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19話 決戦②【ハーディ視点】

 渓谷の下から数百人の戦いの声が聞こえて来る。


 あっちの戦いも始まっているんだろうけど、あたし達も紅龍に集中しとかないとね。


 紅龍は高い飛翔能力を有しているけど、飛行時間はそれほど無い。

 一旦地上に降りて、再び飛び上がる必要がある。


 そこを兵士や冒険者達が攻撃を仕掛けてダメージを与えて、ドラゴンが逃げ出そうとするタイミングで魔道士による一斉攻撃で倒す。


 紅龍はドラゴン種の中でも魔法耐性が低いから、この作戦が成り立つ。


 そにために、数百人の兵士や聖騎士達が必死にドラゴンと戦っているのよね。


「シノンさん。大丈夫かな……」


「あれ、あんた確か……あの無能と一緒にいたフォンブラウンの……」


 あたしの視線に気づいた女は、一度こっちを見ると再びドラゴンの方へ視線を戻した。


「ちょっとなに無視してんのよ? あたしが聞いてるんだから答えなさいよ」


 女は全くあたしの声が届いていないのか、全くこっちを見ようとしない。


 すげームカつく。

 あたしを無視するだなんて、いい度胸してんじゃない。


「ちょっと、いい加減こっちを!」


「今は紅龍に集中しないとダメです。チャンスを作るために人達のために、ドラゴンを倒す事に集中したいんです。話なら後でいくらでもしましょう」


 あたしに説教するのか、この出来損ないは。


「ハーディさん。彼女の言う通りここは戦いに集中しましょうよ」


「……言われなくても分かってるわよ!」


 諭すサクサイに、あたしは少し当たってしまった。

 こんな落ち着かない気分じゃ魔法も、調子が悪くなりそう。


「調子に乗るなよ、レベルCが! あんたと冒険者レベルSのあたしとの力の差を教えてやるわよ」


 女は横目であたしを見ただけで、何の反応もしない。

 まるで相手にされていないこの感じに、あたしの苛つきがどんどん上がっていく。




 ○




 戦況は好転する気配はない。


 紅龍の炎のブレスや翼から引き起こされる風圧攻撃で、兵士や冒険者達はどんどん減っている。

 このままじゃ、魔法を撃つどころじゃなくて、あたし達にも危険が及ぶのは時間の問題。


 後方にいる若い指揮官は、どうしたらいいのか判断できない顔をしている。

 戦闘経験がほとんど無いんだろうけど……どこかの無能を思い出すくらい情けなくてムカつく顔だわ。


「ねえ! この指揮官に任せていたら、あたし達は無駄死によね」


 あたしは周囲に聞こえるように、大きな声を出してやった。

 それに反応するように、周囲の連中が騒めき出した。


「ねえ、紅龍に攻撃するのは、今が一番いいんじゃない? どう思う、みんなは? こんな無能な指揮官に任せていいと思う?」


「……そうよね。まだ兵士達が戦っているから、ドラゴンもこっちに気づいていないわよ!」

「ああ、そうだ! このままじゃ俺達は何もしないままやられてしまう!」


「なぁ、あんたリノアんとこのハーディだろ? あんたがこの場を仕切ってくれよ!」

「そうだそうだ! リノアパーティーの魔道士なら安心して任せられるぞ!」

「今からあんたがこの討伐隊のリーダーだ!」


 どうやらあたしの狙い通りね。

 みんなの不安を煽ってやれば、こうなる事は予想できたのよ。


「いいわよ。じゃあ今からあたしが――」


「待ってください!」


 さっきまで黙っていたフォンブラウンの女が大きな声を上げた。


 いい感じでまとまりかけた場の雰囲気が、この一言で止まった。


「まだ前衛で戦っている人達がいるんです。今攻撃なんかしたら、その人たちも巻き添えになっちゃいますよ!」


「何言ってんだ、あんた! あの状況が見えないのか!?」

「あなただって、無駄に死にたくないでしょ!?」


「はい。わたしもまだ死にたくありません!」


 周りから非難されているのに、この女は怯えて泣くどころか笑っている。


「はぁ? 死にたくないならなんで……?」


「わたしは今ドラゴンと戦っている人を信じているからです」


「おいおい。戦ってる兵士たち、どんどん倒されてるじゃないか? あんなのをどう信じろって言うんだ?」


「えーっと……わたしが信じている人は兵士さん達じゃなくてですね……仲間の聖騎士シノンさん一人だけなんです」


 女は視線を紅龍と戦っている兵士達の方に向けた。


 冒険者や兵士が減っていく中。

 青い鎧の女一人だけが、紅龍のブレスを防ぎ、攻撃を受け止めているのが見えた。


「……何あの女は……?」

「何って。あなたが言った壁役にもなれない聖騎士さんですよ」


 彼女の顔は少し誇らしげにしている。


「嘘でしょ!? あれがあの女だって言うの!?」


 あたしは夢でも見ている気分。


 聖騎士の女が、百戦錬磨の冒険者でも歯が立たない紅龍と対等に戦っている。


「だから作戦は必ず成功します。ですよね、指揮官さん」


「お、おう! 作戦はまだ実行中だ。みんないつでも魔法を放てるように準備しておけ!」


 他の連中も一瞬困惑した表情を浮かべたが、すぐに呪文の詠唱を始め出した。


 情け無い顔をしていた若い指揮官も、自信を持ったような表情をしている。


 フォンブラウンの女の言葉と、無能聖騎士の活躍がみんなに影響したって言うの?


 あの無能錬金術師の仲間にこんな事ができるなんて、あたしは絶対に信じない。


 あたしだけでも、ドラゴンを倒せるって証明してみせるわよ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


評価とブクマ、本当にありがとうございます。

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