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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第2章 各国外遊
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65 試行錯誤の復興作業



俺らが最初に行った作業は、洪水によって流れてきた木材や残骸の除去だ。


畑のあった場所や道に散らばるそれらを、一箇所にまとめて、燃やすか再利用するかを検討する。まぁそれは村人に任せて、俺は回収に専念した。


もちろん燃やすと決まった時は水の含んだ木材を燃やせるくらいの炎が必要なため、俺の出番だ。灰になるまで燃やして土壌に()き込む。


そして畑に残る水分を飛ばしまくった。畑の中に若干残ってるであろう野菜の種を無駄にはできない。多少でも残っているならそれに賭けたい。今はそれほどまでに食糧が切迫しているのだ。


あと小麦の種も撒いた。

時期は少し遅いが、春に撒く小麦として育てるらしい。売り物にはならないかもしれないが村の食糧用にとのことだ。


そして狩りに行き、干し肉にする作業なども手伝う。



1日がとても早くて、気がついたら3日が経っていた。毎日が大変で、俺ですら疲れが溜まっていた。


村人も疲れ切っている様子だった。





・・・・・・





4日目。

援助が来るであろう日まであと3日。



「アグニ、今日もまた下の方の畑をお願いしていいか?芸ができる3人はまだ誰も畑の水分を飛ばすのはできないようだから……申し訳ないが…」


「了解!全然大丈夫だよ」


俺が明るく答えると、やつれた様子の村人が申し訳なさそうに言った。


「……本当に、ごめんなぁ」


「何言ってんだよ。もうちょっとだよ。頑張ろうぜ」


「…………ああ。」



実際、今年の収穫は絶望的だ。

来年に賭けるしかない。それをみんなわかってる。

だからこそ、この作業にやり切れなさを感じ、一層疲れてしまうんだろう。


「あれ?シ……ミシェルは?」



   何度もシリウスと言いそうになるな~

   いい加減言い慣れないと…。



「ああ、ミシェルさんは村の外でなんか作業してるぞ」


「作業?何やってんだろ?」


「んーよくわからんが何か作ってたぞ」


「ふーん……まぁいいか。じゃあ俺先に畑行ってるからあとでシ……じゃなくて!ミシェルに!畑に行くように伝えてくれるか?」


「あぁ、わかった。」


「ありがとう!」





・・・





「はぁ〜疲れた〜………」


「アグニ本当にごめんね…ほんとにありがとう」


村の同い年(といっても外見年齢が)くらいの女の子が俺を気遣うように礼を言う。


「あぁ!いや、全然。これでやっと畑の土を耕せるな」


「うん…ここから…また一からみんなでやらないと…」


土を耕す。その作業は農業で1番大変だと言っても過言ではない。けど土を十分柔らかくしてからではないと種を植えても育たないから抜かすことはできない。


今やっと、その1番大変な作業に取り掛かれる段階になったのだ。これは嬉しくもあり、今後の労働量を考えるとなかなかしんどくもある。



   みんな身体強化を使えたら楽なんだろうけど…

   (くわ)をふり続けるのはしんどいよな……



思わず俺も渋い顔になってしまう。


その時、遠くからシリウスが手を振りながら現れた。


『お〜。終わった?』


「今さっき終わったところ。お前何やってたんだよ?」


俺の質問に、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりのドヤ顔を返してきた。


『ふふん。見てみて。じゃじゃーん!!』


そう言ってシリウスが後ろから付いてきていた村人3人に頷く。それを合図にその3人が自分らの後ろに隠していた何か……木を組み立てたような物、を見せてきた。


「……なんだ、これ?」


『これはね、土掻(つちか)き機!!』


「土掻き機?なんだそれ?どうやって使うんだ?」


土掻き機はけっこう大きめの物体で、下の部分に互い違いに鍬のようなものが何個もついていた。


「もしかしてこれが鍬の代わりになるってこと?!」


『そう!しかも意外と簡単に扱えるよ。一気にできるから楽だし、費やす時間も減る。女性の力でもある程度はできると思う。』



   は?画期的すぎるだろ!

   なんでこんなもの作れるんだ?



「シ…ミシェル。お前、これいつ作ってたんだ?」


そんなすぐに作れるようなものではない。今日から作り始めたものではないはずだ。けどここ最近はこれを完成させれる時間なんてなかったくらい忙しかった。


寝ている時間を除いては……



「ミシェル。 お前……いつ寝た? 」


俺の問いに周りにいた村人がみんなはっとしたようにシリウスを見た。みんなも、これを作っていた時間がいつなのか気づいたらしい。


シリウスは髪を隠し、目を薄い布で覆っていて顔全体を見ることはできないが、それでも一切疲れた様子はない。いつも通りの笑顔で言った。


『言ったでしょ。寝なくても大丈夫なんだって。だから夜は暇でねぇ。これも暇つぶしに作っただけだから。』


「ミシェルさん…あんた寝てなかったのかい?」


「それじゃ身体を壊しちまうよ!!!」


「そんな、村のためにそこまで……!」


「ずっと無理させてしまったんだね……」


周りの人々が口々にシリウスを労わり、なんとか今からでも寝かせようとする。

けれどもシリウスは笑顔のまま、一切引くことなく、これを試して改善点があれば教えて欲しいと言い張った。


結局シリウスに従い、女性や子どもにその土掻き機を使ってもらった。


「……これはやりやすいわね…」


「こっちの方が効率がいいわ!」


「子どもなら二人で押せばできるわね。鍬を振るよりずっと早いわねぇ」


村の人の意見は良かった。シリウスはそれらの意見を聞きながらうなずいている。


『芸を使わなくても作業ができる。けどそれでも身体強化ができたほうが楽だし、水気を含んだ土壌だとやっぱけっこうキツイだろうから気を付けてね』


「そんなの鍬でも一緒よ~!」


「そうよ!雨の次の日にやる農作業は本当に土が重くて大変だもの!」


「それに比べればやっぱこっちの方が早いんじゃないかしらね?」


「ええ!!」


『そんなにも気に入ってもわえてよかったよ。もう一つ作ってあるから、それらで女性は土起こしをしててくれるかい?男性らは流れた分の土砂を運ぼう。』



「「「「 はい!!! 」」」」




・・・




今日一日で、全部の畑の土起こしができた。

明日には畑に種を植えられる。


およそではないがこんな早く終わる作業じゃなかった。明らかにシリウスのお陰だ。


けれども今日はいつもより長く作業をしていたし、その後また狩りにも行き、全員分のご飯を作ったりと、みんないつも以上に身体を動かしていた。次の日の朝、作業の前にみんなで集まると全員がとても疲れた顔をしていた。


『アグニ、君はどう?疲れてない?』


「疲れてはいるよ。けどみんなも相当だろうな…」


『結構なペースで動いてるし、いつもとは違う状況に心も疲れてるだろうしね』


「そうだよな……」



   作業は手伝えてもみんなの疲れはとれない

   何か俺にもできることがあれば……



『じゃあ彼らの疲労を回復させるか~』


「………え?」


『アグニ、いいかい?お勉強のお時間です。君は治癒ができるね?』


「えっ、おう」


『治癒は残念ながら完ぺきではない。死んだ人は生き返らないし、生まれ持った病気は治せない。治癒ができるのは、外傷や芸素量の回復だ。』


「外傷や芸素量?」


『そう。まぁどこまで回復させられるかはその人の強さによるんだけど…基本治癒をする人がされる人に自分の芸素を分けるっていう感じかな。』


「なるほど…。けど芸を使えない人に芸素を分けても治癒ってできるのか?」


『そりゃあできるよ。芸ができない人も、できないだけで体の中に芸素は持ってるからね。休んだり、食べたりして体力を回復するのと同じように治癒で回復するって考えればいいよ。』


「ああ、なるほど。」


『今この村の住人が疲れているのは、外傷によるものではないよね?』


「ああ、そうだな」


『つまり彼らの体の中の芸素量が足りてなくて力が出なくなってる、疲れてるってことなんだ。』


「…じゃあ彼らの体の中に芸素を入れてあげれば……」


『彼らの疲れは消えるってわけ。』



   なんだそれ!!そんな方法があるのか!



「なら!ずっと疲れない体も作れるんじゃないか?!」


俺の発言にシリウスは肩を竦めた。


『まぁ、可能だよ。けどあんまりお薦めしないかな』


「なんで?!」


『んーそうすると「人間」らしくなくなっちゃうから』


「……人間らしくない?」


『少し説明が難しいんだけど、疲れて寝る、疲れてお腹がすく、食べる、休む・・・そういう基本的な全ての人間が例外なくする行動の中で自分だけが例外になると、結局心がそれに耐えられなくなる』


「心が耐えられないって……精神に支障をきたすってことか?」


『ああ、違う違う。別に、体の代わりに心が~とかじゃない。けど……相当な信念や執念に心が支配されていないと、人間の枠組みから外れて生きていくのは、あまりにも辛いと思うよ。まぁ、そこまでして疲れない体ってそもそもいらないでしょ?』


「ふーん、そうなのか。」


『話が逸れたけど、つまりここの人間達の疲れを取れる方法があるってことだよ』


「ああ、そうだったな。それ俺もできるか?」


『できるけどまぁ練習が必要だな。この芸は解名(かいな)の『治癒』と芸の組み合わせだ。だからまぁ、僕がやるから見てて』


そう言って、シリウスがゆっくり目を閉じる。


シリウスの周りで風が舞い、金色の芸素が漂い始めた。


そのまま芸素の波が皆の間へ広がる。


「ん? わ!!なんだこれ?!」


「わわっ!!え、これ……なに?」


「芸素……?こんなに大量にっ?!!」


皆が驚きの声を上げる。


『アグニ、皆の間に芸素が広がっただろ?そしたら次はそれら全てに伝達するように、自分自身に『治癒』をかけるんだ。』



『 ギフトを 私に治癒を 』



シリウスが光り輝いた。


まるで陽そのものになったかのようだった。



日が昇って 闇夜を切り裂く陽の光のように、


皆の間に漂う金色が一層、光を帯びた。



目が眩む



   きっと遠くから見たら

   村全体が光ってみえたんだろうな。

   その景色を…見てみたかったな。



みんなの顔に活気が戻り、血色がよくなった。

そしてそれ以上に 驚き、感動、歓喜、愉楽・・・



シリウスは、

俺が与えられないものを与えられる人なんだ。









   



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