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第二十三話 撤退戦

「それじゃ、覚悟決めていくの」

「おぅ」

「KYUI」


 先頭はちびドラゴン、その後ろに俺。

 最後尾には先輩という配置でダンジョンを進むことに決めた。

 というか他に選択肢はないんだよね。


 あとは極力戦闘は控えるって方針しか決めていない。

 もし魔物と不意に遭遇したら逃げれるなら逃げて、無理そうなら戦う。


 配置にしても方針にしても、選択肢がない状況ってのはかなりまずい。

 何か一つボタンの掛け違いがあっただけで全滅は必至だ。


「KYUI」

「こっちか」


 静かに、そして確実に俺たちはちびドラゴンの案内で通路を進んでいく。



「KYUI! KYUIII!」

「す、凄いの!」

「まじかよ……」


 三十分くらい歩いただろうか?

 俺たちの正面には墨で塗りつぶされたような凹凸のない壁が鎮座していた。


 それはまさしくダンジョンの出入り口の姿だ。


「一度も魔物と遭遇しなかったの……」

「そう、だな……」


 先輩は気がついていなかったみたいだが、何度か魔物とはニアミスしている。

 俺なんか一度目があったからな。


 しかし魔物は俺たちを襲ってくるどころか、慌てた様子で逃げていったのだ。


 普通一部のものを除いて魔物が逃げ出すなんてことはありえない。

 大体俺たちはダンジョンコアを持っているんだ、狂ったように襲いかかってくるのが普通だろうに。


 やはりダンジョンボスがこっちについていたからだろうか?


「早く出るの。ジュリエットが救助を呼びに行ってるの」

「あ、そうだった!」


 早く無事に脱出できたことを知らせて救助要請を取り下げないと。


 俺たちは急ぎダンジョンから飛び出した。

 そして黒い壁のその先は……。


「……、学校の裏?」


 少し離れたところに見える校舎。

 そして手前に広がる畑。

 反対側を見れば森が広がっている――今出てきた出入り口が消えてる……。


 ともかくそこは俺たちが先輩と出会ったところのすぐ近くだった。


 そんなバカな。

 ダンジョンに入った所はサイハテ寮までの道の途中だぞ?


 意味がわからなすぎる。

 普通ダンジョンの出入り口は移動しないし、コアが持ち出されない限り消えることはない。


 あ、持ち出したから消えたのか。

 でも出入り口が変わったのは流石におかしい。

 消えてしまったから検証のしようがないけど……。


 っと、今はそれより救助の手配を止めに急がないと。


「ハヤト、ちょっと待つの」


 一歩踏み出した俺に待ったの声がかかる。

 見れば真剣な眼差しをした先輩が少し青い顔で震えていた。


「え? でも先輩、急がないと救助が着ちゃいますよ? っていうか顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

「気分は最悪だけど大丈夫なの。それよりなんて説明するか、口裏合わせていくの」


 先輩が言うには、Fランクの俺が勝手にダンジョンに入ったことがバレたら一ヶ月以上の停学処分になる可能性が高いそうだ。

 ちょっと入ったくらいならともかく、装備もなしに最奥までというのは流石に擁護のしようがないと。


 それにダンジョンボスをテイムしたことや、ダンジョンボスがコアを持ち出したことなどイレギュラーが多すぎる。

 殺されることはないと思うけど、下手したらどこかの研究機関に送られてしまう可能性があるらしい。


「大げさかもしれないけど慎重に行ったほうが良いの。それに救助がもう来てる可能性もあるの」


 神様から祝福を受けてる者を安易に殺したりはしない、でも拘束していろいろと調べる分には問題ないと。

 そうなると下手なことは言えないか。


「私は崖からダンジョンに落ちたけどすぐに這い出てくることが出来た。ただ崖を登れなくて大回りして学校に向かったけど道に迷ったから時間がかかった。大八車は回収できなかった。そういうことにするの」

「なるほど……」


 いろいろ混乱することも多いのに、よくそこまで頭が回るな。

 こういうのは経験が物を言うってことなんだろうか?


「KYUIKYUI?」

「お前はどっかに隠れてるの。コアも見つからないように気をつけるの。あと私たちが校舎を出たらこっそりついてくるの」

「KYUI!」

「ハヤト、何を言われても知らぬ存ぜぬを通すの」

「わかりました」


 流石にずっと騙すわけにも行かないのでジュリには後で説明するとして、ともかく方針は決まった。


 俺たちは緊張を胸に職員室へと足を運んだ。



「ともかく無事で良かった」

「すみません、ご心配おかけしました」


 幸いと言っていいのか、救助は別件で立て込んでおりまだこちらに向かってすらいなかったらしい。

 今回はそれで助かったけど、もしダンジョン内で身動きが取れなくなっていたらと思うと血の下がる思いだな。


「ほんとよ、いくらステータスに守られてるって言っても限度があるんだからね?」

「わかってるって、でも別にそこまで無茶ってわけでもないだろ?」

「ハヤトわかってない! 頭打ったらあっさり死んじゃうことだってあるんだからね!?」


 たまたま当直だった綿貫先生も少し怒っていたが、崖から降りたと聞いてそれ以上に激怒していたジュリのおかげであまり叱られることはなかった。


「はぁ、今日は疲れたし早く帰りましょ」

「あー、その、心配掛けてゴメンな?」


 俺が謝るとキョトンとした顔をジュリは浮かべる。


「良いのよ。仲間だしね」


 そしてそういうと照れくさそうに笑うのだった。


 仲間、か。

 心配掛けないように頑張らないとな。


 さて、これから飯作って風呂を炊いてとなると結構時間がかかる。

 寝るのは少し遅くなりそうだな。

 明日が日曜日でよかった。


「それでは失礼します」

「ああ、そうそう、大八車の代金は借金に追加しておくからな」


 帰り際に無慈悲な一言を突きつけた綿貫先生に恨みはない。

 借り物を紛失すれば当然のことだからな。


 だけど十万円か……。


 薬草を失うばかりか、大八車の代金十万円が借金に加算されてしまった……。

 その後俺たちはトボトボと寮への山道を歩くことになるのだった。



「あれ、そういえば先輩はなんでこっちに来てるんですか?」

「なの?」


 暗くなってきた山道を登ること三十分。

 ジュリがふと疑問を口にする。


 言われてみればたしかにそうだな。


「そっか、薬草無くなったから別に来なくていいんじゃ?」

「ちょ、ちょっと待つの、今更帰れっていわれても困るの!」


 まぁ。これから戻ってテント張り直すとかなり遅くなってしまうか。

 それに今日あったあれこれをジュリに説明するにもいてもらったほうがいいかもしれない。


「それに後輩は先輩を部屋に泊めるものなの!」

「え、そ、そうなの? ハヤト?」


 今までそういったことに縁のなかったジュリは目を泳がせて俺へ聞いてくる。


「えっと、そういうこともある、かな?」


 先輩なんか必死な様子だし、とりあえず援護しとこう。


 というか部屋に泊めなくても別に空き室あるからそっちに泊まってもらえばいいんじゃないかな。

 布団とかは自前の収納に入れて持ち歩いているみたいだし。


「空き部屋があるの? なら私もサイハテ寮に住むの。サイハテ寮はヤバイって聞いてたけど、二人が暮らしてるなら問題ないの」

「ヤバイって何がです?」


 確かにボロだけどそこまで悪くないと思うんだけどな。

 住めば都というか、侘び寂びのある住まいだと思うよ?


「電気も水道もないって聞いてるの」


 ああ、うん、そのとおりですね。

 でもまぁランプはあるし井戸もある。

 寮生が三人になったらトランプだって出来るようになる。


「それに魔物が近くを闊歩してるって噂なの」


 ああ、ボア系の魔物のことかな。

 こないだジュリが仕留めてくれたやつ、美味かったなぁ。


「おばけも出るって聞いたの」

「いや、流石にそれはないですって。というか先輩そんなの信じてるんですか?」


 おばけなんているわけが無いだろうに。

 ジュリが呆れてるぞ?


 年の割に子供っぽいな、見た目通りではあるけど。


「ハヤト、また何か失礼な事考えたの」


 そう言いながら先輩が胡乱(うろん)な眼差しを俺へ向けてくる。


「え、先輩相手の思考読めるんですか?」


 そんなスキルを持ってるなんて聞いてないけど。

 顔に出てたかな?


「少しは否定するの……」


 がっくりと首を落として、ため息を吐かれるが気にしてるのだろうか。

 でもまぁそういうのが好きな人もいるから元気だしてほしいな。


「冗談ですって。まぁ、サイハテ寮には照明も水もありますよ。ストーブだってちゃんとありますから」

「そこじゃないの!」

「……、なんか急に仲良くなってない?」


 ムキになって怒る先輩をからかっているとジュリが訝しそうな声を上げる。


 仲良くというか、打ち解けた感はあるかな。

 一緒に死線をくぐって間にあった壁が砕けたというか。


「べ、別にそんなこと無いの! こいつと仲が良いだなんて心外なの!」

「あーうん、寮についたら説明するよ」

「ふぅん?」


 騒ぐ先輩と仲間はずれにされ微妙に不機嫌なったジュリと一緒に、俺たちは寮へと急いぐ。


 もうすっかり暗くなってしまっている。


 はぁ、これから風呂炊きなんだよなぁ。

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