ボツお話(02-04(旧) 戦勝会と戦姫の一部)
改稿前未発表部分より抜粋。
本編とは全く関係なくなると思いますが、ぶっ壊れたアヤが面白かったので。
「ねえねえキャロユッカちゃん、どうどう? 私可愛いかい」
パニエで膨らんだスカートをふぁさり一回り。ハーフアップにされ飾りを通された髪が跳ねうなじをちらりと覗かせ、バレッタの飾りがしゃらりと音を鳴らす。
「は、反則なくらい可愛いです……」
「ん、文句のつけようなんてないくらい似合ってる。アーヌルスのメイドはいい仕事をする」
できるだけ愛想をよく、笑顔を絶やさず。愛らしい姿に表情に加え少女性の高い服を着ていることもあって、今ならこの街の人々の視線を釘付けにできるかもしれません。
鈍い思考とふわふわしたこころにまかせて、両手を広げてくるりと回る。途中視界に入った姿見には、金糸のような髪を躍らせ、愛らしい笑顔を振りまく赤黒くどろりと濁った瞳の少女の姿があった。
(ひぃぃ目死んでるこの目はまずいって、わたし見たことあるこれ洒落になってない謝りますごめんなさい調子に乗りすぎましたぁ、アヤ早く正気に戻って!)
あはは、ティアが珍しく慌てています。なんだかとても面白おかしい。
そのままくるりとユッカちゃん達へと向き直ると、スカートの裾を上品に摘み、片足を下げ膝を折り腰を折る。動作の一つ一つに優雅さを織り交ぜるようにゆったりとした動きを心掛けます。これを常に意識することがコツなのだそうです。
私の所謂カーテシーに合わせて、キャロもワンピースの裾を摘みカーテシーを披露しています。キャロの場合は上品さよりも可愛らしさの方が際立っていますね。
カーテシーの意味は膝を折り相手方に敬意を示すこと。スカートの裾を摘むのはロングドレスを着ている時に床に裾がつかないようにするのが大本の理由らしいです。このワンピースの長さでは裾を摘む必要はないのですが、可憐との評価を頂いて私とキャロは摘むことになりました。実際鏡で確認したところ、ただ膝を折り腰を折るよりも、裾を摘む動きを取り入れる方が可愛くみえました。
「ほんとうに惚れ惚れする所作。一日でここまで上達するとは思わなかった。アヤ、すごい。キャロちゃんも」
「くすくす、当然です。あれほどみっちりと仕込まれて、できない方がおかしいのですわ」
「えへへ、お姉さまと一緒に頑張りました」
笑い声を上げるときは口元に手を添え、近すぎず遠すぎず、指先はゆったりと、下品にならないように。教わったことを丁寧になぞるように心がける。何気ない体の動きこそが、その人の品格を表すのです。
そんな私達の所作をみて、ユッカちゃんはニーナさんへと声を潜めて話しかけた。
「……恥ずかしくない程度のマナーを教えるという話だったはず。なぜたった一日でこんな、それも言葉遣いまで矯正されてるの」
「私が教えるにあたって、最初アヤ様は緊張しており動きが固かったのですが、緊張が解けてからはそれはもう、ものすごい勢いで学んでおられました。教えれば教えるだけ吸収するので、私といたしましてもついつい楽しくなってしまい、気が付いたらみっちりと叩き込んでおりました」
ニーナさんはキリっとした表情を浮かべています。まるで昨日の所業を何とも思ってな……ううっ、急に頭痛が。何故だかわかりませんが、直感が危険信号を伝えてくるので考えるのは止めておきます。私は女の子、私はフォンベルクのお嬢様、私はフォンベルクのお嬢様。
「やりすぎだけれど……困ることはないか」
ユッカちゃんの話を聞いていたキャロが頬を少し染めてはにかむ。うんうん、キャロは笑っている方が何倍も可愛らしさが引き立てられますね。
「お姉さま、私達、本物の貴族のように見えるのですって」
「まあ、努力をした結果がついてくるのは素晴らしいことですわ」
キャロと目を合わせて微笑み合う。努力は実る方がいいよね、実らなかった場合でも何か得るものはあるかもしれないけど、実った方がずっと得るものは大きいはずだもの。
(アヤ、お願いだから正気に戻って!)
(ティアさん、何でそんなに慌ててるの)
(アヤの目が、目が酷く濁ってるんだよー! あの目はまずいんだよ、完全に自分の存在を見失ってる)
この世界のマナーは全く知らなかったので、偶然とはいえ知ることができたのは僥倖でしょう。特に私は女の子なのですから、淑女の所作を身につける重要性は大きいと思うのですが、なぜティアはこの段階になって否定しているのでしょうか。理解できません。
(……叩いたら治るかな)
(もしかすると効果はあるかも、正気に戻すという意味なら)
物騒な言葉を言いながらユッカちゃんが妖しく目を光らせています。
こちらの世界にも壊れた機械を叩いて直すのに似た文化があるのでしょうか。
というよりも待って待ってまって、じんわりと近づいてこないで、冗談ではなくて本気だったの!?
「アヤがおかしくなってるみたいだから、荒療治する」
(さすがにこの状態は放置できないしね、任せた)
ティアのゴーサインと共ににじり寄ってくるユッカちゃんに自然と体が後ろへ下がってしまいます。何故だか分かりませんが、底知れぬ恐怖のようなものを感じて顔に汗が滲みます。
キャロはそんな雰囲気に当てられたのか、少し呆然としたような表情で固まってしまっています。
「……水よ水よ、我が望む」
ユッカちゃんの詠唱と共に術式が描かれていきます。
——ああ、これは手遅れだ。
まるで絞首台の前に立たされたような感覚に立たされ、私は素直に抵抗を諦めることにしました。
「その身を凍てつかせ、打ち付けよ」
魔術が完成し、氷の塊が打ち出され頭に痛みを感じると同時に、私の意識はあっさりと沈みました。




