↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ノ吹奏楽譚  作者: 幻創奏創造団


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/6

第1曲 すべては〈この春〉から始まった

 田舎………誰だってそう言ってしまえるくらいには、この町は寂れていた。

唯一の魅力は、少し歩いた先に広がる広大な海。そして海へと続く、桜通りの河川敷だけ。

 だが、町の結束力は、かなり強いものだった。季節の行事や、イベントも多く、移住民も上昇傾向にある。


 そんな町には、小学校、中学校、高校が存在しており、教育施設も充実していた。   



……この物語は、この町を舞台にした物語である。




 早朝の校庭。朝焼けに照らされるグラウンド。

澄み渡る穏やかな空気は、突如として打ち破られた。

突き抜けるような、底なしの明るい音。


「………ユラム、少しうるさい」

「あ、そうかな?じゃあ、もう少し小さく」

そう言う長髪の少年の手に握られていたのは、黄金に光り輝くトランペットだ。

「………すぅ」


 彼は、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。そしてマウスピースへ、唇をあてがう。

 ピストンをひっきりなしに押し、慌ただしいメロディーを吹き鳴らす。

もちろん、ユラムは好きな曲を吹いている。

大音量でもないのに、見せ場だけは、ピアノのまま、強調されている。

類を見ない技術を、ユラムは見せていた。


「はぁあ。ユラムの為に、朝から、どうして学校に登校しなきゃいけないのか」

「アス、ごめん。あとでお礼はするから」

「じゃあ、アルトサックスのリードね。当たりが出なかったら、ふつーにぶっ飛ばすから」

「………え、えぇえ……。流石にキツすぎない?」

「まぁ、冗談。私もアルトサックス、吹きたかったし」

そう言いながら、アスという少女は、校庭の奥の奥めがけ、アルトサックスを吹き鳴らした。甘い人の声のような音が、山彦(やまびこ)のように響いた。



 太陽が完全に姿を見せた朝。高校前には、学生が校舎へ、次々と吸い込まれていく。


「アス、おはよう」

「あ、おはよ。ユラム」

ちなみに、ふたりは部活の早朝練習の帰りだ。


男の子の名前は、鴻(こうの)鳥(どり)ユラム。長髪かつ、女の子のような顔立ちをしている。

一方の女の子は、ユラムの幼馴染、静寂(しじま)アス。


「………やっぱ、あったかいよね。眠くなっちゃう」

「僕は、そうでもないけれど」

「まぁ、おまえ、授業中でも寝ないもんね」

「まぁね」

ケラケラと笑うユラム。女性のような目元が、細く伸ばされる。


「………でも、テストの成績は悪いよね」

「まぁ、地頭が悪いんでしょうね」


どうでもいいんだよなぁ。

成績とか………。



ユラムは他人事のように言う。

「なんで、他人事?」

「え?あ、確かに………!」


ユラムも無意識に、他人事のように、言っていたようだ。まるで、他の人を見て、客観的に口をついたようだった。


「………でも、ほぼ全ての楽器ができるじゃない。どうして?」

「うーーーん。僕もそれは……あんまり……」

ユラムは答えに悩んだ。

「楽器しかできない脳になってる……とか?」

「あるかもねぇ」

ユラムは、自分事のはずなのに、他人の話を聞いているような反応をしていた。





「………さて、クラス替えもなく、学年を重ねるだけのツマラナイ春………」

アスはそう言いながら、2年教室へと入る。町民が少ないせいで、クラスなどない。


「………あ、アス!おはよ」

「またユラムと登校してきたの?」

「やっぱ、本当に付き合ってる?」 

クラス替えもない故、当たり前のように、彼女を誂(からか)って来る。


「付き合ってない。幼馴染だから、一緒にいる癖がついただけの話し」

「………本当に?」

「ほんとうっ!!吹部に来てみなさいよ。ひと言も、会話を交わしていないから」

「………ふぅん。じゃあ、あとで観に行こうかな」

同級生に、ユラムとアスが付き合っている……という噂が蔓延しているのは、いつもの話し。

別に、「面倒くせぇな、こいつ」で、済むだけである。



「………はぁあ。だってさ」

一方、ユラムは、独り言のように、自身の耳へと語りかけていた。

《【助言】無視しましょう。それでも、しつこい場合は、相手に他の恋愛話を振りましょう》

すると、耳元から、人間味のある声が、鼓膜を伝い、囁やいてきた。


「………はぁあ。僕の好きなタイプを言う、ってこと?」

《【YES】ただし、静寂アスさんとは、反対になるタイプを伝えることが重要です》

彼は耳元と、当たり前のように、会話を続けていた。


 実は、彼の耳元には、透明なイヤフォンが付けられていた。特殊な素材を使用している。

光の反射の原理で、肉眼では見えにくい。更に、質問音声を正確に聴き取り、AIで答える。

かなりの優れモノだ。


「………僕の好きな人のタイプ。アスと少し違うんだよな」

ユラムは、窓の外で散りそうな桜を見つめた。


事実、彼はアスを、恋愛対象として見たことは、ただの1度もない。ただ、アスはユラムの我儘に、付き添ってくれただけだ。

感謝はしているが、恋愛感情とは、また別だ。




 この日も、吹奏楽部は部活動があった。部室は当然、音楽室である。室内は、他の教室に比べて少し広い。


「はぁあーーー!!ユラム!ふざけんなぁ」

「ぼ、僕に言われても………」

ユラムに、アスは激しく糾弾した。

「んで、一緒にいるだけで、恋人扱いされなきゃならんのか!知能低いのか!!」

「お、怒ってる」

アスは怒っている。

「ていうか、おまえに彼女ができてないからだよ」

「あ、アスが彼氏作ればいいじゃん」

「私は、好きになる人を慎重に決めてるだけ」

アスは冷静に戻った。


「………はぁあ。そもそも、部活バカだもんね。彼女ができる訳ないかぁ」

「別にバカじゃないよ。好きなだけ」

ユラムがそう言うと、アスが嘆いた。

「私が先に彼氏を作ろうかな」

幼馴染にそんなことを言われたとて、彼の心は揺らがなかった。


「別にいいけど、恋愛にばっかり気を取られないでね」

アスならやりかねない。

「わかってるよ」

そうはいっても、アスが好きな相手を探す気は、1ミリたりともなかった。




 場所は変わって音楽室。ユラムは、殆ど毎日、床を掃き掃除している。埃を、箒で掃きながら、アスと会話を続ける。

「………それより、部員、どうやって集める?」

「んーーーっ、私的に、しつこく誘い込む」

「それもアリか」

ユラムはそう言いながら、塵取りに、埃たちをかき込んだ。

「………今、人数が5人よね」

「去年、先輩が3人抜けたからな。そうだね」

ユラムは、どう部員を集めるか、思案していた。


「ま、明日から始まるんだし!今日は、もう考えなくてよくない?」

「アスったら………」

アスは今ままな性格だ。

ユラムは、彼女の言葉を表情では受け入れながら、内心は問題を思案していた。




 夕日が山へ消える前に、部活は終わった。人数が少ないせいで、合奏すらもできない。

だから、彼は公園で、トランペットを、単独(ソロ)で吹いていた。

 ベルから放たれるのは、プロのような美しい音。音程も正確で、音量もかなり抑えているが、重要な音は、より強調して吹き鳴らしている。

 相当な技術。ユラムがただ吹いているだけなのに、公園にプロの演奏家が、ライブしているようなクォリティ。相当な技術を持つことは、誰だって、容易に読み取れるほどだ。


「ふぅう。今年の3年はやる気がないからなぁ。僕がなんとかしないと………」

そう言いながら、彼はケースへ、トランペットを締まった。

純金のような豪奢な煌めきを放つトランペット。私物ではなく、学校のものだ。ユラムが、楽器磨きを欠かさない故、新品のような美しさを保っている。


「………部員が最低の人数を満たすまでは、僕がすべての楽器をやらないと………」

公園のベンチでもできる練習。それは、スティックと小さいパッドを使った基礎打ちだ。

テンポ60から、10ずつ増やす。テンポ200まで容易にたたき鳴らした。明らかに、才覚はプロレベルに収まらない。

どんなに早く、パッドを叩こうと、彼の前では、呼吸するに等しかった。


「テンポ200を固定してくれる?」

ユラムがイヤフォンへ問いかける。

《【メトロノーム 接続(コネクト) 完了】テンポ200を固定します》

するとイヤフォンから、カチカチ!と素早く規則的な音が鳴った。

(せーの……!!)

ユラムは眉ひとつ、動かさずに、スティックを超高速で振った。1秒に何往復も光が届くような速さ。

彼は、それを当たり前のようにするだけでなく、楽しそうに打ち鳴らしていく。


打音が、公園の空気を震わせた。

楽しそうなリズムが、数分経ったところで絶えた。そして、彼がスティックを止める。

「ふぅ、疲れたぁ」

そうは言うが、手首に少し疲労を感じるだけで、もう叩けないほどではなかった。



「………やっぱり、僕は楽器をやる方が、手に馴染むんだよなぁ」

そう言って、彼が公園を去ろうとしたときだった。


「…………はぁ」


少女の泣きそうな声が、彼の鼓膜を突き抜ける。

「ん?」

見ると、小学生くらいだろうか?かなり身体の小さい女の子がいた。


「…………悩んでる」

ユラムが、ふと言葉をこぼした。

《【表情分析】目の前の女の子は、悩んでいる様子に見えます》

その時、左耳に付けっぱなしだったイヤフォンが、彼の鼓膜へ囁やく。


別にどうでもいい。

ユラムはそう思った。

「…………放っておけないな」

だが、なぜか、身体は思考とは、真逆の行動を起こした。


彼は、少女へと問いかける。

「………どうしたの?」

「おねえちゃん………いいなぁ……」

聞いた途端、少女はそう言って、目にいっぱいの涙を溜めた。



その時———誰かの声が聴こえた。

まるで夕日の寂しい空気に溶け込むように……静かに、儚げに響いた。


『…………みんな、いいなぁ』

ん?

なんだ?

この声は?

誰だ!?


『…………俺ももっと……もっと……』

だから、誰なんだよ。

この声の主、どこか懐かしい感じがする。

どうして?



そんなユラムの思考を、遮るように、少女が口を開いた。

「私、優乃絵(ゆのえ)!」

「………えっ?」

「おねえちゃん………!私を助けて……」

「ぼ、僕……、男だよ」

そう言うものの、優乃絵が諦める様子はない。

仕方ないので、話しくらいは聞くことにした。

 

「それで、どうしたの?」



 この出会いが、このあとの未来に関わることを、ユラムはまだ知らない………。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。