第二十二話 ダンジョンコア
「KYUーKYUー!」
「おおぅ、ういやつめ!」
五分後、俺は腹を満たしたちびドラゴンになつかれていた。
最初は怖かったが、慣れると結構平気なもんだな。
冒険者の中には魔物をテイムして戦う人もいるみたいだし、俺がこのちびドラゴンをテイムしても別に問題はないよな?
頭もよく、どういうわけか俺の言葉も通じるみたいだ。
おかげで剣を食べちゃって俺が凹んだこともよく理解しているらしく土下座してきたし。
まぁ剣を食べたおかげか、少し成長したらしく歩けるようになったからいいや。
うん、そういうことにしておこう……。
「KYU!KYUー!」
「あはは、くすぐったいって!」
まぁ、どうせ棚ぼただったんだ。
なかったものとして諦める他ない。
そりゃ気にならないって言ったら嘘になるけど、もう食べられちゃってるしね。
畜生……。
「あ、そう言えば先輩見てないよな?」
「KYU?」
「えっと、俺みたいな人間の女の子で……」
頑張って特徴を伝えてみたらなんとか通じたらしい。
こっちにこいと俺を引っ張っていった先にはこの部屋の扉と同じ様な扉があり、今度はシャッターのごとく上に持ち上げると開いた。
その先には薬草のベッドの上で片肘をついて横になり、不機嫌そうに薬草をかじっている先輩の姿があった。
「先輩……」
「ハヤト君……」
よかった、なんか薬草まみれでひどいことになってるけど無事みたいだ。
「よくぞ、ご無事で……」
「ハヤト君!!」
俺に向かって駆け出してきた先輩に、俺も答えるように両手を開く。
感動の再開だ。
先輩も感極まった表情で俺に向かってジャンプしてくる。
「無事で、本当に無事で良かっゴブホオオオオオ!?」
そしてそのまま俺にドロップキックを決めてきたのだった。
「KYUKYU!?!?」
なっ、なっ、何こいついきなりドロップキックしてくれてんの!?
俺、さっきのスキルの影響でもう限界なんだよ!?
悶絶する俺に追撃とばかりに先輩は蹴りを入れてくる。
何なの!? 何なのこいつ!?
俺結構必死にここまで来たのに、なんでこんな仕打ち受けなきゃいけないんだよ!?
「助けに来てくれたことは素直に感謝するの……」
「KYUー! KYUー!」
ドスの利いた先輩の声と必死なちびドラゴンの悲鳴になんとか顔をあげた俺の視界に飛び込んできたのは、小さな翼を必死に広げ、先輩から俺を守ろうとしているちびドラゴンの小さな背中だった。
「ちび……?」
「トカゲ、そこを退くの! そいつ蹴れないの!」
「KYUI!? KYUIIII!!」
三白眼も相まって、凶悪な表情を浮かべる先輩に蹴飛ばされ、投げ飛ばされ、地面に叩きつけられ……。
「もう、もうやめてくれよ……」
打たれ地面に伏せることになっても、何度でも立ち上がりちびドラゴンは彼女の前へと立ちふさがる。
その姿は、勇者や英雄といったものを彷彿させるものだった。
「KYU……、KYUII……」
「だから邪魔なの!! いい加減起き上がってくるななの!」
……。
一応ちびドラゴンってこのダンジョンのボス枠だよな?
「なんでなの。お前はなんでこんなにボコボコにされても立ち上がってくるの……!」
「KYUI……、KYUIII……!」
なんで囚われの姫君枠の先輩が無慈悲にちびドラゴンをボコってるのか。
これだとどっちが悪役かわからないんですが。
「いやマジいい加減にしてくれよ……。そのドラゴン俺のなんだけど……」
「はっ、お前何様なの? 私の事チビだのペド御用達だのつるぺただの好き放題言ってくれてたのは聞こえてたの!」
……。
え、全部聞こえてたの?
このダンジョン、壁薄すぎない?
「え、いや、とりあえず落ち着いてくださいよ。ロリ月先輩!」
「絶対わざと言ってるの!? ふざけんななの!!」
「KYUI……」
更に激高した先輩が標的を変え、俺へと蹴りを繰り出してくるが今度はちびドラゴンも俺を守ろうとはしてくれなかった。
げせぬ。
そのまましばらく俺は蹴られ続けた。
「正直、本気で死んだと思ったの」
「ひゃい……」
先輩は崖から落ちた時に気を失い、目が覚めたときにはここにいたそうだ。
一つだけあった扉は押しても引いても開かないし、食料は薬草のみ。
淡く光っている壁面などの特徴からダンジョンのどこかに居ることはわかったが、救援が来るかどうかなんてわからない。
それに神官が一人ダンジョンではぐれるのは死を意味しているらしい。
「だから助けに来てくれたのは、さっきも言ったけど感謝はしてるの」
蹴られながらもなんとか状況を説明したことで先輩はようやく矛を収めてくれた。
しかしその代償は大きく、俺は全身に打撲他負傷多数となってしまっていた……。
ここまで来るのに負傷らしい負傷はしていなかったというのに。
どうしてこうなった。
「仕方ないから今回だけは特別に、と・く・べ・つに! これで許してやるの! あと、あ、ありがとなの!」
「ひゃい……」
ふてくされたように感謝の言葉を口にする先輩の顔は、正座させられている俺には見えなかった。
なんせ蹴られすぎて目が腫れていたので。
「はぁ……、とっておきのポーション使ってやるの。感謝するの」
「うわっぷ! 急に何するんだよ!?」
もうさんざん蹴って満足したんじゃないの?
弱った俺に更に水をぶっかけるとかこいつマジで悪魔かよ。
「もう痛いところ無いはずなの」
「あ゛ぁ゛? そんなわけ……、あれ?」
傷が、治ってる?
立ち上がって確認したが、本当にどこにも傷は残っていないようだ。
それに全身を満たしていた疲労感も無くなっているような。
「私特製のとっておきのポーションなの。そこいらで売ってる上級ポーションより効果は上なの」
「え? そんないいもの使ってよかったんですか?」
上級ポーションと言えば一本十万円はくだらない高級品のはず。
それを使ったというのか?
なんてもったいないことを……。
「帰るまでが冒険なの。はぁ、冒険をするなんて冒険者失格なの……。ハヤトは本気で反省するの」
「いや、面目ありません……」
うん、我ながら無茶をしすぎたと思う。
無限接続使ってボロボロだったし、仮にボスを倒してたとしてもポーションがなかったら身動き取れなくなってたよな。
もしジュリにバレたらなんて言われることやら。
想像するだけで恐怖だ。
「ともかく、このダンジョンから脱出することが今は最優先なの」
「でも、出入り口すらわかんないんですよ」
ボス部屋にたどり着けたのだって俺の実力じゃない。
何者かの助力というか、意志の働きがあって連れてこられたに過ぎない。
「殊勝な心がけなの」
でも、と満足そうな顔で先輩は続ける。
「私たちには切り札があるの」
「切り札、ですか?」
「KYUー?」
キランと青い瞳を光らせ、自信ありげに先輩は俺たちの方を指差す。
しかしそんなものあっただろうか?
ちびドラゴンと目を合わせるが、ちびドラゴンにも心当たりが無いらしく首を傾げられてしまった。
「すっとぼけてんじゃないの! そのちびドラゴンはこのダンジョンのボスなの! だったら出入り口だって知ってるはずなの!」
「KYU!」
先輩は地団駄を踏んで激怒する先輩と『そういえば!』といった様子で声を上げるちびドラゴン。
おぅ、ちびドラゴンよ、お前もポンコツ属性持ちか……。
まぁいいけどさ。
「KYUIKYUIー」
「ん、そっちになにかあるのか?」
「KYUIKYUI」
ちょっと待っててといった仕草をしてどこかに消えたちびドラゴンはすぐに戻ってきた。
俺、気になることがあるから聞いてもいいかな?
なに、そんな大したことじゃないからさ。
「なぁ、その手に持っている白い小さな石は何? 無いとは思うんだけどダンジョンコアっていうやつだったりしないよね?」
「KYUI?」
『そうだけど?』といった様子で再び首を傾げるちびドラゴン。
『KYUI?』じゃないし。
「し、信じられないの……。ダンジョンのボスがコアを守るどころか外に持って出ようとするなんて聞いたことがないの……」
「ですよね? 俺の常識がおかしいわけじゃないですよね?」
蒼白になる先輩を見る限り、やはり俺の常識は間違っていないらしい。
だいたいそれ持ってダンジョンから出ようとしたら魔物が総出で阻止しようとしてくるだろうが!
脱出行がハードモードからベリーハード飛び越えてナイトメアモードになるんですけど!?
「KYUIKYUI」
「え、いや、本当に大丈夫なのか?」
「KYUI!」
ちびドラゴンは任せろといった様子で胸を叩くが、その勢いでコアを落として慌てる姿を見ると不安になってくるんですが。
でも俺たちはこいつについていくしか無いんだよな……。
なんせ道はわからないし武器もない。
ちょっと強い魔物にでも遭遇したら一発アウトなんだから。




