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約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


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5/7

同じで違って。違って同じ。

うねった水面が幾重もの波を砂浜に連れてくる。

ザザッー。

しぶきを光らせて。

私の足元に近づいて。

白いあぶくを残して。

砂浜を濃く塗り替えて。

海へと戻る。

また、同じように寄ってきて。

顔を上げれば、どこまでも。

そう。

どこまでも青い海。

なんだけど。

匂いも光も違う。

濃い潮風。

散らばる光。

私の中の海の記憶とは正反対。

空に漂う雲やお日様の陽射しでさえ。

どこか違うような。

顧みる山の緑さえも。

きれいなんだけど。

どうしてなんだろう……

「やっぱり、違う」

そっとこぼれた声。

「何が違う?」

お父さんの声。

「ん?」

「どうした? 梨花、ぼーっとして」

お父さんは私の頭を優しく撫でる。

大きくて温かい手で。

「ううん。なんでもないよ」

「そっか? たまには遠出もいいだろ?」

「うん」


お父さんとお母さんは、旅行で遠くに出掛けられないからって。

たまに近場に連れ出してくれる。

だいたい日帰りだけど。

いちご狩りやぶどう狩り。

秩父や日光。

千葉のマザー牧場とか。

今日は鎌倉に来ている。

私が夏休みがくる度に、夕凪島に行きたいって言うから。

お金が掛かるのも知ってるし。

マンションを買ったから、大変なのも少しは想像がつく。

無理を言っちゃいけないって。

分かっていても。

つい。

口に出てしまう。

でも。

最近、ふと想うことがあるの。

シンくんは約束、覚えていてくれてるのかなって。


「梨花は将来、何になりたいとかあるのか?」

「え? うーん。わかんない」

「そっか」

「どうしたの急に?」

「ん? いや、お父さんはこれといった夢はなかったから。もし、梨花が何かをやりたいって夢があるなら、応援したいって想ってる。もちろん母さんも」

「やりたいこと……」

「まあ、焦らずに考えたらいい」

お父さんはまた、私の頭をそっと撫でた。

私のやりたいことか……

なんだろ?

10歳のあの夏の日の出来事を忘れたくなくて、書き始めた日記。

それがきっかけで、詩みたいなのは書いているけど。

本を読むのも好き。

ジャンルにこだわりはない。

お気に入りの作家さんもいる。

でも、小説家になりたいとは考えたこともない。

遠く沖合いの、ぼんやりと大きな船影が目に入る。


「梨花ー、お父さんー」

背中から飛んできたお母さんの声。

振り返る私。

砂浜の奥、壁の上にある駐車場から手を振っているお母さん。

「そろそろ行くよー」

「は~い」

私は手を振りながら駆け寄る。

でも、慣れない砂の上でもたついて。

転びそうになって。

「わっ」

前のめりになった瞬間。

「大丈夫か?」

一瞬。

重なった、シンくんの声。

お父さんが抱き上げてくれていた。

「よーし」

お父さんは私をそのまま抱っこする。

「え?」

ちょっと、

いや、かなり恥ずかしくて。

汗がじわりとわいて。

「お父さん、下ろしてよ」

「はいはい」

って。

嬉しそうな声を出して。

いっこうに下ろしてくれない。

中学二年にもなって。

こんなとこ友達に見られたらって。

鼓動が早くなって。

でも、しがみついている私。


結局、車のところまで運ばれて。

スカートの裾を直しながら。

お父さんを睨んだ。

「ごめんな梨花、でも、お父さん嬉しくてな。もう昔みたいに抱っこ出来ない想ってたから、つい」

私に目線を合わせて、両手を合わせたお父さん。

「もう。分かったけど。恥ずかしいでしょ? こんなところで」

「はい。ごめんなさい」

「じゃあ、お昼のデザート追加ね」

「分かった」

「は~い。仲直りね。でもね、梨花、お父さんすごく嬉しいんだよ。まあ、場所を考えないとこは女心が分かってないけどね」

「母さん、もういいだろ、梨花が許してくれたんだから」

お母さんに、言われるとたじたじなお父さん。

お母さんは私に顔を寄せて耳元で囁く。

「お父さんね。梨花が小さい頃に行ってらっしゃいって、抱きついてきてたので、仕事頑張れたんだって。お母さんじゃないのよ」

「え?」

「だから、たまーにしてあげたら、梨花が欲しいもの買ってくれるかもよ」

「ん! んんっ」

咳払いをしたお父さん。

「な、なんかあれだな、母と娘のひそひそ話は、なんだその、体にもこころにも良くないな、うん」

私はお母さんと見つめ合って笑う。

そして、唇を噛んで。

お父さんに抱きついた。

「へ?」

間の抜けた声をあげるお父さん。

「お父さん。お仕事頑張ってくれてありがとう」

お父さんの腕が私を包んだ。

「ああ、ありがとう梨花」

ん?

ちょっと涙声?

私が顔を上げようとしたら。

お父さんは顔を背けて。

抱擁を解いた。

「梨花」

お母さんが呼ぶ。

「梨花の優しさは、おばあちゃんに似たのかもね」

「ん?」

「おばあちゃんは、分け隔てなく人に優しかった。それに強情なところも」

「強情?」

「梨花は口にしないけど、こころで決めたことは絶対ぶれないからね」

「そうかな?」

「まあ、今日はお父さんに美味しいものご馳走してもらおう」

「うん」

ちょうど、お父さんが振り向いて。

「任せとけ!」

ぽんと、胸を叩いたお父さん。

その輪郭が光に縁取られ、神々しく見えた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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― 新着の感想 ―
お父さんとお母さん、梨花をよく見ていますね。 優しくて強情。 強情も梨花は「ぶれない強さ」として出ているから、うらやましい(笑) どうして夕凪島にずっと行けなかったのか、より鮮明になりました。 お金を…
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