56 再び旅へ
びっくり。60話です。もうそんなに書いてたんですね~
シーラが森の家に来て数週間経った。
そして実は、シーラとともにもう一人新しい住人が増えた。
「アグニさん!そろそろお昼ご飯できるので、シーラ様を起こしてきてもらえますか?」
「わかったクルト。今行く!」
「はい!お願いします!」
「はいよー」
クルトという癖のある茶髪と茶色の瞳、そして整った顔の優しそうな青年だ。数年前からシーラの馬車の御者をしている。まぁ実際は御者業の他に、この家に住み込みで管理、掃除や洗濯、買い物、荷物や手紙の受け渡しなど、あらゆる面の仕事をしている。しかも衣食住と身の安全(シリウスとシーラが強いからまぁ安全だよねっていう意味で)の代わりに、給料もほとんど無いらしい。
聞くところによると元々はシーラの熱烈な信者で、「無給でもいいからシーラの近くにいさせてくれ」と頼みこみまくって、この地位を獲得したんだって。
最初は「ちょっとこの人大丈夫なのか?」と不安に思ったが…全く全然、大丈夫な人だった。
何よりもシリウスとシーラとクルトの信頼関係はもうすでに十分に築かれている。
そんな彼にシーラを起こすよう言われて、シーラの部屋に行き、ドアの叩く。
「シーラ、お昼できたよ。開けるね?」
「………ふぁう…」
いつものように反応が薄いシーラを叩き起こしに部屋へと入り、シーラの掛け布団をバッっと剥いで……
そして…凍った。
いや違う。爆発した。
「シっシーラ…!!ふ、服!!!」
豊満かつ美しい曲線を描き、白く美しい艶肌をあらわにしたシーラがいた。
俺が今必死になって平静を装っていることを察してもらいたい。
「…あらやだぁ。アグニったら…」
シーラは寝起きせいもあって、色っぽさに拍車がかかった笑顔をみせた。
「いやいや?!俺何もしてないよ?!」
「もぅ、これだから年ごろの男の子は」
「シーラァァァ!!!!!!」
・・・
『どしたのアグニ?今日機嫌悪そうだね』
昼食時、俺とシリウス、シーラ、双子とクルトで食卓を囲んでいると、シリウスが聞いてきた。朝から出かけていたくせに妙に感が良くて嫌になる。もちろん俺は今、最大限に機嫌がいいし、むしろそれを隠そうと必死になっていた。
「え?そんなことないよ?」
『ふーん…若干だけどいつもより芸素に波があるから、ついね。逆に何か良いことがあったのかな?』
なっ!!!!
感が良すぎだろ!!!
そしてシーラ!
俺の方を見て笑うな!!!
「全然全然そんなことないよ。ところでシリウスどこ行ってたの?」
俺的に、できる限り自然に話を逸らす。するとその話に乗ってくれたシリウスが唐突に言った。
『ん?街に出てたんだ。ちょっとそろそろ帝都を出ようかと思って。』
「『「 え? 」』」
俺と双子の声が重なる。
「え、なに?どこに行くんだ?」
『んー。レイとレベッカも芸の扱いに慣れてきたし、そろそろ本格的に帝都の外に出て芸獣退治に慣れたほうがいいかなって思って。』
「あーまぁ確かに。帝都に来てから俺ら芸獣と戦ってないもんなー」
この数週間、ずっと帝都の中にいて、もちろんこの家の近くで芸の練習はしてたが本格的に戦ってはいない。そして実戦が何よりも大切であるということは俺も双子もわかってる。
「っといっても、どこに行くんだ?」
『んー帝都の北東に、シャノンシシリー公国があるんだけど、そこが少し遠いから行くまででいい練習になると思うんだよね。そんでその国の軍部を少し覗いてみようよ。』
「え?軍部を?」
『うん。あの国の大公とは仲が良いから大丈夫だよ。』
は?
なんでまた大公と仲が良いんだよ!
お前の人脈どうなってんだよ!!
『二人はどう?』
小さい口で一所懸命咀嚼をしている双子にシリウスが問う。
二人ともコクンと頷いた。
『いいよ!行く!』
「僕もいいと思う」
二人の反応を見てシリウスが微笑む。
『そう。じゃあそういうことで今日出ようか』
「え?!今日?!」
『うん!わかった!』
「わかった!」
いくらなんでも急すぎないか?と思っていたのはどうやら俺だけらしく、二人とも結構乗り気だった。俺はシーラとクルトの方を見た。
「二人は?一緒に来るのか?」
「私は行かないわよ。そんなめんどくさい。ここにいるわ。」
シーラが紅茶を飲みながら言った。クルトはシーラがそう答えるとわかっていたのだろう。特に反応することもなく、そのまま昼食を食べていた。
「あ、でもアグニ。シリウスの代わりにシャノンシシリーの首都に着いたら手紙を送って頂戴。もうこの人信用できないから。」
シーラがシリウスを睨みながら言うと、シリウスは少し不満げな顔で抗議した。
『心外だなぁ、僕だって手紙書くくらい忘れないよ。』
「ずっと忘れてたのは誰?そんなこと言っても遅いわよ」
『……もう。』
「もうはこっちよ」
いつも通りの軽い口喧嘩が始まったところで、双子がタイミングよく昼食を取り終え席を立った。
『クルトごちそうさま!!』
「ごちそうさまでした。じゃあ僕とレベッカは準備してくるね」
「おぉ偉いな。何かわかんないことあったら言えよ!」
「『うん!」』
『さ~て。じゃあ僕も準備しよっかな。アグニも。準備出来次第出るからね』
「はいよ~」
・・・・・・
帝都の北門を出て北西部へ歩んでいく。
帝都に近いこともあってこの辺は危険な芸獣も少なく、双子には良い芸の練習になった。
最初のころよりも随分安心して見ていられる。
そして約1週間後、俺たち四人は無事シャノンシシリー公国に着いたのだった。
シーラ、クルトとはしばらくおさらばです。
次はシャノンシシリー公国です。




