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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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独りの森

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―――『魔物憑きの森』の奥で独り残されたイェンリン。


「……」


常に発動している『索敵』は周囲にまだ魔物の存在を捉えていない―――


「―――ハァアアッ!!」


静寂の広がる森の中でイェンリンはフレイアの見せた動きを模倣して右手の手刀を振り払う。


だが、その行動が次に何かを引き起こすことはない……


「やっぱりダメだぁ!!……フレイアはあんなに自然にこんなことが出来るのに……何が一体違うの?」


フレイア達が立ち去ってから今まで、既に何千回と手刀を振り翳してみたが、結果はすべて同じであった。


思い悩みながらイェンリンはフレイアの刻んでいった大地の斬撃跡を見つめる。


魔力の発動は見られなかったフレイアの『真空刃(ホロウ・ブレイド)』は、イェンリンの考えでは物理的な攻撃だと考えていた。


(でも……本当に只の攻撃なら、やっぱり空中に何かを起こして飛ばしているとしか考えられない……)


イェンリンの思考は原理を求めることにすべて注がれていた。


物事の理屈が分かっていなければ、その現象を引き起こすことも、

繰り返し使うことも出来ない。


イェンリンの中でそれだけは答えが出ている。


後はその理屈を理解して身につけるだけだと思ってはみても、それが簡単に出来たらこのような苦労はしていない。


「ハァ……どっちにしても、深部にいる一眼鬼(サイクロプス)を倒さないと屋敷にも戻れないし、何より水と食料を確保しないと!」


そこでイェンリンはまず自分の食糧と水を確保することを優先することにして、


「やってみるか……ハアッ!!」


その場で膝を曲げて屈みこむと、気合いを込めて一気に上空へ向かって跳躍した。


「―――ッ!」


数十mまで跳躍したイェンリンは『思考加速』を発動して、周囲の地形や川の有無に食べられる木の実などが見つけられないかとクルリと横に回転する。


クルクルと錐揉み状に回転しながら地上に再び下り立つと、


「確かあっちに川があったわ。まずは水を確保しておかないと」


上空で見えた川がある方向へと森の中を進むのだった―――






―――鬱蒼とした茂みを掻き分け、木々の間を抜けて上空で見た地形を進むと小石が広がる川辺へ辿り着く。


「よかった。やっぱりこっちで方向は間違っていなかったわ」


小石の広がる川辺に出て、流れる川に近づいたイェンリンだが、


「おっと……生水を直接飲むと体調を壊すよね。こんな魔物がうろつく森で体調を崩したら、命が幾つあっても足りないわ」


『収納』スキルの中に持っている鍋を取り出し、川の水を汲み上げると今度は『収納』から薪を取り出して円型に配置する。


その周囲を川辺の手頃な大きさの石で輪の様に囲み、薪に火属性魔術で火を着けた。


「この程度の魔術なら私も使えるのよねぇ♪」


魔術が苦手なイェンリンではあるが、基礎的な魔術は人並に発動することが出来る。


またLevelの向上で魔力の量は増加しており、それらは発動可能な《身体強化》と《対魔法防御》の魔術にほぼ全振りされていた。


パチパチッと薪が燃え上がる上に先ほど川の水を汲んだ鍋を火の上に置く。


「沸騰させたら生水の悪いものがなくなるって、お母さんが教えてくれたのよね……」


そんな呟きに思わずしんみりとしてしまうイェンリンだったが、


「いけない!今のうちに何か食べ物を見つけてこないと。でも、さっきは木の実を見つけられなかったのよね……」


先ほどの跳躍で見渡した周囲に食べられそうな木の実のなっている木は見つけられなかった。


その時―――


―――パチャ!と川で何かが跳ねて波紋を広げる場面が見えた。


「ッ!―――魚がいる!そうか……木の実ばかりに気を取られていたけど、魚がいるならそっちの方が早い」


そうと決まればイェンリンはロングコートを脱ぎ捨て、ブーツを脱いで靴下も脱ぎ去ると川の中へ足を踏み入れる。


「冷たっ?!―――ウゥ……でも、ここは鍛えた『索敵』を活かして……」


そこで川の中に『索敵』を少し集中すれば、小魚や大き目の魚まで魚影がハッキリと見えた。


「よし……次は……」


そこからそっと近づこうとしたが、一歩踏み出すだけで目先の魚はビュン!と物凄い速さで逃げていく。


「簡単には近づかせてくれないか……やるわね」


魚の過敏さに感心するイェンリンだが、同時にそれは捕獲出来なければ腹を満たすことも出来ない。


「水の流れ……私の動き……それなら……」


するとイェンリンは川の中で比較的大きな岩や川端の影が差す場所を見つけ、その傍まで移動すると動きを止める。


川の水が流れる音だけが周囲に響く中で、イェンリンは『思考加速』と『索敵』と並列で発動して周囲の様子を観察していく。


時間がゆっくりと流れるような世界で、その流れもゆっくりとなった川の流れの中で泳ぐ魚影を見つけたイェンリンは、


「―――フッ!」


高速で繰り出した手を川の中に突き出す。


するとその時―――


―――川の水がまるでパックリと割れた岩のように裂け、その奥で水を失った魚が川底で混乱して跳ねている姿が見えた。


「ッ?!―――こ、これは!」


すると川の水が元に戻り、先ほど混乱を起こしていた魚が川の流れの中に消えていく。


「今のは……」


瞳を見開いて川面を見つめるイェンリンは、今の現象に『真空刃《ホロウ・ブレイド》』の原理を見た気がした。


「これは……もう一度!」


そこでイェンリンは先ほどと同じく『思考加速』と『索敵』と並列発動して、更に『身体加速』と『身体強化』まで発動して右手を構える―――


「―――フンッ!!」


―――先ほどよりも鋭く高速の手刀が空を走り抜ける。


その手刀が走ると同時に空中が裂ける感触が手に伝わり、そこで生じた裂け目に出来た真空の隙間がその行く手に放たれる―――


―――真空の斬撃が川面に到達すると、そこから川の水が斬り裂かれる。


それは先ほど見えた一瞬の小さな斬り口ではなく、川の水を大きく斬り裂く一撃だった―――


「……出来た」


―――自ら引き起こした事象にも関わらず、信じられないという顔をするイェンリン。


すると斬り裂かれた川が元に戻った後に、ぷかり、ぷかりと次々と魚が浮かび上がってきて、


「ッ!―――いけない!ご飯が流れていく!!」


川の流れに持っていかれそうになっている魚を素早くかき集めた。


先ほどの技で水中にて衝撃を受けた魚が気絶して浮かび上がり、慌ててそれを掴んだイェンリンは、


「フゥ……でも『真空刃《ホロウ・ブレイド》』については掴んだわ。後はこれを確実にものにしていくだけ―――」


そう呟いたイェンリンが川岸に戻ろうとした時、焚火を起こしている場所の傍に黒い体毛をした狼のような魔物が群れで姿を現していた。


「……『索敵』には映っていたけど、夜まで待つ気かと思ったら出てきたのね」


ほんの少し前に川辺の木々の茂みの中に『索敵』で反応を感知していたイェンリンだったが、それ以上接近してこない様子から夜襲を仕掛ける心算かと見ていたが、


「あれは……フォレスト・ウルフ……なかなかの群れね」


十数匹の群れを成した大きな体躯の狼達が、捕えた魚を抱えたイェンリンに向かって唸り声を上げながら待ち構えている。


「魚が目当てかしら?それとも私なの?それとも……両方狙っているとしたら、欲張り過ぎるんじゃない?」


ゆっくりと川岸に近づくと、それに合わせてフォレスト・ウルフ達も陣形を整えるように動き回る。


狙いやすい配置に入れ替わるように動く狼達を、イェンリンは真紅の瞳でジッと睨みつけながら川岸に上がった。


―――その瞬間、


【GAAAAA―――ッ!!】


狼達が一斉に襲い掛かる―――


「―――ッ!」


―――そこで一瞬驚いたイェンリンだったが、


先ほどと同じようにして、強化系の能力を発動する―――


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


そして『索敵』によって正確に周囲の敵の位置を把握すると、その手に形作った手刀を狼の目でも捉え切れない速度で振り抜く―――


―――次の瞬間、


【―――KYAINッ!?】


フォレスト・ウルフの身体が胴体から斬り裂かれて切断される―――


―――最初に襲い掛かった三匹がその餌食となり、次に飛び掛かった三匹に対して次の斬撃を繰り出すイェンリンの右手が空を走る。


すると攻撃してきた狼達は先ほどの狼と同じく首や脚、胴体を切断されて地面に落ちていった―――


「……まだやるの?」


―――その犠牲を前にして『威圧』を放ったイェンリンの瞳に光はない。


殺意に塗りつぶされた瞳と、放たれる『威圧』の直撃を受けた残りの狼達は尻尾を後ろ脚の間に差し入れ、両耳をペタンと寝かせて恐怖で震え上がっていた。


それは獣の本能だからこそ感じ取れる自分よりも強者に対する服従の姿勢である。


「……消えなさい」


静かに告げたイェンリンの言葉の意味を理解したかのように、後退するフォレスト・ウルフの群れはある程度の距離を取ると、一斉に森の茂みの中へと消えていく。


「まったく……でも……『真空刃《ホロウ・ブレイド》』を試すには丁度良かったわ。まだまだこれから自分のものにしていかないと」


そう言いながら、イェンリンは獲った魚で食事の用意を始めるのだった―――






―――陽が傾き始めた頃


真っ直ぐな木の枝に刺した魚を、先に用意していた焚火の周囲で地面に刺して焼いていくイェンリンが川辺に座り込んでいた。


あれから『索敵』には何度か反応を感じていたが、そのどれもが鹿や兎といった動物達で殺気を放つ魔物は今のところ先ほどのフォレスト・ウルフ以降は近寄ってきていなかった。


何度も裏表を返して魚に火を通し、しっかりと火を通してそれで食事を済ませたイェンリンは先に沸騰させて冷ましておいた鍋の水を飲む。


「はぁ~♪ ご馳走様でした。あれから襲ってくる魔物はいないけど……問題はどこで眠るかよね……」


此処には勿論だが建物などなく、突然襲撃してくる魔物から身を護る術がない状況だ。


そうなると洞窟といった身を隠せる場所があればいいのだが、昼間に周囲を確認した限りでは岩山など近くにはなく森が広がっているだけだった。


『収納』の中には鍋といった道具は多少あっても、身を覆い隠すほどの装備など持ってきてはいない。


「こんなことなら仮設出来るテントでも仕舞っておけばよかった……」


こうなっては周囲の木々を用いて身を護る物を用意するしかないと考えたイェンリンは、『真空刃《ホロウ・ブレイド》』の訓練がてらに近くの木々を伐採し、それを更に杭のように斬り裂くと川辺の地面に次々と突き刺し簡易的な壁を周囲に建てた。


Levelが向上したことで元々の能力値が高い上に、発動した『身体強化』により更に向上したことで伐採した木であっても軽々と運べた。


「家とはいかないけど、突然の襲撃でも時間稼ぎくらい出来るでしょ」


取り囲んだ太い杭の木々を見渡して、火にくべる薪を追加するとイェンリンは眠気が包み込む感覚を覚えた。


「ふぁあ~……少し眠ろう……何かあれば……すぐに……」


焚火の灯りと暖気を浴びて、森の中で独りイェンリンは眠りに就くのだった―――



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