9.三つの魔術
アリアさんは迷うようにロランの方を見ていたが、ロランが一度こくんとうなづいたのを見て、俺の質問に答えてくれた。
「そう、ですね。確かに私は護衛をする人間というよりか、暗殺をする人間ですし、ここで働かせてもらう前は人からの依頼で暗殺をしたこともあります。でも、どうして気づかれたんですか?」
これで俺の推理が外れていたら、ただただ恥ずかしいだけだなと思いつつ、話し始めた。
「一回目は少しの違和感でしかなかったんだ。ただ、足音がしないなと。普通の人間なら歩いた時に足音がするはずなんだ。実際、始めにこの部屋に来たメイドさんからはパタパタって、乾いた音がしていたんだ。でも、アリアさんからは一切その音がしなかった。まだ、数回しか会ってないから、これしか情報がなかったけど、どうでしょう?」
「そうですね。そんな所から気づかれたとは思いませんでした。次からの参考にさせていただきますね」
アリアさんが暗殺を出来るような人間だと確認を取れたので、俺は本題を話し始めた。
「アリアさんって、魔法を使えますか?」
「ええ、もちろんメイドの職務にも必要ですし、暗殺の方にも必要ですので、一通りの魔術は使えますよ」
一通りの魔法が使えるというのなら、話は速いけど、メイドの職務の何に魔法を使うんだろうか。
「じゃあ、自分の体を速く動かしたり、衝撃を和らげたりする魔法ってあるんですか?」
「もちろんありますよ。何しろ体を速く動かすなんて暗殺には必須ですし、脱出の時に飛び降りるときとかに衝撃を和らげる魔術を使ったりするので」
これなら、俺のたてていた作戦通りにことを運ぶことが出来そうだ。
「どんな種類の魔法なんですか?」
そう尋ねると、彼女は少し考え込んでから、
「そうですね。体を速く動かす魔術は三通りあります。一つは身体強化魔術です。その名の通り、自分の体を強化するもので、一番効果は大きいですが、その分代償もかなりのものになります」
「代償?」
そう聞き返すと、彼女は小さく首肯してから、
「ええ、代償です。自分の体のリミッターを外す方式でこの魔術は発動するので、リミッターを外していた時間に応じて、体が動かなくなります。まあ、一分使えば一時間は動けなくなるので、問題ありですね」
「うん、それは使いたくないなぁ」
「二つ目は風の魔術です。自分の体を風で押して、行動を早めるのがこの使い方ですね。代償は一切ありませんが、少々扱うのが難しいですね。でも、これは私がサポートしやすい魔術でもあります。ある程度練習は必要ですが、魔力に愛されているあなたならすぐに使いこなすことができるでしょう。」
魔力に愛されているってなんだろうか。また気になるワードが出てきたな。まだまだこの世界については知らないことが多すぎる。
「三つ目は周りを遅くする魔術です。これは自分が速くなるという訳ではないので、微妙なところではありますが。私が提示できる手段としてはこの三つですね。聞きたかったものはありましたか?」
これなら上手く差があって負けたように見せることができるだろう。
「もちろんありました。風の魔術です。これなら、わざと大きく負けてみせるのも簡単です」
すると、アリアさんは怪訝な顔で聞き返してきた。
「わざと負けるとはどういうことですか?」
確かにアリアさんにはこのことはまだ話していなかった気がする。
「明日、ある人物と戦うことになったのはご存知ですか?」
「それはもちろん」
「でも、その戦う人物と俺たちの間には歴然とした戦闘能力の差があるんです。だから、わざと大きく負けて仲間に危機感を持たせようかなと」
「なるほどです。それはよく考えたんですね」
彼女は感嘆したという表情でこちらを見ていた。そして、俺はアリアさんとミーシャにやってもらいたいことを話し出した。
「アリアさんには風の魔術でサポートをミーシャには吹き飛ばされた後のキャッチをお願いしたいと思う」
「わかったよ」
「わかりました」
二人がそう快諾してくれるのを聞いて、話が終わったと判断したのだろうロランが、
「じゃあ、もう今日も遅いしそろそろお開きにしようか」
ロランがそう言ったので、俺も
「明日はよろしくお願いします」
そう言って、話を締めようとしたが、アリアさんが最後に一つだけと言って、
「明日は風の魔術に乗るための練習をしないといけませんから、できるだけ練習時間を多く取れるようお願いします」
と言ったので、俺はああ、一番大変なものを選んでしまったのかもしれないとそう思ったのだった。




