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274 特訓

いやぁぁぁぁ!!ゴールデンウィーク!!

もう後半戦じゃないか!!

いやだぁぁぁぁこのままがいい!このままがいい!!



『1週間、闇の森で特訓する。』


闇の森

それはかつてルシウスが住んでいたネタリア公国の北にある大きな森だ。木々が重なって森の中がとても暗いこと、そして強い芸獣が多く棲んでいる恐ろしさから『闇の森』と呼ばれ始めた。


「特訓…?それって何をするんだ?」


『1週間の間に僕から一本取れたら、討伐隊への参加を許そう。一本でいい。できそうかい?』


シリウスはニヤリと笑った。

絶対的な自信を感じさせる笑みだ。俺に一本も取らせるつもりはないのだろう。


けど、負けるわけにはいかない。


「できる。絶対に取る。」


『もちろんだけど、僕からも君に仕掛けるよ。』


「わかってる。でも絶対に勝つ。」


勝てるかどうかなんてわからない。

これまでの戦歴を考えると、ぶっちゃけ一本も取れない可能性のが全然高い。

けれどこれは意思表示でもある。


コルネリウスを迎えに行くため、俺は絶対に討伐隊に入るんだ。


『そうかい。』


シリウスは馬鹿な子どもを見るようだった。


『それじゃあ、向かおうか。』




・・・・・・




剣と野営道具、最低限の食料を持って俺とシリウスは闇の森へと向かった。


『はい、今1本飲んで。』


「え?」


闇の森に着くとシリウスから芸素回復薬を4本渡された。

帝都からここまで距離がある。移動に丸1日かかった。飛ぶのにも相当芸素を使うので、既に芸素は枯渇状態だった。


「助かる!……シリウスは飲まないの?」


シリウスは俺が飲んでいるのを隣で確認するのみで、自分では飲まなかった。


『飲まないよ。僕の分はないもん。』


「えぇ?!」


シリウスはニヤリと笑った。

この笑い方は完全に馬鹿にしている。


『僕は君より芸素量あるから必要ないんだよ。けど君は今も飲んだし、追加で3本も渡してあげる。あ〜僕ってほんと……涙が出るくらい優しいよなぁ〜!!』


独白が始まったのかと思った。なんだ急に気持ち悪いぞ。


「まじで飲まないのか?1本も??」

 

『うん、飲まない。』


「まじのまじで?」


『いらないからねぇ。』


シリウスはフッと余裕そうに笑った。

コイツ色んな笑い方のパターン持ってるな。


まぁつまり、これがハンデということだろう。

シリウスはこの1週間で芸素回復ができない。俺は3回までならできる。


つまり、勝機はある。


シリウスの芸素量はざっくり俺の3倍だと考えている。

つまり今日1日で俺が芸素回復薬を3本消費するくらいの猛攻撃をしかければ、シリウスの芸素も枯渇するということだ。

睡眠・休息・食事など、時間が経てば芸素はある程度回復してしまう。だから今日一気に仕掛けるしかない。


勝ち筋が見えた。


「おっけ〜ありがと〜」


俺はできるだけ作戦を悟られないよう大事そうに芸素回復薬を鞄にしまった。


『ねぇ、かくれんぼしようよ。』


「あ?かくれんぼ?急に??」


シリウスは楽しそうに笑った。


『うん。君は隠れて。僕が見つけるから。』


なるほど、遊びを通して特訓するのか。


「わかった。それじゃあ1分くれるか?」


『いーち!にー!さーん!』


「おおおう?!早い早い!!!」


数え始めたシリウスに急いで距離を取り、森の奥へと走っていく。走りながら芸素を森全体に広げた。俺の芸素を森中に広げてしまえば俺自身がいる場所を特定しにくくなる。


「ギフト!水鏡!!」


あまり効果はないだろうが、視覚的にも身を隠す。

だいたい30秒経った。あと半分で来る……!!


木の上か?

泥の下か?

水の中か?

隠れるとしたらどこが1番いいんだ?


「くそっ…!!」


そんなことすら知らない。

判断材料を持っていない。

俺はまだまだ、知識が足りない。



ビイィーーーーーーン!!!!!



瞬間、

耳をつんざくような大きな音と、目を閉じてしまうほどの白光が世界を支配した。


「うわあぁ!!!?」


今のは……「線」だった。

一本の線は俺の横を掠めて森を上から下まで真っ二つにした。その線が触れたであろう場所には焼け跡が残っている。とんでもない高温だ。


「あのやろう…!!」


シリウスはわざと俺に当てなかったのだろう、1発目だから。今のは背後を油断していた俺への警告だ。


つまり、シリウスは俺の居場所を正確に把握している。


「何がかくれんぼだよ!ったくよぉ!!!」


俺とシリウスだとかくれんぼはできないんだ。

もう隠れてないで、あの線が当たらないように逃げるしかない。


「ギフト!!氷晶壁!!!炎門!!!」


居場所がどうせわかっているなら行手を阻むしかない。

俺は自分ができるあらゆる防御の解名を出しながら逃げ続けた。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


今は何時だ?

日の傾きからすると…4時間は経ったか?


この4時間だけでもう学びがあった。『移動』と『逃走』で使う体力や芸素量が全然違うということ。

やってることや移動距離が同じでも、全然違う。心が疲れる。焦ってるから効率も悪い。


「はぁ、はぁ、はぁ…シリウスは…どこだ?」


『暇してるかい?』


「っ…な!?!?」


シリウスは俺の背後にあった大木の枝に座っていた。


『君にギフトを「流星の怒り」』


シリウスの人差し指から一本の白い線が飛び出た。その線は森の最奥まで届いているかのようだ。

シリウスが指を上から下に下ろすとそれに合わせて白い線も上から下に動き、森を割った。


「っくそ…!!!」


やはり解名か!!

なんだこの威力は!?


シリウスが指を右に動かすだけで木々は切断され、轟音を立てて崩れ落ちていく。

これに当たるわけにはいかない。当たったら真っ二つだ。


『ほらほら逃げないと~~~』


「っ……ギフト霧刺(きりさし)!!!」


幸いこの森は湿度も高く地面もぬかるんでいる。水分は多い。俺はその水分を霧に変化させた。そして作った霧に『霧刺』の解名を与えることでシリウスへの攻撃と目くらましになってくれる。


『おお~いいね。そうそう、その調子。』


シリウスは自身の周囲に上昇気流を作り霧を全て空へと吹き飛ばした。もちろん、ただの芸で。

まったくダメージを与えられなかった。


「その『流星の怒り』ってなんだよ!」


『これ?ん~〜今の切り返しがよかったから特別に教えてあげる。簡単に言うと、これは超高温の炎を線状に出してるんだ。温度が高すぎて光に見えるでしょ。』


炎の類か。

であれば氷や水の解名で防ぐべきだが、あのレベルの温度だとまず難しい。基本的に避けるしかなさそうだ。


「ギフト!雷刺!氷刺!!」


俺は立て続けに解名を放った。

するとシリウスは風に舞う木の葉のようにひらりひらりと軽やかに避けた。


シリウスは体の使い方が上手い。しかしそれと同時に、対処する方法やレパートリーが死ぬほど多い。

攻撃の避け方一つとっても学びがある。


「けど……1つも掠らないもんかよ!!」


今日のうちにシリウスの芸素を消費しなければならない。

けど俺が攻撃しても、ほとんど芸素を使わずに避けられてしまう。ならばシリウスに攻撃側に回ってもらうしかない。


「くっそぉぉぉぉ〜!!!!!」


俺はまた森の中を走り出した。








『は〜い、死んだ〜』


「ぐっ…ゲホォ!!!」


まぁ、逃げ切れるわけがない。

それはわかっていたが、こんなにもあっさりと捕まるとは思わなかった。


「音…しなかったな………あ、『凪』か。」


『そう。君ずっと忘れてたでしょ。』


シリウスの言う通りだ。

俺は逃げている時、『凪』の解名を出して移動中の音を消すのを忘れていた。


「馬鹿だな…俺………なぁんてすぐに落ち込むと思ったか?!ギフトォ!!!雷刺!!!」


シリウスは俺の横にいる。

この距離なら一撃はいける!!!

カス戦略を駆使してでも一本取ろうとしたが、シリウスは大きく後ろに飛び下がった。


『ギフト 雷刺』


雷刺同士がぶつかり合い壮絶な音が出た。


「くっそ…!!」


相殺された。

シリウスの方が発動が遅かったのに、俺と同じ威力で綺麗に相殺された。


『ギフト 雷刺』


シリウスが再度『雷刺』を出した。


「っく……ギフト、雷刺!!……うぐあぁぁ!!」


間に合わなかった。

俺はシリウスの雷刺と同じ威力のものを出せなかった。


俺の出した解名は簡単にかき消され、シリウスの雷が俺の身体を刺した。


痛い。痺れる。

動けない。


『は~い、また死んだ~』


シリウスは剣を俺の首筋に立てて笑った。


「……ギフト……グフ!!!」


横から蹴り飛ばされた。

その威力は凄まじいものだった。死ぬほど痛い。

けど数メートル先の木にぶつかれば、とりあえず体勢を立て直せそうだ。


『ぶつかり待ち?』


シリウスは俺がぶつかる位置にある木に氷柱を発生させた。このままだと身体が氷に貫かれる。


「っ!!……くっそぉぉ!!!」


急いで火を氷柱に向かって出し、出来る限り溶かした。


「グフッ…!!!」


ガシャーーーン!!!!


俺がぶつかった衝撃で氷は砕け散った。

よかった、とりあえず貫かれなかった。体勢を立て直せる。


「よし、ギフト!!」


『 宵の夢 』


眼の前がぐるっとひっくり返った。

幻影だ。


「くそ……!!!」


シリウスの方が俺より半歩早い。

俺の行動がすべて後手に回っている。

攻撃に対処するので手いっぱいだ。


『さぁて、時間はまだまだあるよ。』


乱れる視界の中、シリウスの楽しそうな声だけが鮮明に聞こえた。




・・・





2日目

夜が明けて空が白ばむと同時にシリウスへ飛び込んでいった。


芸素回復薬は全て使い切った。

そして俺の芸素ももうほとんどない。

シリウスの芸量が俺の3倍あったとしても、俺と同じくほとんどない状態のはずだ。


これで物理攻撃に持ち込める!

そうすれば、勝機が見えてくる!!!


「取った!!!」


『ギフトを君に、双極磁体』


「っ!?!」


飛び込んでいった俺の体は一瞬で地面に叩きつけられた。

セシルの作った固有技だ。

シリウスは俺の身体と地面を引き付けあうようにしたんだ。


「くっ…!!」


『ん〜おかしいなぁ。君の芸素量まだそんなに多くないよね?芸素回復薬、全部使った?』


シリウスは不思議そうに首を傾げている。

一方の俺は地面から顔を持ち上げるので手一杯だった。


「っ……ああ。」


『そうだよね。ということは……君の狙いは僕の芸素を枯渇させて武術での決着に持ち込むことだったのかな?』


シリウスは笑顔を見せた。

俺の目論見がわかってスッキリしたのだろう。


『けど残念だったね。僕の芸素量ほとんど減ってないよ。』


「っな!?」


どうしてだ……。

シリウスの芸素量は俺の3倍くらいだ。だからもうほとんど無くなってていいはずなのに。


「まさか……芸素回復薬、持ってたのか?!」


シリウスは楽しそうにクスクスと笑った。


『君は、敵の言葉を素直に信じるの?』


「っ……!!!」


『君は敵の言葉が嘘だった時に「信じてたのにひどい!」って言うの?そうすれば敵は「嘘ついてごめんなさい、僕が悪かったです」って言ってくれるの?』


シリウスの言う通りだ。

素直に信じた俺が馬鹿だった。

くそ、くそ、くそ!!!!


これで、唯一の勝機が失われた。


『まだ甘えがあるようだね、どうしようかなぁ…。』


「っ……。」


シリウスは呆れていた。

優しく笑っているように見えたが、俺にガッカリしているのが伝わった。


『大丈夫だよ。今回の特訓でそんなもの、全て消し飛ばしてあげるからね。』








現在、大風邪を引いております。

風邪、皆さんも気をつけてください。

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