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第二十五話 ドラゴンは食材ですか?

「あ、外行ってたんだ。もうすぐ御飯炊けるよ」


 玄関の戸を開けると、丁度ジュリが食堂から出てくるところだった。


「ああ、井戸とかの案内してた」


 それにしても制服に割烹着か。

 ジャージよりかはマシだけども、なんだかなぁ。


「カエデ先輩、どうしました?」

「ん?」


 不思議そうに問いかけるジュリに横を見るがカエデの姿はない。

 振り向くと、玄関の一歩外にカエデは立っており、こちらを真剣な目で見ていた。


「ハヤト、ジュリ。遅くなったけど改めて、よろしくお願いするの。私、霜月 楓は今日から仲間として世話になるの」


 そう言ってカエデはペコリと頭を下げる。


 ……、まぁいろいろ言ったけど筋を通せるなら別に構わない。

 どうせ返済が終わるまで一蓮托生なんだ。

 それなら、暖かく良く迎えてやろう。


「こちらこそよろしく」

「うん、カエデ先輩。こちらこそよろしくおねがいします!」


 俺たちが返事をするとどこか照れくさそうに先輩は視線をそらした。

 キャラに合わないことすると気恥ずかしいよな、わかるわかる。


「そんな目で見るんじゃないの! それより早くご飯にするの!」


 玄関に入ってきた先輩はバタバタと靴を履き替え食堂へと走る。

 俺とジュリは目を合わせると、苦笑いを交わしてその後を追いかけるのだった。



「ちょっとだけいいか?」


 食堂に入ったところで俺とカエデはジュリへと声を掛ける。

 まぁ大した話じゃないんだけど、一応紹介は必要と思うからな。


「いいけど、もうすぐご飯だから手早くね?」


 そういいながらジュリはフライパンを火にかける。

 材料を見る限り、今日は生姜焼きのようだ。


 すぐに甘じょっぱい暴力的な香りが漂ってきて胃袋を刺激する。

 いろいろありすぎて忘れてたけど昼飯も食べてないんだった。


 うう、腹が減ってくるな。


「もう、二人ともそんな目で見ないの。すぐにできるから」


 フライパンから目を離していないのによくわかったな。

 ああ、ジュリも同じだからか。


「えー、カエデ以外にも新たに寮の仲間が増えることになりました」

「なの」

「へ? 新しい子がくるの? そういうことはもっと早く言ってよ」


 顔をこちらに向け少し困ったような表情を浮かべるジュリ。

 まぁご飯の支度考えるとそうだよな、だけどその心配はいらないんだ。


「よっこいしょ。この子です」

「KYUI!」


 俺は背中に隠れていたちびドラゴンの脇をかかえ、彼女に見せるように前に出す。

 ちびドラゴンは『よろしく!』といった感じの声を出しながら片手を上げた。


「……、食材?」

「違うよ!?」

「KYUUU!?」


 俺の使役獣、ペットだから!

 だからさばいちゃダメだからな!?


「冗談に決まってるじゃん。流石にそんな可愛い子食べたりしないって」


 心外だと頬をふくらませるが、割と本気で言っていたように思えるんだよな……。

 流石に信じたいけどさ、今日のメイン食材のグレートボアだってジュリがさばいたわけで。


「KYUI……」

「もぅ、そんなに怯えないでよ。あ、そだ。はい、どうぞ」


 そう言ってジュリがグレートボアの切れ端を箸でつまみ、ちびドラゴンへと差し出した。


「KYUI……?」


 ちびドラゴンは不思議そうな顔をして鼻をスンスンと鳴らすが口を開こうとはしない。


「ほーら、美味しいわよー?」

「KYUI……」


 あー、こいつ俺がテイムしたから他の人からは餌とかもらわないかも。

 犬系の使役獣では主人以外から餌とかを受け取らないやつがいるって聞いたことあった気がする。


 忠誠心の厚さがそうさせるらしくて、信用ができる相棒なんだとか。

 つまりこのちびドラゴンと俺とは信頼で結ばれてるってことか。

 嬉しいじゃないか、大切にしないとな。


「KYUIKYUI♪」

「ふふ、いいこねー」


 と思ってたらあっさり懐柔された、信頼とはなんぞや。


 というかお前は俺の使役獣、ペットなんだからな!

 ジュリにはやらないぞ!


「名前はなんていうの?」

「そういえばまだつけてないわ」


 ドタバタですっかり忘れてたけど、未だちびドラゴンの名前をつけていなかった。

 やっぱ小さくてもドラゴンだからな、かっこいい名前をつけないと。


「だったらポチって名前にしない?」

「なぜにポチ?」

「いいじゃない! ね、お願いっ!」


 ちびドラゴンを胸元に抱え、その前に両手を合わせて上目遣い。

 かなりの破壊力だけど、これは俺も譲りたくない。


 ジュリは犬を飼ってみたかったが、家では許されなかったらしくずっと憧れていたらしいけど。

 だからといって竜にポチはないと思うんだ。


「いや、もっとかっこいい名前が……」

「えー、いい名前でしょ? ね、ポチ?」

「KYUI!」


 ジュリが同意を求めるとちびドラゴンは喜びの声を上げる。

 そして他の名前で読んでも一切反応しなくなってしまい、結局ちびドラゴンの名前はポチに決定するのだった。


 この裏切り者おおおおおお!



「凄いの。ただのご飯のはずなのにすっごく美味しいの」


 椅子に座ったカエデが一口ご飯を口に含み、そのままご飯をかきこむ。

 美味しいのは分かるけど、おかずも食べろよな。

 じゃないと成長しない――なるほど。


「そういってもらえると嬉しいです。生姜焼きも食べてくださいね?」

「本当に久しぶりのご馳走なの……」


 そういえば先輩はずっと無料定食ばっかり食べてたんだっけ?

 無料定食は肉が出ることはないらしいからな。


「でも、グレートボアがこんなに美味いなんて意外だよな」

「……ぼあ?」


 魔物だからって偏見があったけど、食べてみると普通の豚肉より柔らかで脂も甘みがある。

 食べたことはないけどきっと黒豚とかにだって負けてないんじゃないかな。


 肉だけじゃなくて魔石も取れる、良いことづくめなのになんで牧畜しないんだろう。

 神様への冒涜になるとかそういう理由なのかね。


「うん、捌くのはちょっと大変だけどね」

「さばく……?」


 ああ、うん。

 一般人じゃまず経験しないようなことを王女様が当たり前のようにやっているのは突っ込んじゃいけないんだろうな。

 おかげで俺も美味しい飯にありつけてるわけだし。


 そんな事を考えていると先輩の箸が止まっていることに気がつく。

 魔石の欠片でも混じってたかな?


「……そういえばさっきは軽く流したけど、本当に魔物がいるの?」

「え? そうですけど……。あ、でも寮の周りにはあまり近寄ってこないので大丈夫ですよ?」


 たまに畑が荒らされるくらい。

 しかし罠にかかるものも多いので別に問題はないとジュリは笑う。


「これがその魔物の肉なの……? ちょっと信じられないの」


 そういいながらカエデは複雑そうに生姜焼きをつつく。

 寝床の周囲で魔物が闊歩していて、それが美味しいご飯に変わっている。


 普通の人には簡単には飲み込めないのかもしれない。


「……おかわりなの!」


 まぁカエデは図太いから問題ないみたいだけどな。


 それにしても昼もそうだったけど、よくこの小さな体にそれだけのご飯が入るもんだ。

 別に腹が膨れている様子も見えないし。


 と、呆れ混じりで見ていたら彼女の視線がテーブルの上から脇にそれ、ジュリの胸の下で微睡んで(まどろんで)いるポチへと注がれていることに気がついた。


「……」

「おい、よだれ流しながらポチを見るな」

「はっ、別によだれなんて流してないの! ドラゴンのステーキが美味しいって聞いたこと思い出しただけなの!」

「KYUI……」


 ジュリの膝の上に鎮座したポチが震えて縮こまった。

 それを見てジュリがポチを抱きしめながらカエデ先輩をたしなめる。


「カエデ先輩、ポチが怯えてるじゃないですか……」

「誤解なの! ちょっと尻尾切り取らせてもらえればいいなって思っただけなの。……あと角と爪と牙も」

「KYUII!?」


 誤解でも何でも無いよね?


 というかそれ、虐待っていいませんかね。

 少なくとも俺の常識では虐待だ。

 さすがの俺もドン引きですよ。


「つ、爪も角も切ってもそのうち生えてくるの」


 竜の角はエリクサーの素材の一つになるし、爪や牙なんかもポーションの効能を高めてくれるらしいけど……。


「そういう問題じゃねえよ」


 俺が隣りに座っていたら軽くどついてるところだ。

 斜向いに座ってるせいで微妙に足も届かないから蹴れないし。


 と思ってたら身の危険を感じたポチがジュリの膝上から俺の隣の席に移動してきた。

 カエデ先輩とはテーブル挟んで正面だけどいいのだろうか。


「ん?」

「KYUI?」

「お、おい、ポチ。お前角どうした?」


 テーブルの下から椅子に這い上がってきたポチの頭には既に角がなかった。


「カエデ!?」

「カエデ先輩!?」

「まだ何もしてないの!?」


 いやうん、わかってるけどとりあえず言ってみた。

 いくら先輩でも俺たちの目の前で、テーブルの下を通っている途中のポチから角を素早くもぎ取るなんて出来るはずがないしな。


「ご、誤解なの!」

「KYUI」


 ポチは一言鳴くと再びテーブルの下に潜り込む。

 そして再び出てきたポチの手には、さっきまでポチの頭に生えていた角が握られていた。


 どうやら生え変わりで抜けただけだったらしい。

 なんて人騒がせな。


「そういえばそんな話も聞いたことがあったの。でも本当のこととは思ってもなかったの」


 角だけじゃなく、爪や牙、鱗なんかも生え変わるらしい。

 当然だが尻尾は生え変わらないけど。


「まぁでもこれで無理に角をどうこうしなくてもいいってことだよな?」

「そうなるの。助かるの」


 そういって楓は喜ぶが、俺は別にただでやるとは言ってないからな。

 せいぜいふっかけてやる。


 え? 仲間?

 ほら、仲間だからこそけじめって大事だよね!


「それにポチが番犬になるなら私も安心なの」


 なるほど、警備料も……、まぁ仲間のよしみだ。

 そこは請求しないでおいてやる、ありがたく思えよ?


「なんなの?」

「いいやなんでも?」


 訝しげに首を傾げる先輩へ温かい笑顔を返し、俺は生姜焼きの最後の一切れを口に放り込んだ。

 うん、美味い。

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