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領主の言い分

「何やってんだ、俺は……」


「―――本当にな、何やってんだよアデル。」



 騎士見習いのときからの長い付き合いのサリィに遠慮無く責められるが、否定も出来ない。



「……断られないのを念頭に置いた結果、こんな事になった。」


 結果、仲良く馬に乗れて、湖で遊ぶ無邪気なリーナを見る事も叶い、そこまでは予想通り。満足出来た。

 が――――本当なら別荘で雰囲気の良い晩餐を二人きりでとるはずだったのに!リーナは部屋から出てこない。今はサリィに嘲笑われながら酒を煽って反省会だ。




 自立してないから結婚は考えられないと言っていた。俺を否定して断っている訳では無いのだから、悪からず想ってはくれてると浮かれて、強引に連れ出したのが不味かったのか?



 しかしセレストは『殿方なら多少強引にでもリードなさいませ!』と怒鳴って居たではないか…。



 女心は解らん。カードゲームでスヴァリアから金を巻き上げる位に難しい。




「……………はぁ。」




「辛気臭いぞ…花でも宝石でも持って謝りに行けば良いじゃねーか。金なら腐るほど持ってんだろ?」



「腐るほどは持って無い。………それに、リーナはそう言った贈り物を受け取ってはくれん。」






 菓子などの手土産等はかろうじて受け取ってはくれるが、それも館の皆に贈ったものだと思って『アデルハイド様から皆さんに差し入れです!』と、休憩室で皆で食べてしまう。


 花を贈ったら、『ありがとうございます。けどこう言うのは周りが誤解しますのでご家族に贈ってください。』

 と、やんわりと断られた。



 ……つまり、俺と誤解されるのは御免被る!夫でも無いのに贈ってくんな!と釘を刺されたのだ。





「次に断られたら立ち直れる気がしない……。」




『自立したい』とリーナは言うが、『自立』と『一人で生きること』は同意ではないと言うのに、賢いはずなのにその事に気付かない。

 こちらの良識と違うのだからと尊重してあげたいが、一人で何もかもを完結してしまう様は見ていて危うい。




 リーナは、可愛い。




 そう。リーナは可愛い!それに、欲が無い。与えられることを良しとせずに、返せないものは受け取ってもくれない。

 女神様(リュシー様)との謁見で諜報員の嫌疑が晴れても、距離を保ち遠慮して何も要求しない。そればかりか、『疑われても仕方がない。』と、謝罪も受け取らなかった。






 異界から来た少女―――あの日、謁見の最中に倒れたと聞いて、何の気なしに様子を見に行ったのだ。親元から突如離され迷い混んでしまった少女を不憫に思い、今後の事を思案してる間に迂闊にも移動の疲れか寝てしまったのだが、目を覚ませば、静かにハラハラと涙するリーナの姿が目に飛び込んできた。


 その姿は、以前見た、リーナの絵姿と重なり心臓が跳ねた。

 自分は幼女趣味か、重い心臓の病なのかと心配したほどだ。


 けれども、そんな些末な事よりも、その時はただ、泣きわめいて取り乱すでもなく、静かに泣く目の前の少女を慰めたくて抱き寄せた。



 ――――だが、夜が白み始めた頃には、気付いた。


 リーナは、紛うことなく成人過ぎの女性だ。



 何て事をしてしまった…見た目に騙されるが、この腕の中に納めているリーナは、どこまでも柔らかく、すべらかで、その姿は確かに絵姿の姫君そのもの。

 子どもだと思っていたからできた行動だが、気付いてしまったらもうリーナを子どもだと思えない。



 成人女性と、朝を迎えてしまう!


 けどもう、手離したくなくて…只々守りたくて……。

 スヴァリアに懐いていたのも知っていたが、それでも強引に朝を迎える同意を求めてしまった。


 意味を解していなかったと、有耶無耶になってしまったが、目に写るリーナは、前向きで、強くて…眩しい。




 男顔負けに政治の話題にも着いてくるし、自分の考えや意見を淀みなく相手に伝えてくる。

 が、考えを押し付けては来ないし、博識をひけらかす事もない。傲って勉強を怠る事もないし、分からないところは素直に人に聞く姿勢も良い。




 何よりも、女性騎士の様に血の気が多い訳でもないのに、砦での訓練を見た後でも真っ直ぐに俺に対峙して意見を述べてくる貴重な人材だ。



 何度でも言うが、リーナは可愛い…………。




 中央の周りの連中は、あの様に政治に口出しなどする女、女神様の血筋でなければ生意気だと揶揄していたが、口出しなどではない。

 問題点等、我々でさえ気付かない着眼点で切り返してくるリーナに、シドロモドロの若造何かにリーナの魅力は解るまい。




 リーナは、可愛い…………。





「………お前、幼女趣味(ロリコン)だったっけ?」




「違う!リーナは大人の女性だ!たまに見せる仕草など悩殺ものの視線も!―――あぁ、いや、リーナの魅力は私が知っていれば良い!お前は気付くな!見るな!!」




「あーはいはい。取り合えずここ片付けちまうから、お嬢ちゃんに謝るなら早くしなよ。」




 怪我で退団したのを雇ったと言うのに恩にも感じてないのか、昔ながらの口調で対応するサリィに唸るしかない。いや、昔ながらの友人として話を聞いてくれていたのか。雇い主として対峙していれば、こんな話を聞いてはくれないだろう。





「ほら、これ持ってけ。マリーが焼いたパイだ。女は甘いもんが好きだからな。」





「………。」





「みっともなくても謝り倒して許しを乞え!可愛い可愛いって散々言ってるんだから、嬢ちゃんが成人したらこんな年寄りすぐ捨てられちまうぞ!大人の魅力で押し倒しちまえ!」


「―――!!!まて、リーナは成人してる!!!」




「あーはいはい。なら問題無いな。さすがに犯罪の手助けはしたくないからな!良かった良かった!」


 そう言うとサリィはサッサと部屋を出ていく。




 目の前には甘い香りのパイだ。きっとリーナは好きだろう。うん。食後のデザートに用意されたのだろうし、リーナが食べないと破棄されてしまう。リーナが言う『勿体無い精神』の観点からも、持っていくべきだろう。



 そう、色々と言い訳を作り、さながら初陣に挑む新兵のごとく気合いをいれてリーナの部屋に向かった。




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