がどれだけいるのかな…」


「信頼殿、そのお役目お引き受け致す!」


 と、そんな信頼に対して名乗りを上げた者がいた。その場の一同が声の上がった方に視線を向けると、その場にいたのは墨俣(すのまた)城主の加賀井重宗(かがのいしげむね)であった。


「実を申せば我が墨俣城の所領は足軽たちを養うには不相応の地ゆえ、人足であれば十分な数を養えまする。功名を立てられないのは無念ではありまするが殿の天下の支えになれるのであれば喜んで引き受けまする!」


「重宗殿…ありがとうございます。」


 重宗の申し出を聞いて信頼が感激し、重宗に対して頭を下げるとその信頼向けて発言してきた者がいた。伊木山城(いぎやまじょう)伊木忠次(いぎただつぐ)勝山城(かつやまじょう)仙石久盛(せんごくひさもり)の二人であった。


「信頼殿、我らもそのお役目を受けたく思います!」


「我らも功名を立てられないのは無念なれど、そのお役目で功名を立てまする!」


「…皆さん、申し出てくれて本当にありがとうございます。」


 これらの名乗りを聞いた信頼は頭を下げて礼を述べると、それを見ていた氏規が信頼にこう言った。


「されば信頼殿、我らは殿より城と領地を与えられた者ゆえそのような事は出来ませぬが、我らが領内に新たな城を築いてそれを補給拠点にするというのは如何でござろうか?」


「然り。殿の領内には各地の城割を行って余る建材が多く残されておりまする故、それで拠点を構築すれば我らの方から城主を派遣しますぞ。」


 氏規に続いて一益がそう言うと、それらの意見を聞いていた秀高が上座から言葉を発した。


「…それが現実的な落し所だろうな。信頼、氏規らの領地には城地を選定して新規に城を作り、氏規達はその拠点の城主を派遣してくれ。ただし職務などは信頼の方策に従う様に。」


「ははっ!!」


 その秀高の命令を受けた氏規は秀高の方を振り返ったうえで返事を返した。すると秀高は信頼などの意見を踏まえた上で重臣たちにこう伝えた。


「良いか、この試みはこの戦国乱世において挑戦ともいうべき行いだろう。だがこの試みが安定化すればきっと戦の体形も大きく変わることになる。最初は混乱する事もあるだろうが、皆はその事を理解してほしい。」


「ははっ、承知いたしました。」


 重臣を代表して継意が言葉を返して頭を下げ、それに続いてその場の重臣一同も秀高に対して頭を下げた。その様子を見た秀高はここに重臣たちにある事を伝えた。


「それに際して皆に伝えておくことがある。ここにいる信頼をその新たな後方支援部隊の長である「兵馬奉行(へいばぶぎょう)」の職務に任命し、また義秀を正式に「軍奉行(いくさぶぎょう)」に任命する。この二人はこの高家において戦の元締めともいうべき存在になる。各城主並びに諸将はこの二人の下知を俺の命令と思う様にしてくれ。」


「ははっ!」


 その場にいた重臣たちは秀高の言葉を受け取ると皆一様に頭を下げて一礼した。その一礼を受けた秀高は重臣たちが頭を上げた頃合いを見計らって更に言葉を続けた。


「皆聞いてくれ。これから迫る上洛に向けて進路上への勢力への接触、そして信頼が提案した方策の施行を同時に行う。この二つが完成した時こそが上洛の時だ。各城主はそれまで各々の領地の開発や足軽の調練を頼む!」


「ははーっ!!」


 こうしてここに高家は来る上洛に向けて各々の行動を取り始めた。秀吉や半兵衛、そして客将の本多正信(ほんだまさのぶ)らは稲生衆(いのうしゅう)の助けを借りて浅井(あざい)六角(ろっかく)家中への工作を始め、内部の切り崩しを開始した。


 そして新たに兵馬奉行に任命された信頼は軍奉行の義秀や村井貞勝(むらいさだかつ)山口盛政(やまぐちもりまさ)らと協力して補給拠点の制定とその周囲への職人・馬飼いの移住を開始した。全ては来る秀高の上洛の為に諸将は一丸となって行動を開始したのである…





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