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この世を面白くっ!  作者: 尾関 ライチ
3/6

くだらない

軽音部ではいいところで良い使いパシリだろう。


 今、俺の歌を聞いてもらっていてテニス部の人たちから拍手を送られた。俺はそれを「いい気になるな」と自分自身に言い聞かせる。表面上では感謝の言葉を述べながら笑顔を見せる。

 

 「いつ路上デビューするの?」

 「できればデュオでやりたいかなって思ってんだ。でも軽音部ではいなかった」

 俺は後ろの軽音部の部室がある『大講堂』の方を向いて言う。

 「でも、アテがないわけじゃないんだ。ええと・・・」


 「おーい!修希じゃないか!!」

 「村野!」

 「村野じゃないっ」

 「村野っ」


 メガネをかけた、うまい具合にワックスを用い、やはり髪の手入れ次第では印象変わるなあとか、かっこよくなるなあ、ということを教えてくれた中学2年からの付き合いである。


 ただ、勉強は普通レベルだし、スポーツは剣道が得意だが球技はイマイチ。

 完璧な人なんていないよ。

 彼は今何も持っていなかった。

 嬉しそうな顔して、俺の方へ駆けてくる。

 「これからこいつの歌聞くのに金がかかるかもよ?」

 「冷やかすな」

 「なんだよ?そうなのか?」山崎が言う。そんな顔で言うな。無表情。

 「村野君って仲いいよね?高菜君と」

 一人の女子が尋ねる。

 「それがどうかした?」村野はすかした顔で言う。さぞ当たり前だと言わんばかりに。

 「羨ましいなって。高菜君のような男の子が親友で」

  なら俺が友達になってやるぞ!って言いたかったのだが、村野は意外にもこう言った。

 「こいつはさ、誤解されやすいんだよ。仲良くしてあげて」

 なんか俺、あまり友達がいない、人付き合いが苦手だと思われてるのかな?

 まあ、『キョウ』のメンバーとは、俺から距離をとってるしなあ。俺には無関心なんだと決め付けて。

 「お、おいっ!」と言いながら村野に小さく怒鳴り、俺は黙ってギターを片付け始める。地面にギターがつかないようにギターケースの中に上手くはいらせる。

 ほとんどの集まってもらってる人の視線が俺に向けられる。

 「高菜っ。次はいつやるの?」

 ええと、伊瀬美咲さん?がもう慣れたように俺に言う。ちなみに名前は胸のところのローマ字表記で書かれているゼッケンでわかった。

 「そうだね・・・。まだ軽音部の活動に沿って行くかな。できれば早くライブハウスに行ってみたくて」

 「まだ行ってないんだ?以外よ高菜君。チャラチャラした高校生とかいっぱいいるわよ?あんなとこ」貴新さんが遠い目をして言う。

 そりゃあ、いるだろうな。

 でも、俺は『キョウ』というバンドグループを超えたいんだと、思っている。

 

 あんな遊び半分な、学生生活の思い出程度にしか『軽音部』を思っていないのだろう。音楽を通して、友達が増えるとか、目立って人気者になりたいだとか。

 

 俺はこう言った。

 「でもさ。聞きたいって言ってくれて嬉しかったよ。皆さんありがとうございました」

 「うん。また聞かせてね?」

 「はいっ!ええと・・・、如月さん。とっても嬉しいよ!!」

 「今日はうちらだけだからね、活動してるの。他は遠征だの試合だので、いないからね。そいつらにも伝えとくよ、めっちゃ良かったって」

 「よろしくお願いします」

 何も謙遜することはない。クチコミで広まることに悪いことなんてない。

 だから如月さんの目をまっすぐと見て、

 

 「また、聴きに来て下されば、嬉しいです」


 とだけ言った。


そして、背後から何か楽しそうな声がしたんだ。


 そして後ろには、

 

 その『キョウ』のメンバーたちが居たんだ。


 

 高橋杞紗の目を数秒間にらみ、視線は村野へ。

 「俺?」

 「フフフッ。・・・帰るか」

 「あらもう帰るの?もっと話したかったのに」

 「時間切れ(タイム・アウト)です。貴新さん。またお会いしましょう」

 「そうか?また来いよっ」

 「うんっ!てかもっと学校でも話そうよ~」

 「根暗かと思ってたけど、化けたな」

 「歌ってる時は素敵よね・・・」

 「ホントホント。ギャップ萌えっていうやつ~!?」


 俺・・・、褒められてる?


 まずい、今ここで『キョウ』の皆のほうを向きにくいっ。


 勝手に帰ることには、別になんとも思われていない。以前言われた「お前は好きな時に来ればいいし、好きな時に帰れば良い」って。

 あいつらが楽しく音楽してる中、俺はあいつらのためのステージ設営を先輩たちと一緒に・・・。

 その時に言われたんだ。「お前はよく手伝ってくれるなあ。1年の中ではお前が一番の頑張り屋だ」って!

 そして、実は俺は『ソロ』だということに本気で相談してみた結果、最終的にそう言われたのだ。

 悟った。『それはどうにも出来ない』って。


 「いい歌だった」


 と、谷口は言った。俺はそう聞こえた。


 その一言で、俺は5人の方を向けた。


 どうやら今日は早めに終わるのか、皆楽器を背負っている。ピアノとドラムを除く。


 「お前に言われると嬉しくなるよっ。ずっと無視されてたから余計にな」


 「無視とかしてないって!いつも感謝してんだぜ?俺ら」


 「え?」


 「うまく言えないんだけど・・・ね?私たちは高菜君が裏で頑張ってくれているから、全く初心者ぞろいの私たちでも練習に集中できた!」

 「江口さん・・・」


 「ホントはずっとずっと言わなくちゃって思ってた!ありがとう・・・。そして、高菜君の歌、好きだよ?」

 「遠矢さん・・・」


 「わ、私も何か言わないとだね!えーと、えーと・・・。とにかくありがとう!」

 「井口さん・・・」


 「ほんとに、いつかでいい。一緒にライブで歌おう!!」

 「希沙さん・・・・」


 ちょっと!いきなりなんだ!こうやって、しかもテニス部の連中の前で!!

 俺は「フッ・・・」と言いながら空を仰ぐ。


 こういう言い方されると、悔しいけど、またあいつらと一緒に居たいと思うようになるし、色々教えてやるかという気にもなってくる。

 「人気上昇中の『キョウ』に、天才の高菜君が付くと・・・、マジで一気に有名になるんじゃない?」

 伊瀬さんはそう冷やかすが、今はそういう未来は計算には入れていない。

 はじめこそ寂しいという情を抱いたが、それでも俺になんの接触もしてこなかった。

 例え、谷口や江口さんがそんな表情をしてきたとしても・・・。


 「高菜?私たちは実はあんたのこと尊敬してたんだよ?なにより一人で活動しようとしてることに。私は一人じゃあ不安だから、誰かと一緒ならまだ・・・、なんておもってたし。でも、もっとそんな寂しい顔してないでいたらもっといいと思う・・・」


 「高橋さん・・・」

 

 これから、まだやり直せるのか・・・。

 俺は誰にも見えないよう、また顔を青空に仰いだ。

 

 だって、嬉しいって気持ちを、隠したかったから。

 「よかったじゃねえか!修希!」 

 「あ、ああ・・。まあ・・・」

 「ふむ・・・?まあ、なかよくしろよ?」

 「貴新さん・・・。はい。まあ」

 「?」

 「いや・・・。まあ、いや、・・・谷口」

 「?」

 3歩谷口に近づく。そしていう。

 「・・・・。ミーティングやるぞ。俺がギターとして入るんだろ?楽譜を書き直さないと」

 「お前そんなこともできるのかよ。やはりすげえよ・・・。そんなお前に俺は、嫉妬してたのかな・・・」

 「何か言ったか?」

 「いや?皆集まろうぜ?新しいバンド名も考えたいし!」


 正直に言おう。

 嬉しいよ。

 ありがたいよ。

 



 ・・・・・・・・。


 

 そんな未来なんて、来なかった。

 

 

 俺は心のどこかで、まだ人恋しさを求めていたらしい。

 申し訳ないが今までのは、よく小説で表現される『俺があったらいいな』という願いが見せた幻だったのかもしれない。

 

 だって、


 舞台は俺がテニス部たちに対し歌い終わったあと、振り返り、『キョウ』のメンバーと対峙していた場面に戻る。


 「お前勝手に抜け出すなよな!?迷惑してんだよ。はやく会場の準備に戻れって」

 「そうだよ?先輩たちにやらせておいて、自分だけいい思いしてるの?」

 「サボりかよ、お前」

  

 そして、それに対して俺が言った言葉。


 「俺の分は終わったから休んでた」

 「高菜君。自分の分は終わったからそれでいいの・・・?あ、豊橋先輩」

 恵那さんが俺を冷めた目つきで見つめてくる。まるで相手にするのがめんどくさいかのように。

 豊崎さんはちょうど近くを通りかかったから、気になったらしい。

 そこに2年の豊橋先輩は口をはさんだ。

 「いや?彼は確かに自分の分は終わらせてるし、椅子とか運んでくれたよ。それに一人で歌うからそんなに準備は時間かからないし」

 「フォローありがとうございます豊橋さん」

 「いや?それはいいが、たまにはミーティングに顔出せよ?いつも部長に聞くんじゃなくて」

 俺は部室に行っても、ただ気まずいだけの存在だった。先輩にも全員に好かれているわけじゃないし、なかには『態度が気に食わない』と言い、俺のどこが悪いのか聞いても教えてくれない先輩もいたし。ちなみにその先輩は留年中のアホだが。

 

 とりあえず、テニス部の部員たちに向かって言った。

 「ごめん、ちょっと部室戻るよ」

 「そ、そう?まあ、みんなと仲良くね?」

 これを言ったのは如月さんだった。

 「うん・・・、がんばるさ」

 少し笑って答えた。横から小さく「何ニヤニヤしてんだか。気持ち悪い」なんて、『高橋さん』が言ってるなんて信じたくもない。

 ていうか、気持ち悪いって思われてんだ。

 

 「高菜っ」

 「村野?」これは俺だ。

 「村野くん?」

 「誰?」

 「ヘラヘラ男」

 「井口さーん。そんなチャラチャラしてないよ俺」

 しかし、昔一緒にギター弾いていた時は、金髪ですごい化粧とかしていて。

 そう、俺らは昔、一緒にギターを弾いていた。当然軽音部に入って一緒に活動すると思っていたが、『部活には縛られたくない』という理由で、軽音部に入った俺とは、あまりこの頃一緒に歌う機会も減っていた。


 「どうしたんだよ?」

 「あのさ。今更だとは俺も思うよ?でもさ・・・」


 「俺ともう一度組んでくれねえか?お前とならっ!」


 組む、という事は、また昔のように路上ライブをしたり、一緒に曲制作したり、・・・むしろ楽しかったなあ。

 豊橋さんは言う。

 「へええ?もしかして入部希望者かい!?うれしいよ!」

 「村野?お前・・・」

 村野は口を閉じたまま微笑する。『キョウ』のメンバーは黙ってこっちを見ていたり、『村野ってどんな奴?』と聞く高橋さんが居た。村野とは全員大学からの付き合いのはずなので知らないはずだ。テニス部には、俺の知らないうちに何人かと仲良くなってたし。

 そのテニス部には同じ高校から来た「加瀬」という男がいたらしいが、俺は全く面識がない。基本彼は人あたりがいい人間のはずなので、そういう交友関係は広いのだろう。彼を通してテニス部の人と仲良くなったって言ってたな。

 

 「いいえ・・・?そんなことはありませんよ」

 「え?」谷口が言う。

 「どういうこと?」


 これは皆が疑問に思っただろう。

 やっぱり、思ったとおりだ。

 「??言っとくけど、高菜君は軽音部だよ。部外者が勝手に部員をとっていかないで欲しいんだけど?」

 豊崎さんが強い態度で村野に言う。

 まあ、向こうの5人組はこちらを『どっちでもいい』的な視線で見つめてくる。

 この先輩だけは、本気で対応している。

 そこに、村野は言う。

 

 「・・・・。軽音部ってやっぱりこういう組織なんだ。『部』は建前で、自分たちが音楽活動したいために、活動しやすいように『部』としたんだろう。だから純粋に音楽がしたいと希望を胸に入部してくる生徒たちは、居場所を作るために誰かと『バンド』を組むなりしている。でも、それでもあふれるやつがいるってこと、わかって活動してますか?」

 

 


 

 


 


 

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