はるかな青空の向こう
淡く霞が覆う水色の空。
うっすら膜のような雲が波打っている。
おばあちゃんのお墓参り。
元々は、お母さんの実家だった夕凪島にあったお墓。
でも、おばあちゃんが亡くなったのを機に東京の倉科家のお墓があるお寺に引っ越してきた。
だから、おじいちゃんもおばあちゃんもご先祖様も。
お父さんのおじいちゃん、おばあちゃんやご先祖様たちとお隣さん。
ねずみ色がお母さんのご先祖様。
黒がお父さんのご先祖様。
草をむしった手は土の匂いがする。
私が柄杓でお墓に水をかけると。
きらきらと光を弾き返して。
お母さんが花を活けて。
お父さんがお線香に火をつける。
「おばあちゃんの匂い」
私の声に、お父さんもお母さんも微笑む。
それぞれのお墓の前で手を合わせた。
お父さんのおじいちゃんとおばあちゃんは、私が生まれる大分前に事故で亡くなった。
お父さんが、働き始めた頃って教えたくれた。
お母さんのおじいちゃんは、私が3歳の時に病気で。
おばあちゃんは私が11歳の時。
お線香の煙が鼻先をかすめて。
あっ。
おばあちゃんとの想い出がよみがえってきた。
小学校2年生の夏休み――
今日と同じように、庭の草むしりをして。
咲いてたタンポポの茎に虫がいて。
おばあちゃんに虫がいるよって教えたら。
「そのままでええよ」
って。
目を細めてた。
「どうして? タンポポが食べられちゃうよ」
「あぶら虫はな、お食事中なんや、タンポポさんから、すこーし栄養をもらっているんやで、だから、そのままでええんよ」
「そっか。タンポポさんは、蝶々や蜂だけじゃなくて、あぶら虫にもお裾分けしてるんだ」
「ふふふ。そうやな」
おばあちゃんは日に焼けた顔を、しわしわにして笑っていた。
ちりん、ちりん。
庭いじりが終わって。
風鈴の奏でる音を聞きながら。
縁側でスイカを食べていた。
甘い匂いに誘われてなのか。
おばあちゃんが、飛ばしたスイカの種。
地面に落ちた黒い粒に、アリが列をなしていた。
私もおばあちゃんの真似をして。
ぷっと、種を飛ばした。
そこにも、アリは少しずつ集まってくる。
そのうちその種をアリたちは、運びはじめた。
「うわ。アリって力持ち」
私は食べかけのスイカをお皿に置いて。
「これこれ、梨花、先に食べてしまい」
「後で食べる」
縁側の下に向かうアリを見ようと、サンダルを引っかけて。
立ち上がろうとして。
バランスを崩してよろめいて。
サンダルの底で、何かを踏んだ感触と音がした。
「あ……」
私はゆっくり足をあげると。
粉々になったスイカの種と、潰れたアリたちがいた。
「あらあら、しょうがないね」
おばあちゃんは、立ちすくむ私を抱き抱えた。
服に染み付いた、お線香の匂い。
そして、縁側にそっと腰かけて。
私の頭を撫でる。
「起こってしまったことは、仕方ない。梨花もわざとしたわけじゃないやろ?」
「……うん」
「どうしようもないことってあるんよ。そういう時はな、空に向かって、ごめんね、ありがとうって言うてみ」
「空に?」
「そうや、今やったらアリさんに、ごめんね、ありがとう」
「でも? どうしてありがとうなの? ごめんねは私が踏んじゃったから分かるけど」
「そやな、梨花がアリを踏んでしまって、気がついた気持ちがあるはずや」
「ああ、なんか悲しかった」
「そやろ? だから、ありがとうなんや」
「そっか」
私はおばあちゃんの膝の上で向きを変えて座り直した。
ちりん、ちりん。
庭の木の葉っぱや草や花は、光を揺らして。
空にはふわりとゆらりと雲が一つ、二つ。
「ごめんね。ありがとう」
目映い青に向かって呟いた。
そっと私の髪を手で梳かすおばあちゃん。
「梨花。あんたはええ子や」
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