2.安い挑発
いくら言うのを躊躇っていたからと言って、流石にこれは看過できないと思い、
「ちょっと、「おい、なんだよ。その言い方は!お前より俺たち全員の方が弱いって言うのか!?」
はあ、やっぱりここぞと言う時にやらかすよな、神崎は。俺が言おうとしているのに割り込んでくるとは……。
「ええ。そうですよ。今のあなた方に僕が負けるようなことは万が一にも有り得ません。」
さっきまでの慇懃な態度とは真逆の自信の塊のような返答をするアストル。
そんな態度にみんなも我慢の限界が近づいていたらしい。
「かいくんだったら、勝てるはずだよ!ねっ?」
そう周囲の期待を煽るような言い方で俺を指名したのは、遥香だった。
「いや、今の俺たちが勝てないのは事実なんじゃないのか?そもそも、元の俺たちの世界では、戦うなんてこと自体がなかっただろう?」
「それを言われたら、そうだけど……。でも、言われっぱなしで悔しいよ。あの鵜飼くんにも勝てたんだから、次もきっと……勝てるよね?」
俺はどうにか戦うのを避けようとしたが、遥香のこの言葉に反対する人がおらず、どちらかと言えば、憤慨の視線をアストルに送っている人の方が多いから、これが総意なんだろう。
「はぁー、やりたくはないが、やれということらしい。明日でも構わないか?この場でだと君も立場が良くないだろう?」
アストルもまさかそんな安い挑発に乗るとは思ってもみなかったようで、
「えっ?やるんですか。肉体的な戦いになると思いますが、いいんですね?」
一応、さっきはやる気を見せていた神崎にも確認した。
「神崎、大丈夫か?」
「ああ、もちろん海斗がやってくれ。」
内心、『人任せかよ!』とツッコまずにはいられなかったが、そんな気持ちはグッと心に押し込み、
「じゃあ、明日ロラン・フォン・エルトリア侯爵邸に来てくれないか。そこで戦うことにしよう。ロランさんも大丈夫ですか?」
ロランは笑って、
「そうかい、そうかい、また違うな。もちろんいいとも。若者が体を動かすのはいいことだからね。もちろん力を貸そう。じゃあ、アストルくん。君とはまた明日、お話したいものだね。」
こう言い、俺たちに場所の移動を促した。
少し、来賓と客の間でのトラブルがあったと思われていたようで、俺たちは気付いていなかったが、周りは騒然としていたが、ロランの一声で辺りは静まった。
「いやいや、先程の子はこの子たちと試合がしたかったそうで……。当家で明日試合をすることになったので、皆様方が何を心配されることもございません。」
そう言い終わると、最初のような喧騒が再び場に満ちていき、晩餐会の夜は更けていった。




