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「ありがとうございます、氷雨さん」
温かいお茶を用意してくれる彼に美鶴さんはニコニコと笑顔を向けた後、私に彼の紹介をしてくれた。
「あかねさん、彼は雪男の氷雨さんです。開業当初から大旦那様を支える若旦那として、この縁の坊に赴任された御方です」
なるほど、冷たさを感じる見た目は彼が雪男であるからだろうか。名前にも「氷」がついてるし。若旦那ということは、この旅館で2番目に偉いということなのかしら。
「藤宮あかねです。よろしくお願いします、氷雨様」
改めて私が頭を下げると、「様とか、仰々しく呼ばれるのは性に合わないんですけど」と返された。なんというか、どんよりとしたオーラに、鬱々とした気配を感じる。
「いいじゃありませんか、若旦那様なんですから」
「それも、なりたくてなったわけじゃないんですけどね」
美鶴さんの言葉に何やらため息をついている氷雨……様は、たすきを解きながらどさりと畳の上に座り込んだ。憂げな表情さえ何だかミステリアスで絵になっている雪男。氷雨様はテーブルに頬杖を突くと、またひとつため息をついた。
「時景様に『貴方でないと駄目なんです』と手を固く握られ迫られてしまっては、断ることなどできませんでした。……あの方は、ときどき強引なところがあるのでホント困ります」
と、不本意そうな声色でそう呟く氷雨様。すると、「まあ、なんて積極的な……!」と隣から聞こえてきて、びくりと体が震える。見れば、興奮した様子の美鶴さん。
「そのお話詳しくお聞かせください、氷雨様!!」
おしとやかな印象の美鶴さんから、そんな大きな声が出たことに驚いた。「ほかにはなんとおっしゃっておりましたの⁈」と鼻息荒く詰め寄る彼女を特に気にするわけでもなく、氷雨様は「そうですね」と呟いた。
「『ずっと氷雨のことばかり考えています』とか、『氷雨のことを考えると夜も寝れません』とか……」
思い出すように顎に手を当てながら、そう返す氷雨様に「きゃあ!」と美鶴さんの興奮はさらにヒートアップした。
「時景様と氷雨様がそんなご関係だっただなんて……!」
両頬に手を当てて、うっとりとした様子の彼女に、ぽかんとする私。すると、後ろから「こら、氷雨」と、困った様子の声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、腕を組んで苦笑いを浮かべる時景様の姿。




