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この世を面白くっ!  作者: 尾関 ライチ
4/6

変わり目

 一気に空気が重くなった。が、彼が行ったことは俺がずっと思っていたことばかりだった。

 

 村野の反対を押し切って入部した軽音部。もし居心地がよければ一緒に入部して、そこそこ有名になったら独立して活動しようって、話し合っていた。


 純粋に友達も増えればいいなと思ってたけど、あまり相手にされず、何回か用事で昼休みのあいだのミーティングに行けなかったが、そのあいだに俺の他に入部した1年生同士がバンドを組んでしまっていたらしい。


 俺はその時、自分は一人でやってみますと、言ったものの・・・・。



あの後、俺は逃げ帰るように村野と帰路についた。


 「俺って、やっぱり愛されてないね」

 と、迷惑かもしれないが村野のすぐ隣で言う。だとしても、彼には相談に乗って欲しかった。

 

 「でもテニス部のあの反応は本物だったと思うよ。確かに最初は冷やかしだったろうけど、どんな人気者のシンガーソングライターでも、初めはそんなもんさ」

 「うん・・・。高1の10月、覚えてるか?俺らが始めて路上ライブをして200円もらった時のこと」

 表情を崩さず、村野は反応する。

 

 「そうだ・・・。お金を得ることは、どの時代になっても死に物狂いさ。そんな中で、俺らは春から何曲も歌って、やっと手にした200円さ」

 

 そう言い終わると、村野は俺の予想通りポケットから、ある1枚のしおりを取り出した。そのしおりの中にあるのは、あの時始めてもらったお金。100円玉2枚のうちの1枚がある。


 俺も、あの時以来常に持ち歩いている、100円玉が入ったしおり。


 「それからさ、高3の春まですごく儲かったよな・・・。歌えば人は集まって、運がいいと、1000円札を何枚か入れてくれるおじさんもいたよな?はあ・・・、先生に見つかったのが運のツキだった・・・」

 「まあ、ちょっともらいすぎたってのもあるよな。バイト禁止な高校だったから、ほかの学校中の生徒から妬ましい視線がきたよな」


 そして、不本意ながら、校長から正式に俺らの路上ライブの禁止が告げられた。

 「『未成年でライブ・ハウスに入り、さらにはお金を受け取っていた・・・。なにか問題を起こしたらお前らだけの責任じゃないのだぞ!?』だったよな?あの時のすごく真剣に怒っていた校長の顔・・・、思い出したら今でもムカつきすぎて逆に笑えてくるわ・・・」


 「まあ、多少は俺らの責任でもあるんだし。まあ、俺らから音楽を奪ったのは極刑に値するがね・・・」

 「プロ、目指せられたと思うと、やっぱり悔しいけど。だからさ、村野!本気のお願いだ!ここは昔の俺らを知らない人がたくさんいる街なんだっ。俺らのことを悪く言う奴等はいない!だから、俺と・・・、また組んでくれないか!」


 大学一年生。まだまだこれからじゃないか?


 こうして、村野に再結成のお話をしたのは、昨年学校から注意を受けて、音楽を辞めさせられて以来である。


 まあさっきも一緒に軽音部で一緒にやらないかとは言ったが、彼は首を振った。


 「その言葉を待っていたさ・・・。なんで『軽音部』にこだわるんだよ!?俺らは俺らでできるじゃないか!!」

 「俺がアホだった。やっぱりお前しかいねえ。・・・・よしっ!まだ日は高いぞ!俺の家で早速打ち合わせしよう」

 「よし・・・。どうせなら『キョウ』より有名になろう・・・。軽音部なんか必要ない!ちなみに『save』は、大体聞いていて覚えたけど?」


 「お前のハモリがあったら化けるぞ?この曲」

 「はははっ・・・」


 どうして今日まで伝えられなかったのか、悔やまれるくらい今が楽しくなりそうだ。



 しかし、俺らの『キョウ』より有名になるという野望が、もうかなわないと知るのは、俺らが俺の母親に『大学で火事があった』と聞かされた瞬間だった。



 

 俺と村野は、母さんに『大学に戻ってみるっ!』と言い残し、家を出ていこうしたら、弟の翔人と、たまたま家にいた妹の柊奈しゅなも一緒に行きたがっていたので、連れて行った。

 

 自宅から大学まで自転車で6、7分位。歩いたら10分くらいかかる。特に急ぐ必要もないので、早く見てみたいという気持ちを抑えながら歩く。

 ただ、事故現場が、軽音部と吹奏楽部のある『北講道館』、まあ昼間俺もいた場所だ。そこの入口付近で火災が起こり、一階で活動している吹奏楽部のうちの何名かは逃げ出すことに成功したが、逃げ遅れた生徒もいたようだ。

 

 じゃあ軽音部の部室はどこにあるか?2階にあるが、まず講堂に入り、そこから上の段に上がって行くとそのまま通路があり、その両部屋が部室とセッション室がある。大抵軽音部員が北講堂に入るとすれば行き先はその2部屋か、さらに奥部屋の物置部屋くらいしかない。


そんなことを考えながら、俺は炎の上がり続けている北講道館を眺めていた。




 逃げ遅れた生徒の名前を叫び、泣き崩れている女子生徒を遠い目で見つめた。人気者だったものな、あいつら。はたして、俺が死んだら、あんなふうに泣いてくれる人はいるものか。

 「兄上?そんなにぼんやりしてると転びますよ」

 柊奈は心配してくれてるのか、ただ俺がだらしなかったのか、キツめな口調で言ってきた。


 でも、生で見る火災。中に俺を良く思っていなかっただろうバンドメンバー達『キョウ』が居る。すでに火災が激しくなって10分が経過するという。

 どうだろう。


 こういう気分なのだろうか。気に食わない人たちが、たまたま偶然にも事故で死んでくれて、自分の手を汚すことなく平穏を手にすることができたってこと。

 

 「村野・・・・・」

 たまらず、村野に相談した。

 「ん?」

 と、振り向いた村野。その顔は特に変わらない、いつもの村野だった。

 

 「俺さ・・・。やっぱりちゃんと、あいつらに勝ちたかったんだ・・・」

 「まっ、あの5人と軽音部の先輩たちの君への扱いは俺もどうかと思ったさ。この人たちがいる軽音部には、入れないなって思ったもんな。・・・こんな結末になるとは思わなかったけど」

 「・・・・。認めさせたかった、勝ちたかった。でも、やっと平穏な音楽活動を始められるきっかけなんだと、思ってしまう」

 

 「うん・・・」と静かに言って、村野はこれ以降口を閉ざした。

 


  

 消防士さんたちの懸命な行動により、火はやがて弱まってゆき、中へ入れるくらいになった。

 さっそく逃げ遅れた生徒たちを探しに、酸素マスクやらいろいろな救命道具などを持ち、入っていった。

  

 「大丈夫でしょうか・・・」柊奈が不安げに言う。

 ここで俺の頭の中では正直に、『あいつらは逃げ遅れて死んだ』と結論を出していた。

 


 思ったより早く、次々とタンカが外へ帰ってきた。

 足の先端部分がチラっと見えたが、不思議と焦げた形跡は見当たらなかった。しかし、そこから上の部分が頑丈に包まれていた。

 俺は、いくら包まれているといえど、13歳の柊奈と12歳の翔人にとって苦しい場面ではないだろうかと思った。


 まだ、知り合い同士でないことが救いか。


 だが、意外にも二人の視線はまっすぐタンカで寝かせられている人のところへ、むしろ向けられていた。しかもどこか悲しそうな表情で。

 

 「気分悪くないか?」と、二人へ声をかけた。

 「それはまあ・・・・。しかし、この若さで・・・。本当に無念としか言えないわ。私たちも、火の扱いには注意しなければ」

 「僕も、そう思うよ」と翔人。


 「辛かったら帰っていいんだぞ?」

 「あにう・・・、この呼び方はそういえば控えて欲しかったのでしたね。お兄ちゃんのほうが、もっと辛いんでしょ?」

 余談だが、こいつは物心ついた時から俺のことを『兄上』と呼ぶ。特に気にもしていなかったが、昔クラスメートから『兄上』と呼ばれるのはおかしいと、俺に言ってきて、ブラコンやら色々言われたっけ。

 それで、変に思われたくはなかった俺は柊奈に『お兄ちゃん』とよんでくれと要求し、『それは無礼です!』と言われ、すぐには直してくれなかったが、次第に事情を察知してくれたのか、周りの目があるときは『お兄ちゃん』と呼ぶようになった。


 そして、時折見せる、13歳と思えないくらい落ち着き払った表情。今もそうだ。


 こうして俺らは、合計14人分の人間が運ばれ終えるまですっと待っていた。


 やはり、と言うのはなんだが、一階で、しかも入口と裏口に近い位置にある部室や練習所にいた吹奏楽部員は全員自力で脱出しており、先ほど泣き叫んでいた女子生徒は当に吹奏楽部員の一人だったという。


 実は軽音部以外の人がいた、あるいはだれかとすり替わっていた、なんてことがない限り、あの寝かされている人たちは全員軽音部で間違いないだろう。


 俺がセッティングを講堂のステージ上で、朝のミーティングが8時50分に行われてからすぐ取り掛かったが、俺が帰るまでたしかに誰も講堂内に入ってはこなかった。


  吹奏楽部室へは、講堂へ入らず、入口を入って右の通路に行き、そうしたら各小部屋があるのだが、そこが各パート事の練習ルーム。奥まで行くと、総合セッションルーム、つまり本部室がある。


 だから、別に入る必要はない。


 確かに俺は、救助へ行ってくれる人たちが全員右の通路へ向かわず、講堂内へ入っていくのを確かに見届けた。


 そして、遺族の方々が顔を確認したいと申し出たが、まずは比較的顔の綺麗な人から確認していくよう進められていた。


 そして、初めに顔を見せたのが、


 高橋杞紗さんだった。



 

 まあ、第一印象は眠ってる?そんな感じ。


 たが、ひと目でわかるのが、呼吸をしていないということ。



 「高橋・・・さん?」と、誰かの両親は彼女の顔を見て言った。



 そしてそれは、本当の親の耳に伝わり、ダッシュでそこまでかけてゆく。


 「杞紗です・・・。ああ、なんで、ああああああああ!!!ううっ、うううっ!」



 その叫びが上がった瞬間、ドッと俺らの周りにいた人たちは、顔を確認しようと走り出した!


 そして12、3歳くらいの女の子が自分の近くにあった・・・、もう『死体』と言ってしまおう!死体の顔のガーゼを取った!

 「ひいいいっ!!!!」


 その顔は、昔見た戦争で焼け焦げた人の顔の写真とよく似ていた。俺だって、写真越しでも驚いたさ。しかし、あの娘はまだ幼い・・・!


 その娘のお母さんさ。しき人に抱きつき泣き出した。・・・、相当なトラウマにならなければ良いが・・・。


 誰しも、そういう焦げた風貌ではなく、井口佐奈さん、江口恵那さんの姿が連続して上がった。どちらもすでに事切れていたが、顔は綺麗なままだった。このままほおっておくとやがて腐っていくのが信じられないほどだった。


 煙を吸ってしまったのか、よく聞く話だが、火災での死亡原因には煙を吸うことによって意識が薄れていってしまい、そのまま焼け死ぬという話を聞いたことがある。


 だが、不思議と希沙さんに続き『キョウ』メンバーは顔が綺麗だった。


 それは遠矢真美さん、そして谷口耕平も同じだった。全身焼け死ななかったのが、せめてもの救い・・・か。いや、煙は毒だという・・・。そんな考えは不謹慎だったか・・・?


 

 「どうする?帰るかい?」


 村野は相変わらず表情はいつもの、微かに口元を緩ませている表情になっていた。俺に気を使ってるのか・・・。


 まあ、弟たちも居る。


 今日はこれで・・・。



  

  「あなたが高菜修希さんですね?」



 いつの間にか、周りのざわめいた音は消えて、その女の声のみが俺の中に届いていた。


 

 

 

 

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