64 エール公国
エール公国
帝都からみて北北東にある国で、帝都や周辺国の食糧を生産している、農業国。
そのエール公国の山奥にあるハイセンという村で、大規模な洪水と洪水による土砂災害起きた。
ハイセン村の周辺は小麦の栽培が盛んだった。
きっとこの時期には夏前に収穫する小麦の畑が一面に見れたはずだ。
けれど俺とシリウスが見たのは、そこに畑があったのかさえ怪しいと思えるくらい、無惨に散らばった小麦の茎や根や葉、水気がありジュグジュグになった土砂、そして村の人の絶望の顔だった。
「………シリウス。これは相当なものだよな?」
俺は農業には詳しくない。
けど、この状況が深刻なのは嫌でもわかる。
『まずいねぇ。全部だめになってる。食べるものも売れるものもなくなったね。』
「そうだよな……」
村の外に一人の老人が座っていたので、俺は彼に近寄り話しかけた。
「すいません、あの……この村、今どうなってるんですか?食べるものとか…ありますか?」
老人は疲れ切った顔を俺に向けていった。
「ないよ。コムギも他の野菜も全部流された。川の氾濫で下の方の町へ行けないから食べ物を買ってくることもできない。援助が来るのもまだ先だ。もうみんな……ぎりぎりだよ。」
「………そうですか……」
川の洪水で流れた土砂が道を塞いでしまって帝都やエール公国軍の救助や食料援助が来るのにはたぶん一週間程度かかるだろうとのことだった。
俺とシリウスは身体強化と芸を使って強行突破してきたが、それは他の人にはできないし、食糧を運ぶ馬車ではなおさら不可能だ。
……よしっ!!
「じゃあ俺、なんか少し獲ってきますね!」
「ああ。………え?なんだって??」
「逆に山の上の方に行って何か狩ってきます!」
「おいおいお兄さん。そんなことしたら危ないぞ。まだ水で土がぬかるんでる。滑って落ちたりしたら大変だ。」
「あ、大丈夫っす。ちなみにこの村、何人くらい人いますか?」
「え、ああ、全部で60人くらいだが…」
「わかりました!行ってきます!」
「え、あ、おい!!」
さぁさ!
今すぐに俺ができることをとりあえずしよう。
腹が減ってはなんとやら、っていうしな。
「シリウス!行こうぜ!」
『えっ、行くの?』
「は?行くに決まってるだろ。」
俺がシリウスにそう言うと、シリウスは不思議そうな顔をして聞いてきた。
『ん~なんで君は助けるの?彼らを』
「え?なんでって……別にそんな理由はないけど。まぁ強いて言えば困ってる人が目の前にいて、俺がそれを助けられるのに動かないっていうのはおかしいかなって思ったっていうか……」
俺が頭を掻きながらそう言うとシリウスは首を傾げた。
『君は目の前の困ってる人は全員助けるの?』
「え?まぁ困ってるなら助けるよ。」
『どこまで?』
「え?」
『どこまで助けるの?』
「…どういうこと?」
シリウスは一層わざとらしく首を傾げた。
『君は彼らのためにどこまで犠牲を払えるの?自分のしたい分だけ?彼らがそれに満足していなくても君が満足になれば、そこでもうそれ以上は助けない?』
「…彼らが必要な分だけ、助けるよ。」
『例えば君が死ぬか、村人一人が死ぬか、なら?その一人のために君は死ぬ?』
「は?」
『君のエゴをどこまで通すつもりなのかって聞いてるんだよ。そんな難しい?』
シリウスは無垢そうな顔で聞いてくる。わざとそういう質問をしているのに。
「……そんなんわかんねぇよ。別にどこまで、とか決めてるわけじゃない。俺にできることならする。けど別に俺を犠牲にしたいわけじゃない。だから助ける側と助けられる側がともにプラスで終われるところまで、助けるんだ。」
『ふーん。じゃあまぁ君が飽きたらそこでこの遊びは終わりってことね。』
「………遊び?」
『え?遊びじゃないの?人救いゲーム。「いったい何人を救えるのか?!」って。ははっ』
シリウスは楽しそうに歩いていった。
「お前、 何言ってるんだ?」
バカにするにもほどがある。
なんだその言い方?
困ってる人を前によくそんなことを…
「お前。いい加減にしろ。人の命はそんな軽くないんだぞ?」
俺の言葉にシリウスは一瞬理解できないような顔をして、その後 笑い出した。
『あっははははは!!!!君が!!僕に?!人を語るの?!はっははははは!!!楽しいねぇ!君は人の命は重いという。なのに君はそんな命を60個も救う気でいる。あはははは!!!!!楽しいねぇ!!!あははははは!!!!』
「ふざけるなよ!!!なんなんだよさっきから!!!やれることを片っ端からやっていけばいいじゃないかよ!そんないちいち考えて物事を難しくして!!何ができるんだよ?!お前は考えた上で助けない方がいいって思うのかよ??!!」
俺の言葉に天を向いて笑っていたシリウスがピタリと止まった。
そのまま俺の方を向き、残忍な笑顔を見せた。
『君は 人を知らない。 そしてそれ以上に自分のことを理解していないねぇ。 芸は自然を動かす以上に人の心を動かす。君の行動が周りにどう見えるのか、それをわかっていない。』
シリウスが俺に向きなおり、真正面から笑顔で告げた。
『わかった。このゲームは君の方向性でいこう。僕も僕にできる事を彼らに最大限してあげよう。僕は「困ってる人を見たら無我夢中で助けちゃう人」だからね。』
どうしてこうも曲がってるんだよ?
なんでそんなに助けたくないんだよ?
けどこいつの力があれば…必ず助かる。
「……………頼むぞ。」
『ああ。じゃあとりあえず60人分、狩ろうか』
・・・・・・
村に三度往復し、その度にクマやイノシシの芸獣、その他野鳥やハーブなどを大量に持って村人たちに渡した。そしてそれらを大量に料理してもらい、星空の下、村人60人とともに騒がしく、楽しく夕飯を食べた。
「アグニ、ミシェル!本当に本当にありがとう!!今日の夕飯は最高だよ!!」
「アグニ!ありがとう!まだ子どもが小さいからどうしようかと思ってたの!」
「こんなにたくさん捕まえて……大変だったでしょう?本当にありがとねぇ…」
「宿として泊まれるのはうちしかないから今日はうちに来なさい!お代なんてもちろん要らないから!!ほんとにありがとねぇ~!」
「いくら金があっても今日食べるものがなければ話にならない。本当にありがとうアグニ、ミシェル!」
村人らは俺らをとても感謝してくれた。この村には芸を使える人は3人ほどしかおらず、そのうちの誰も、狩りをするほどの能力は持ってなかった。だからこそこの村は農業に力を入れていたのだ。
ちなみにシリウスは今ミシェルと名乗っている。
「いえいえ!本当によかったです!もしよければ援助が来るまで、俺らに手伝わせてください!」
「え!!!!! いいのかい……?」
「もちろん!」
村人たちから歓声が上がる。
みんなの顔が明るくなり、希望的な表情に変わった。
この村の村長である年老いた男性が杖をつきながらこちらに近づき、頭を下げた。
「アグニ、ミシェル、本当にありがとう。どうか、援助が来るまで、我々と一緒にこの村を助けてくれ。」
「ああ!!!」
ちょ~っと更新ペースが乱れます。ご容赦を。




