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 結局その日は、あっさり解散した。


 折角難攻不落のダンジョンを攻略したことだし、打ち上げでもすべきかと思ったが、リンは未成年――法的には成人だが未だに18歳を成人を呼ぶ風習に慣れない。だって酒飲めないんだろ――だし、猫屋敷にも「帰ってお風呂にゃー!」と言われたので、ダンジョン出て即解散であった。


 クレイもハーロットに報告するとハーロット・セブンに戻ったので、一人で家路を歩きながらスマホで取引サイトを眺めていた。

 探索者御用達の取引サイトにはいくつかあり、オークション形式のものと金額を指定して出品をするもの、Aを渡す代わりにBが欲しいといった交換を前提としたサイトなどがあるが、最も使用者が多いのは、金額を指定して出品するものだろうか。


「あるなぁ…………」


 検索窓に『ハーロット・ワン』と入力してみると、出てくるわ出品が。

 とはいえ、落札されたのは半年ほど前の1件だけ。出品数は3、どれもが半年から1か月の間に出品され、幾度か値引きを重ねられたまま放置されている。

 フレーバーカードの扱いなんて、まぁこんなもんだ。とりあえず全部購入を押しておく。急がなくとも流石に他の誰かに買われることはないだろうが、念のため、だ。


 このサイトではいつもハーロット・セブンを買っていたが、カード名の完全一致による検索が主だから、他のハーロットシリーズが出品されている可能性は考えたこともなかった。試しに2から6まで検索してみたが、出てきたのは1と7だけ。

 クレイが言うように、他の船も全部同じような状況ならドロップしてもおかしくはないが――


「……ま、船自体がなきゃ、な」


 ハーロット・セブンは、内部には被害はあったが外装は無傷で、船自体は綺麗なまま残されているという。

 故にこちらに世界に繋げることが出来たというが、仮に外装から破壊されてしまえば、――宇宙海賊的なのに狙われて負けてしまったり、そもそも大破してしまえば、こちらの世界に繋げることなんて出来ないだろう。

 残された管理プログラムが同じ結論を出すとも限らない。少しだけ話を聞いた感じ、どこも乗員――船の管理者が居なくなったら俺の知ってるハーロットと同じプログラムが指揮を執ることになるらしいが、運営方針は船によってだいぶ違うようだ。

 というのも、ハーロット・セブンに乗っているのは船団の中でも身分が高い方ではない人たち。そちらに合わせているので方針も融和や管理が主軸となり、故に他の世界に繋げて次の管理者を待つ、という方向性になったんだとか。

 もし、もっと選民意識が高ければ、次元の圧縮すら出来ない4()()()()()の住まう世界に繋げようとは思わないのかもしれない。

 ――まぁ、結果的にハーロット・ワンのカードがドロップしている以上、何かしらの異変が起きていることだけは間違いないが。


「つってもなぁ……」


 これまでの仕組みからして、過半数のカードを集めた上で艦内に入れれば、俺が管理権限を取得出来る――はずだ。

 だが、クレイに念を押されている。


「一人では絶対に行くな、ってか」


 居住モジュールの解放には、もっと枚数が必要なはずだ。現時点ではハーロット・ワンに入ることは出来ない。

 しかし、仮に入れたところで、あちらが友好的とは限らないとクレイに言われている。

 もしかしたら人の存在だけを必要とされ、身体を乗っ取られるかもしれないし、入った途端に殺されるかもしれない。頼んでもないのに治療までしてくれた、ハーロット・セブンとは違うのだ。


「……いやこえーわ」


 言われてみるとそうなのだ。クレイが、ハーロットが友好的だっただけで、他の船も同じとは限らない。なにせ相手は物理法則すら異なる宇宙人である。身の安全を考えたら、完全に戦力を整えた上で乗り込みたい。

 となると――


「ま、優先はハーロット・セブンかなぁ」


 まだやらないといけないことはいくらでもある。カードからナノマテリアルを抽出する設備を解放するのだってそうだし、ハーロット・セブンを安全な宙域――太陽系まで移動させるという目標もある。


 それに必要なのは、アルゴンという気体の素材カード。

 以前一応値段だけでも見ておこうかと調べてみたが、ほとんど出品はなかった。どうやらアルゴンのような素材カードは算出するダンジョンの近くでそれを必要とするメーカーが買い取りするのが基本なようで、一般に出回るものではないようだ。

 まぁ実際のところ、効果もよく分からない気体を生み出すカードなんて、一般人が集めてどうとか出来るものではない。

 日本国内でドロップはしないようで、翻訳アプリを使いながら色々と検索してみたが、メーカーの希望買い取り価格は日本円で3000円程度だった。

 仮に同額で買えたとてワープに必要な700万枚を集めるには、相場が安定している想定でも200億円くらい必要になる計算だ。いくらなんでも遠すぎる。


 とはいえ、それを報告されたハーロットもクレイも、そこまで気にした様子はなかった。はなからダメ元の提案だったのだろう。

 流石に乗組員が居なくなった船で1000年間待ってた奴らだ。面構えが違うぜ。


「……ははっ」


 乾いた笑いが漏れる。ずっと停滞していたこの15年はなんだったのかってくらい、今はやる気に満ち溢れている。これは勇者(ブレイバー)の影響か、それとも。

 俺がもっと若かったら、行動は変わっていたのだろうか。


「まぁ別に、のんびりやれば良いだろ」


 ヤマトが居なくなってから、なんとなく生きていた15年間と、これからは違う。

 やりたいことがある。やらないといけないことがある。決着を、つけないといけないことがある。


(……勇気貸してくれよ、ヤマト)


 そう、もういない幼馴染に呟いて。

 俺は、家路を歩くのだ。

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