あわなくても
パタッ。
読んでいた本を閉じる。
恋愛もの。
紆余曲折あって。
最後はめでたしめでたし。
本の中のお話だけど、最近いまいち。
その理由は薄々分かっているんだ。
だって。
どの本も会える二人が前提の話だから。
だから、想っちゃう。
私ってバカなのかなって。
子供の頃の約束をただ想って。
その彼のことを想い続けているの。
でも、その全てがね。
特別だったんだよ。
私にとって。
美瑠や駿介くんを見ていたら。
正直羨ましいって想うよ。
それこそ、本の中の子にさえも。
小さく息を吐いて。
立ち上がる。
レースのカーテンから差し込む柔らかな夏の光。
ベッドサイドに佇む茶色のクマのぬいぐるみを照らした。
私はそれを手に取って。
ベッドに仰向けに横たわる。
黒い真ん丸の瞳が私をじっと見つめる。
あの頃は、ふさふさしていた毛並みも少しごわついてきている。
ぬいぐるみの鼻を私の鼻にくっつけてみる。
夏の夜のお祭りの匂いもしなくて。
でも、彼が射的でこの子に当てて。
島での初めてのお祭りの主役だと言ってプレゼントしてくれた。
言葉も笑顔もちゃんと覚えているんだよ。
私はふと想いたって。
クマのぬいぐるみをベッドに置いて立ち上がる。
クローゼットの扉を開けて。
収納ケースの中から、ラベンダー色のワンピースを引っ張り出した。
亡くなったおばあちゃんが作ってくれた。
あの夏の日、彼と出会った時に着ていたワンピース。
小学生の頃までは、よく身につけていた。
中学に入ってからは、デザインが少し子供っぽいから遠慮がちになっていた。
色は褪せてなくて。
胸の飾りボタンの白い花柄がまぶしいくらい。
Tシャツを脱いで。
ん?
やっぱり無理か……
袖は通ったけど、ウエストはぴったりで、スカートの裾はミニもいいところ。
ファスナーは上がらない。
あの頃はワンピースのが少し大きかったけど。
今は逆になって。
もう少し着たら良かったかな……
コンコン。
「梨花、入るよ」
お母さんの声。
「いいよ」
私はワンピースを脱いで、Tシャツを頭から被った。
「あら、懐かしいね、そのワンピース」
「うん。さすがに着れなかった」
襟元から髪を出すと、お母さんはワンピースを手に取っていた。
「おばあちゃん喜んでたもんね。梨花に似合うって。そうだ、リメイクしてあげようか?」
「ん?」
「今の梨花が着れるように」
「ああ、でも、いいよ。おばあちゃんの想い。このままにしておきたいかな」
「ふーん。物持ちがいいのは母さん似かな。でも、いつか梨花に娘ができたら、着せて上げたらいいわ」
「え?」
「まあ、まだまだ先の話だけど、いいんじゃない。母から娘へっていうのも」
「ふーん。なるほど」
「梨花はおとなしめの服が好みだから、お母さんのミニとか履かないもんね」
「履いてもいいけど、似合わないもん」
「あら、そんなことないわよ。かわいいと想うよ」
「そうかな」
「ミニなんか若いうちだけだよ。そうだ。買い物行く時、お母さんのスカートあげるから履きなさいよ」
「え?」
「待ってて、持ってくるから」
「ちょ、ちょっと」
お母さんは、鼻歌を口ずさみながら部屋を出て行った。
もう……
ベッドサイドに腰かけて。
畳まれたワンピースを手に取った。
柔らかい肌触りも。
ワンピースを着て。
彼と一緒に駆け巡った想い出も。
あの頃のまま。
匂いこそ変わってしまったけど。
私は立ち上がって。
そっと、クローゼットにしまった。
コンコン。
「入るよー」
「はあい」
「じゃーん」
お母さんが手にしていたのは、グリーンのプリーツスカート。
裾の辺りに白いラインが入っていて。
丈が……
「ちょ、短すぎない?」
「そう? 全然大丈夫よ。梨花さ、チェックのブラウスあるでしょ? 白地にオレンジの?」
「え? ああ、うん」
「似合うと想うよ。ほら着てみ」
「うん……」
しぶしぶ着替えてみる私。
いや。
これ短すぎるんだけど……
風も吹いていないのに、足がすーすーする。
「やだ、我が娘ながらかわいい」
お母さんは両手を合わせて満面の笑み。
「そっかなぁ、でも、恥ずかしいな」
「ほらほら見てみな」
鏡の前で手招きするお母さん。
そこに映る自分の姿。
私史上最高の短さ。
スカートの裾を両手で掴んでいた。
「さ、買い物行こう」
私の両肩を掴んで、鏡越しに微笑むお母さん。
そして――
近所のスーパーにやって来た。
エアコンの効いた店内が気持ち寒く感じる。
「あ、倉科じゃん」
ハッとして振り向いた声の主は、クラスメイトの真田くん。
隣には増内くんに保田くん。
「あら、こんにちは」
お母さんの声に3人は、
「こんにちは」
と、声を揃えている。
3人の視線がチラチラと私に落ちているのが分かって。
スカートの前で両手を重ねる。
「みんなお買い物?」
お母さんは呑気に会話をする。
「え? あ、おやつをみんなで買いに来たんです」
「そうなんだ」
「お母さん……」
私はお母さんのTシャツを引っ張った。
「じゃあ、皆さんまたね」
お母さんは、にこやかにみんなに声をかけると歩き出した。
私は、その後を追う。
両手でスカートの後ろを押さえながら。
「ねえねえ、あの子たち、梨花に釘付けだったよ」
「もう、そんなのはいいし。やっぱりミニはいいよ。恥ずかしい」
「そう。かわいいのに」
かわいいけど。
あんな風に見られるの。
ちょっと嫌だな。
なんか見せたくないというか。
「でも、梨花も好きな人ができたら見せたくなるんじゃないかな」
「え? なにそれ」
「女の子はそういうもんよ」
好きな人……?
彼にだったら……
一人、ぽーっとしだして。
顔が熱くなる私。
見てもらっても。
ううん。
見せたいかも。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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