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約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


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29/30

むいているのは。

小学校、中学校、高校。

そして。

大学で、4回目の1年生になった私。

文学部国文学科を専攻して。

いくつかある文学サークルの中から。

一番歴史のある『明星文芸会』に入った。

決め手は、いくつかあって。

過去の部誌を読んで。

読み応えがあったのと。

私の作風に合いそうだったから。

それよりも、何よりも。

高校時代の文学部の先輩の3人も在籍していたのが一番の理由かもしれない。

しかも、3年生の朝倉勇樹先輩が部長。

ただ、精悍だった短髪から。

昔の文豪のような。

くせのある波打った髪型になっていて。

「どうだい? ローゼンバーグって感じでしょ」

髪をかきあげていたのには。

苦笑いを返すのが精一杯だった。

椋梨静香先輩は、高校時代のかわいらしいままで。

制服着たら高校生って間違われそうなくらい。

変わっていなかった。

2年生の栗原華音先輩は、気だるそうな口調そのままだけど。

とてもきれいになっていた。

「ふふふ、簡単よ。恋してるからかな」

って。

「実体験があると、作品にも奥行きが出るの。官能も書いてるからぁ、梨花ちゃん読んでみて」

って。

妙に色っぽくって。

私が頬を染めていた。

そんな、懐かしさと新鮮さが同居する、サークルでの最初の活動は。

歌詞を書いてみよう。

というものだった。

テーマは自由で。

部員投票で優秀作を選んで、曲をつけるという。

そして、秋の学園祭、明星祭で披露するのだと。

椋梨先輩曰く。

「曲をつけるのは、朝倉の思い付き、でもね、なんだか自信満々なのよね」

そこへ、やって来た朝倉先輩。

「まあまあ、諸君らも励みたまえ」

散り跳ねた髪をかきあげて、口の端を持ち上げた。

確かに、奇妙な程に満ち溢れた自信をまとっていた。


という訳で。

歌詞を創る。

詩を書いていたから、出来るかなって。

気楽に考えていたけど。

なかなか難しい。

Aメロとかサビとか。

短歌や俳句じゃないけど。

Aメロなら同じ文字数にする。

フレーズで文字が途切れるから。

その中で、意味が伝わるようにしないといけない。

これ?

向いてないかも。


数日かけて。

捻り出した。

ノートに記した。

題名のない歌詞。


爽やかなひだまりの中。

出逢った。


光る風を連れて。

笑う君に。


緑の波。

梢に溶ける息遣い。


私を呼ぶ声。

震える小さな胸


膨らんだ名もなき蕾

芽生えた知らない種


またね。

二人の頬が。

茜に染まる町並み。


君と交わした約束は

心の道標


会いたくて。

声が聞きたくて。


募る想い。

溢れそうな時


髪を撫でる風が

空へと導いて


今も呼吸している。

あの夏の日の

鮮やかな匂い


はしゃぐ水しぶき。

注ぐ蝉しぐれ。


金色の夕凪

宵の一番星


膨らんだ名もなき蕾

芽生えた知らない種


またねは

さよならの代わり

未来へ向けたともしび


君と交わした約束は

心の道標


それっぽいけど。

なーんか。

しっくりこなくて。

んー。

私は両手を挙げて伸びをしながら、体を左へ右へ倒す。

「ふぅ」

手を下ろして、机の上のリモコンで、部屋の明かりを消した。

暗くなった部屋に、カーテン越しの明かりが、ぼんやりと広がる。

時折、光が左右から交錯する。

マンションの5階でも。

家の前の道路を通る車のライトは届く。

私は椅子から立ち上がった。

窓辺に寄って。

カーテンを引いて。

窓を開けた。

頬に柔らかな、匂いのない空気が流れた。

車のエンジンが行き交う。

遠く橋を渡る電車の音。

星より街明かりが多い。

あっ。

「満月だ」

白く輝いて。

私に微笑みかけてくれている。

うん。


春に見上げた夜空には満月が。

私に微笑みを。


夏に見上げた夜空には花火が。

私に祝福を。


秋に見上げた夜空には銀河が。

私に祈りを。


冬に見上げた夜空には白雪が。

私に涙を。


ふいに見上げた夜空には……

時の彼方へ誘う流れ星。


ふふ。

私は歌詞作りには向いてないかな。

そっか。

いっそ。

ローゼンバーグの歌詞でも書いてみようかな。


話も飛ぶ。

髪も跳ねる。

我らがローゼンバーグ。


あっ。

タイトルは出来た……

かも。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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