白の空間
周りはただの白だらけの、ヘンテコな空間だった。
そこに俺だけでなく、一人の女の子が俺のことを品定めするような目つきで目を細めている。
名前を問われたので、とりあえず本名を名乗っておいた。
すると、彼女はこう言いだした。
「お悔やみ申し上げます。あなたもさぞ、お辛い思いをされていたのでしょうね・・・。このまま密かに喜んでいいのか、それとも復讐の機会を得られず無念だったか・・・。こんな言い方は不謹慎でしたか?」
「復讐は言いすぎだよ。俺はただ、あいつらより有名になって、自然消滅させたかったってのが最終目標だったよ」
なんか俺が悪者みたいに思えてしまうのでそう即答した。
てか、この人は誰なんだろうか?この白い空間に俺とこの人だけ。
ファンタジー小説でよくある展開なのだろうか。だとしたら行けるところまでいかしてもらおう。
「で、何が目的なの?普通じゃないからさ、こういうの。先に言っておくけど、こんな状況だからって不安になってるわけじゃないからね」
まだ、俺に危害が及ぶようなことを言われていないため、このような発言ができた。
そして彼女は少し驚いた表情になるが、すぐに感心したというような表情に変わった。俺は彼女から何を読み取れるのか。
「さすがは修希殿。大抵の人間がこのような状況下でまず初めに言われるセリフを、あなたは言わなかった。『俺、死んだのか・・・?』とか、『え、え?これどうなってんの?』とか、『イマイチ状況が理解できないんですが・・・?』、のようなことを言われるばかりですが、まず冷静に『何が目的だっ!!』とクールに言い返されてしまいました。さすがは修希殿です」
さすがと言われて嬉しくなった俺。少し、他人と違う反応だったということに、自分を褒めたくなる。
「ありがとう。でも、俺だって色々不思議に思ってるんだよ?用件を話してくれないかな?」
結局ここまで何も読み取れていない俺。
「ふふふ・・・。もう諦めて答えを聞いてしまいますか?」
「なんでそんな展開なの!?ここまでで俺がその答えを発見することができるヒントはあったのかよ!?」
「・・・・?まあ何か言ってみてくださいよ」
「言ってみるって・・・??なんなんだよ・・・・。まあ、あれですか?あれ・・・、あれですよ。その・・・、この状況で考えられる大まかな未来は・・・、例えば、『俺をどこかに連れて行こうとしている』!!、でどうでしょう?」
とたんに、真っ白だった周囲が少し黒ずんでいく。彼女しか見るべき対象がなかったので、彼女の表情の微妙な変化に気付く。
まさか言ってはいけないことだったのか・・・?いや、それはないだろう。とりあえず彼女の言うとおり、『何か』言ってみたのだから。そんなに非常識な回答では無い気がする。
それなのに、心臓が早く動いている。これは緊張によるものだと思う。
見間違いならそれで良い。
彼女は嘲笑う表情で俺を見ていたから・・・。目を大きく開き、白く綺麗な歯をいっぱいに見せながら。
「な、なんだよ・・・」と反射的に言ってしまう。
「フフフフ・・・・・」
「いや、なんで笑ってるのかな?」
「くひゃひゃひゃ・・・・」
「その笑い方のほうが怖いと、個人的に思うんだけれど?」
そして、ついに彼女は笑い声をやめると、すごい勢いで、シュッ!っというように俺の顔面まで近づいてきてこう言った。
「ファイナルアンサーですか?」
「そのノリかよ!?できればまだ何回か回答権は欲しかったけど?」
「ファイナルアンサーですか!!!!」
「なぜ怒鳴るの!?・・・・もういいよそれで。とっさに浮かび上がってきたのがさっきの回答だったし。それ以上思いつかないよ」
どっちみち、ここで殺されるという未来or元の世界に返してくれるという未来がこない限り、俺はこの人の案内がなければ、もしかしたらこの空間に置き去りにされてしまう可能性だってありえなくはない。
ファイナルアンサーと言うよりは、『悪くてもそれで!!』、なんて感じの希望を込めた発言だった。
ここは、おとなしく『ファイナルアンサー』と、言っておいた。まあ、『最後の回答』って意味だもんな・・・。なんだ?正解したら何かもらえるのか?それくらいの特典はあっていいと思わないか?
「そうですか、それがあなたの答え・・・。フフッ。さすがは修希殿ですね」
こうして『さすがは・・・』ってこの娘に褒められたのは何回目だろう。
「あ、・・・。どうも」と言わざるを得ない。
「その前に、あなたのライバルだった『キョウ』というバンドグループのことについて、いいですか?」
「まあ、いいんじゃない?」と俺。
そして、とんでもないことを言いだした。
「私が無念を残して死んだ彼らに、もう一度生きるチャンスを与えました・・・・。ただ、この世界ではなく、異世界に」
不思議だとは思わなかったが、この娘の正体が気になった。
「あなたは神に関係している者なのですか?」
「そうですね。私のことは『ウェリア』と読んでください」
「あいつらだけですか?他の部員たちは?」
「皆さん、召されましたが?」
「?そうなんですか・・・」
こういうのって、もしかして気まぐれで選ばれているのかな?
と、先輩たちの名前すら発言するのがめんどくさいと思っている俺が思った。
「とにかく、もう彼らは新しい世界で生活を始めておられます」
周囲はいつの間にか白い、真っ白な世界へ戻っている。
でも、居るのは俺とウェリアという女の子だけ。
ここは天国に近い場所と思って間違いはないか?あいつらもこんなふうにしていたのだろうか。
「どんな世界なの?」
率直な質問だった。
「魔法、法術、神術が存在している・・・・、でも基本的な生活レベルは今までのあなたの生きてきた世界とほぼ代わりのない世界です」
「それって、まるまる地球と同じ!?」
「いいえ?残念ながら違います。ちゃんとした異世界ですよ?そう申し上げたではないですか?・・・・まあ、竜、鬼、麒麟やら、スライムやらエルフやら、とにかくいろんな種族がいて、それで基本的な生活は今と同じです。あくまで・・・、『基本は』、ですよ?」
その世界について、まだよく知る必要があると思った俺はこう質問した。
「その世界には、『アメリカ』という国はありますか?そもそも『日本』っていう国は存在しているのですか?」
「いいえ。・・・何度も言わせないでくださいね?『異世界なんです』!!!、そんな国はありません。もっと賢明な方だと思っておりましたが」
「もう一つよろしいですか?」間髪いれず、さらに追求する。
「どうぞ」
「質問の内容がわかりにくかったようでしたね?・・・、アメリカ大陸、ユーラシア大陸といった、そういう『今の地球』と同じ位置に存在しているのかなって思いまして。究極的には、俺の家は同じ位置に、その異世界にあるんですか?」
俺はこう考えている。もしかしたらだが、その『生活レベル』が一緒ということは、同じ地球を模した世界であったとしたら!?・・・と。
「つまりあなたはこう考えている・・・。私が『キョウ』のメンバーたちを送った異世界とは、単なる今の生活に、魔法、法術、神術の常識が備わった世界であると?」
「大体・・・、まあそれでよろしいかと思います。別に本当はどこでもいいんですよ?もうあいつらは死んだのだから、せっかく生きる機会を与えられたんだ。好きに生きるといいさ」
そう思えるようになって、俺はウェリアさんに言った。
「ただ、生きているならまだ、俺のことを認めさせたいと思います」
「じゃあ、行きますか?その異世界へと」
「行きたい、ですか・・・。でも一応幸せではあるんですよ?少し変わってはいますけど、可愛い妹と弟と、両親に、村野がいます。確かに友達が多いわけでもないし、頭も平均レベルじゃないかと思っています。でも幸せですよ?わかりますか?」
家はそんなに裕福とは言えないだろう。でも、ちゃんと雨風防げる立派な家に住み、安心してベットの中で眠れる幸せ。
俺をしたってくれる、柊奈と翔人が元気でいてくれている。母さんも父さんも、仕事に励み、ちゃんと給与をもらって俺らを育ててくれている。
決して村野だけではない、いろんな人と出会ってきた。彼女は出来たことないけど。
路上ライブを通し、プロになる夢を抱いた。
でも、チャンスは潰されて終わった。でも、今日、村野と和解して、これから再スタートしていこうとして。
そんなに明るい話題ばっかりじゃないが。
「そうですか?」
「でも、行きたくないわけじゃない。魔法?ドラゴン?もちろん興味があるに決まってる!タイムマシーンのように、何泊しても同じ時間に帰ってこられたらいいんだけどね」
「それは、出来るかどうかは保証できません。しかし、『我々』にはあなたが必要・・・・」
え?今なんかすごい大事なこと言われたような・・・。
しかし、一瞬でその周りの『白』が、次々と光に変わっていき、最終的に、ただ眩しいとしか感じなくなってしまった・・・。
気がついたら、俺は元の場所に立っていて、時計を見て、時間がそうすぎていないことに気づいた。