同じで違って。違って同じ。
うねった水面が幾重もの波を砂浜に連れてくる。
ザザッー。
しぶきを光らせて。
私の足元に近づいて。
白いあぶくを残して。
砂浜を濃く塗り替えて。
海へと戻る。
また、同じように寄ってきて。
顔を上げれば、どこまでも。
そう。
どこまでも青い海。
なんだけど。
匂いも光も違う。
濃い潮風。
散らばる光。
私の中の海の記憶とは正反対。
空に漂う雲やお日様の陽射しでさえ。
どこか違うような。
顧みる山の緑さえも。
きれいなんだけど。
どうしてなんだろう……
「やっぱり、違う」
そっとこぼれた声。
「何が違う?」
お父さんの声。
「ん?」
「どうした? 梨花、ぼーっとして」
お父さんは私の頭を優しく撫でる。
大きくて温かい手で。
「ううん。なんでもないよ」
「そっか? たまには遠出もいいだろ?」
「うん」
お父さんとお母さんは、旅行で遠くに出掛けられないからって。
たまに近場に連れ出してくれる。
だいたい日帰りだけど。
いちご狩りやぶどう狩り。
秩父や日光。
千葉のマザー牧場とか。
今日は鎌倉に来ている。
私が夏休みがくる度に、夕凪島に行きたいって言うから。
お金が掛かるのも知ってるし。
マンションを買ったから、大変なのも少しは想像がつく。
無理を言っちゃいけないって。
分かっていても。
つい。
口に出てしまう。
でも。
最近、ふと想うことがあるの。
シンくんは約束、覚えていてくれてるのかなって。
「梨花は将来、何になりたいとかあるのか?」
「え? うーん。わかんない」
「そっか」
「どうしたの急に?」
「ん? いや、お父さんはこれといった夢はなかったから。もし、梨花が何かをやりたいって夢があるなら、応援したいって想ってる。もちろん母さんも」
「やりたいこと……」
「まあ、焦らずに考えたらいい」
お父さんはまた、私の頭をそっと撫でた。
私のやりたいことか……
なんだろ?
10歳のあの夏の日の出来事を忘れたくなくて、書き始めた日記。
それがきっかけで、詩みたいなのは書いているけど。
本を読むのも好き。
ジャンルにこだわりはない。
お気に入りの作家さんもいる。
でも、小説家になりたいとは考えたこともない。
遠く沖合いの、ぼんやりと大きな船影が目に入る。
「梨花ー、お父さんー」
背中から飛んできたお母さんの声。
振り返る私。
砂浜の奥、壁の上にある駐車場から手を振っているお母さん。
「そろそろ行くよー」
「は~い」
私は手を振りながら駆け寄る。
でも、慣れない砂の上でもたついて。
転びそうになって。
「わっ」
前のめりになった瞬間。
「大丈夫か?」
一瞬。
重なった、シンくんの声。
お父さんが抱き上げてくれていた。
「よーし」
お父さんは私をそのまま抱っこする。
「え?」
ちょっと、
いや、かなり恥ずかしくて。
汗がじわりとわいて。
「お父さん、下ろしてよ」
「はいはい」
って。
嬉しそうな声を出して。
いっこうに下ろしてくれない。
中学二年にもなって。
こんなとこ友達に見られたらって。
鼓動が早くなって。
でも、しがみついている私。
結局、車のところまで運ばれて。
スカートの裾を直しながら。
お父さんを睨んだ。
「ごめんな梨花、でも、お父さん嬉しくてな。もう昔みたいに抱っこ出来ない想ってたから、つい」
私に目線を合わせて、両手を合わせたお父さん。
「もう。分かったけど。恥ずかしいでしょ? こんなところで」
「はい。ごめんなさい」
「じゃあ、お昼のデザート追加ね」
「分かった」
「は~い。仲直りね。でもね、梨花、お父さんすごく嬉しいんだよ。まあ、場所を考えないとこは女心が分かってないけどね」
「母さん、もういいだろ、梨花が許してくれたんだから」
お母さんに、言われるとたじたじなお父さん。
お母さんは私に顔を寄せて耳元で囁く。
「お父さんね。梨花が小さい頃に行ってらっしゃいって、抱きついてきてたので、仕事頑張れたんだって。お母さんじゃないのよ」
「え?」
「だから、たまーにしてあげたら、梨花が欲しいもの買ってくれるかもよ」
「ん! んんっ」
咳払いをしたお父さん。
「な、なんかあれだな、母と娘のひそひそ話は、なんだその、体にもこころにも良くないな、うん」
私はお母さんと見つめ合って笑う。
そして、唇を噛んで。
お父さんに抱きついた。
「へ?」
間の抜けた声をあげるお父さん。
「お父さん。お仕事頑張ってくれてありがとう」
お父さんの腕が私を包んだ。
「ああ、ありがとう梨花」
ん?
ちょっと涙声?
私が顔を上げようとしたら。
お父さんは顔を背けて。
抱擁を解いた。
「梨花」
お母さんが呼ぶ。
「梨花の優しさは、おばあちゃんに似たのかもね」
「ん?」
「おばあちゃんは、分け隔てなく人に優しかった。それに強情なところも」
「強情?」
「梨花は口にしないけど、こころで決めたことは絶対ぶれないからね」
「そうかな?」
「まあ、今日はお父さんに美味しいものご馳走してもらおう」
「うん」
ちょうど、お父さんが振り向いて。
「任せとけ!」
ぽんと、胸を叩いたお父さん。
その輪郭が光に縁取られ、神々しく見えた。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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