第一章 ──筋力ゼロの絶望
「…………え?」
一瞬、何が起きたか理解できなかった。
目の前に広がるのは、土と岩がえぐれた巨大なクレーター。さっきまでそこにあったはずの丘は、跡形もなく消滅している。もうもうと立ち上る土煙が、まるで爆撃の後のようだ。
「……マジか。丘、消し飛んだぞ。」
自分のくしゃみ一発で。
これが「くしゃみ威力100」の力。もはや兵器だ。いや、天災だ。
「は、はは……! やった! これなら大魔王だろうが何だろうが余裕じゃん!?」
俺は勝利を確信し、意気揚々と立ち上がろうとした。
……はずだった。
「あれ?」
体に力が入らない。
ピクリとも動かない。
まるで全身が鉛になったようだ。いや、それ以下だ。赤ん坊ですら、これよりはマシだろう。
「そうか……」
俺は絶望的な事実に気づく。
ステータス振り分け表を思い出す。
筋力:0
知力:0
敏捷:0
耐久:0
魔力:0
幸運:0
魅力:0
睡眠耐性:0
「……立ち上がることすらできねえじゃん!」
そうだ。俺は「くしゃみ」以外の全てを捨てたのだ。
筋力0。それは、自分の体を支えることすら不可能だということを意味する。
「おいおい、神様! 説明不足だろ!」
俺は草の上に寝転がったまま、空に向かって悪態をつく。
最強のくしゃみを手に入れた代わりに、俺は「くしゃみをするためだけの肉塊」と化した。
このままじゃ、腹が減っても食い物すら取れない。
「くそっ……どうすりゃいいんだ……」
焦れば焦るほど、情けないことに涙が出てきた。
その時。
「グルルルル……」
低い唸り声が聞こえた。
茂みから現れたのは、牙を剥いた巨大な狼――明らかに魔物だった。
(やばい、食われる!)
そして、最悪なことに。
「……む、ムズ……」
また、鼻がムズムズしてきた。




