第1話 デジタル遺品整理やの告白
死後の部屋には、特有の静寂がある。
それは単に音がしないという状態ではない。故人が生前、外界と結んでいた電子的な糸がすべて切断された後の、真空のような重力だ。
俺は瀬戸。デジタル遺品整理屋を生業としている。
依頼人は亡くなった高橋という男の遠縁を名乗る人物。高橋は独身で、都内の一等地に建つマンションで孤独死した。死後数日が経過していたが、部屋の空調が効いていたため、腐敗臭は最小限に抑えられていた。
俺はまず、持参した書き込み防止装置を対象のデスクトップPCに接続した。データ保全の鉄則だ。俺の仕事は、故人のプライバシーを整理することであり、法医学的解析ではない。しかし、遺族が「見たくないもの」を確実に除外するためには、ストレージの内容を正確に把握する必要がある。
モニターに映し出されたデスクトップは、驚くほど整然としていた。
アイコンはグリッド状に配置され、フォルダ名も『資産運用』『確定申告』『医療記録』と、極めて事務的だ。
「完璧すぎるな」
俺は独り言を漏らした。
人間は、死の間際まで自身の痕跡を隠そうとするものだ。検索履歴の消去、ブラウザのキャッシュクリア。しかし、このPCにはそれがない。まるで、誰かに見られることを前提に、最初から「正解」を配置しているかのような違和感があった。
かつて俺自身も、ある日突然、自分のデジタルな人生が消失する経験をした。恋人が事故で亡くなった直後、彼女のSNSアカウントが何者かによって一斉に削除されたのだ。俺が彼女と共有していた思い出の写真は、クラウドのサーバーから跡形もなく消えた。あの時、俺は「デジタルというものは、いかに脆く、他人の意志で簡単に書き換えられるか」を痛感した。それが、今の仕事に就いた動機だ。
俺は解析ツールを走らせ、隠しパーティションの有無を確認する。
案の定、システムドライブの末尾に、暗号化された領域が潜んでいた。
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本日完結します。




