第二十六話 戦果
「ん? でもドラゴンの子供なんてどこで拾ったの?」
食後のお茶をすすりながらジュリが首を傾げる。
ですよね。
低級の魔物ならともかく、子供とはいえドラゴンなんて魔素の薄い地上で出くわすことなんてまずありえない。
寮の周辺は魔素がかなり濃いみたいだけど、それでもせいぜいグレートボアやスライムが生息できる程度だ。
「あとこちら、マジックアイテムになります」
「ガラスの水差しとコップ? 違うわね。クリスタル製?」
「ああ、先輩の落ちたダンジョンで拾ったんだ」
「……」
ジュリは一瞬驚きの表情を浮かべた後、だんだんと眉間にシワを寄せ始める。
やっぱりこうなったか。
でも誤魔化しようがないし、後でバレるより今言っちゃったほうがマシだよな。
その後俺はめちゃくちゃ怒られた。
「はぁ……、ほんと無茶はやめてよね」
「いやごめんな?」
ハンカチで目元を拭きながらため息を吐かれると何もいえない。
無茶するつもりはなかったけど、ちょっと今回はイレギュラーが重なってたんだ。
ああ、こうやって冒険者は死ぬんだなって感じ。
「でも得るものもあったの……」
「KYUI……」
恐る恐るといった様子でカエデが口を開き、ポチが賛同するように鳴き声を上げる。
「まぁそうだけど、死んだら元も子もないんだからね?」
ジュリはそういいながらも水差しをコップへと傾ける。
中から溢れ出てきた水がコップに注がれるとコップからは薄っすらと白い煙が立ち上る。
「うわ、ほんとにキンキンに冷えてる。これ凄いわね」
売ればきっと数十万円にはなるはず。
もしかしたら百万円くらいになるかもしれない。
焼け石に水だけど、それでも完済まで一歩前進するはずだ。
「魔石も二十個近くあるのね」
「ああ、たしかダンジョン産の魔石は安くても一個三千円くらいの買い取りだったはずだよな?」
九割抜かれるとはいえ、生活はだいぶ楽になる。
そう考えると怪我の功名だったかもしれない。
「待つの、売るのはやめておいた方がいいの」
「え?」
これからの生活を妄想する俺たちにカエデから待ったの声がかかる。
口元をへの字に曲げ、三白眼をこちらに向けるその姿はやや不機嫌そうに見える。
「Fランク冒険者がダンジョン産の魔石を売るってどういう意味なのか、冷静に考えるの」
「あ……、でもカエデ先輩が売れば問題ないんじゃないんですか?」
俺たちが売るのは問題だろうけど、ジュリの言う通りカエデなら別に問題ないと思うけど。
しかしカエデは目をつぶって首を振る。
「私は神官なの、一人でダンジョンに潜って、しかもこれだけの戦果上げれるなんてありえないの」
Fランク冒険者であってもCランク冒険者の引率があれば初級ダンジョンに入場可能ではあるらしい。
ただ、初級ダンジョンでここまでの戦果はそうそう出せない。
しかもマジックアイテムのドロップまでとなれば絶対に疑われるそうだ。
「スネに傷があるのにそんなことしたくないの」
痛い腹を探られるのは嫌だとカエデは肩をすくめた。
「そうすると……」
「魔石も水差しも売らずに寮で使うしか無いと思うの」
「まぁそうなりますよね」
はぁ、でもまぁ損をしたわけではないし。
俺たちの冒険者ランクが上がって、中級ダンジョンとかに挑戦できるようになってから売ればいい話ではあるか。
「でも売らなくていいならそれはそれでいいかもしれないの」
「どういうことだ?」
「冬は薪ストーブ炊けばいいけど、夏は冷房が無いの」
魔石が空になるまでの制限付きとはいえ、無限に水の出る水差しと振れた液体を一瞬でキンキンに冷やすコップを組み合わせればちょっとした冷房になるということらしい。
いまいちピンとこないが、カエデが言うってことは冷房のない生活はかなり辛いのだろう。
「あと誰にも言わないでほしいんだけど……」
「まだなにかあるの……?」
そういやそうな顔するなよ、これがラストなんだから。
「だってさー。もうここまででもかなり面倒事よ? ハヤト何回停学になるつもりなのよ」
そうは言っても、今回は俺が悪いわけじゃないと思うんだ。
しかしこの学校にきてまだ二週間くらいしか経ってないのに既に退学二回、停学1回の危機に遭遇とか。
もう少し大人しくすべきだよな。
「まぁこれが最後だから。これなんだけど」
「なにこれ? これもドロップアイテムなの?」
俺がポケットから取り出した小さな白い石。
紫で半透明な魔石とは明らかに違うそれは薄っすらと光り輝いていた。
「ダンジョンコアです」
「は?」
俺がその白い石の正体を伝えるとジュリはぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
「おーい?」
「固まっちゃったの」
カエデが目の前で手を降ってみるが反応しない。
なんとなくそこに煎餅を突っ込んでみたらもしゃもしゃと口を動かして飲み込んだ。
「……さり気なく人の口に煎餅つっこむのやめてくれる?」
「お、おぅ」
再起動したジュリがジト目で俺をにらんでくるがそこなのだろうか。
まぁいいや。
「ダンジョンコアです」
「うん、聞いたけど……」
ジュリは頬に手を当てて眉をひそめる。
ダンジョンで拾ってきたと考えるのが普通だけど、常識的に考えて丸腰でダンジョンコアをダンジョンから持ち帰るなんて不可能。
ポチはドラゴンといってもまだ子供で戦力にならない。
「えーっと、実はこれ、ポチが持ってきたんだ」
「は? ポチってダンジョンのボスだったんじゃないの?」
ジュリは何を言っているんだお前はといった表情を浮かべ、俺に問いかけてくるが俺だって何が何だかわからない。
ダンジョンの帰りも魔物に襲われなかったこと含めて意味のわからないことが多すぎる。
「でもまぁ持って帰ってきたものは仕方ないし、これ神様に捧げようぜ」
深く考えても仕方がないと俺はジュリとカエデに提案してみたが二人とも浮かない顔を浮かべている。
「ハヤト、さっきも言ったけどどうやって捧げるつもりなの。祭壇の使用申請なんて出したらすぐにバレちゃうの」
「そうね。神様に報告なり奉納なりするにはどこかしら祭壇使わなきゃだけど、学校の使ったらすぐ見つかっちゃうわ」
別に祭壇にこだわる必要はないのでは?
そう思ったが、カオスさんみたいなタイプはもしかしたら珍しいのかもしれない。
それにカオスさんは一応封印されている神様だし、仲間とはいえ他人には言わない方がいいよな?
「それにそのダンジョンコアはハヤトが一人で入手したようなものなの。自分で持っとくといいの」
そういうと話は終わったとばかりにカエデとジュリはお茶を飲み干すと自室へと引き上げていった。
ちなみにポチはジュリについて行ってしまった。
ポチぃ……。
「カオス様カオス様……」
新しく手に入れたちゃぶ台を自室に置き、その上にダンジョンコアといくつかの魔石を載せて祈りを捧げる。
(はいはい、貴方の神様カオスさんですよー)
(あ、夜分失礼します。今大丈夫ですか?)
もう神様とは思えないこの軽いノリにもなれた。
一応敬意は持ってるつもりだけど、カオスさんはあまりそういうの表に出すの嫌がるっぽいしね。
ともかくカオスさんの返事に合わせるようにダンジョンコアと魔石は消えていく。
今回はちゃぶ台は消えなかったので一安心だ。
(それで、今度は何があったの?)
(あはは、話が早くて助かります)
これから風呂の支度もあるし、手短にしないとな。
俺はさっくりと今日の話を説明したが、カオスさんはなんともいえないといった回答しかくれなかった。
(まぁ神様っていっても全知全能とは程遠いからね)
むしろ無知無能といったほうがいいんじゃないかと笑うが、反応に困ってしまう。
(まぁそっれはさて置き、これがダンジョンコアってやつなんだね)
(ええ。一応奉納しておこうかと思いまして)
こんな爆弾、手元においておきたくない。
ポチはまだどうにかなるかもしれないけど、ダンジョンコアが万が一見つかったら言い訳のしようがないし。
(たしかダンジョンコアを捧げたら等級が上がって、スキルが付与されるんだっけ?)
(あー、一応そうなってますけど今等級上げられたら困っちゃいますね)
なんせステータスの値は最初にカオスさんから付与されたときから変わっていない。
今上げてしまうと大損もいいところ。
ステータスだっていきなり変わっていたら怪しいってもんじゃない。
(ふむふむ、なるほどねぇ。ならマクスウェルの目を誤魔化せば問題ないんだよね?)
(え? どういうことですか?)
カオスさんいわく、神様がその気になればステータスカードの情報を誤魔化すことくらいわけないらしい。
ただステータス値を誤魔化すと後が面倒なので今回は隠しスキルを付与してくれることになった。
(うーん、どういうのがいいかなぁ。クエストポイント捧げてもらって、それに見合ったスキルにしなきゃいけないんだっけ?)
(そうですけど、今クエストポイント殆どないんですよね)
なんせまだFランククエストを数回こなしただけ。
それだってB評価でのクリアは一回だけだ。
(んー。まぁ今回はステータスの値いじらないし、そこはサービスしてあげよう)
(え? いいんですか?)
神の権能の欠片をそんなホイホイ上げてもいいものなのかと俺は躊躇してしまう。
だけどカオスさんはどうせ一人にしか上げないから問題ないとサクッと俺に新しいスキルを付与するのだった。
……、選ばせては貰えないらしい。
(今の君に必要なスキルだと思うよ。十分に活用してくれ)
(あ、はい……)
(じゃ、ちょっと今立て込んでるからこれくらいでね)
カオスさんは少し焦ったようにそれだけいうと会話を終わらせるのだった。
しかし神様から頂いたものに対して文句をいうのはダメだけど……。
「こんなのもらっていいのか?」
ステータスカードには特に変わった表記はない。
だが、新たなスキルが付与されている実感はある。
そしてその力も何となく理解できた。
「戯神工作に神威結界って……」
戯神工作はさっきカオスさんの言っていたマクスウェルとやらを誤魔化すためのスキルだろう。
常時発動してるみたいだけど、特に精神力の消耗はなさそうだ。
そして神威結界だが、これは『全てを通さない』という事象を一定範囲内に発生させる不可視の盾みたいなスキルだ。
強力だが燃費は極悪で、使用すると精神力がゴリゴリと削られていくのは間違い。
一メートル四方くらいのサイズを一つであれば数分であれば出していられそうだが、複数出して周囲を覆うのはかなり無理があるように思える。
無限接続といい、人の身に与えるのは色んな意味で過分すぎるスキルだよなこれ。
「ハヤトー、そろそろお風呂の支度お願いできる?」
「あ、わかった。これからやるわ」
うげ、もう八時回ってるじゃないか。
これから沸かしたら九時は回るし、寝るのは遅くなりそうだ。
本当に明日が日曜日でよかった。




