20
「氷雨さん、もうご準備は整いましたか~」
土間で下駄を脱いだ美鶴さんに続いて私も中へと足を踏み入れる。外観同様、中もTHE日本家屋といった趣の廊下が続いていた。予想以上に広々としていて、こんな立派なところを新入りの私の住まいにしてよいのかと少し気後れする。
「こんなところに住ませてもらっていいんですか」
辺りを見回しながら尋ねると、「え、ええ」と何やら口ごもる美鶴さん。
「もともと、特別な離れのひとつとして使う予定だったのですが……その、まだこちらまで手が回らなくて……っ!」
急に早口になる美鶴さんを不思議に思い首を傾げつつ、後ろをついていく。窓の外を見れば小さな中庭も備わっていて、隅々まで趣深い離れだった。窓には少しゆらぎがあり、木製の扉には花のようなデザインが細かに彫られている。それから廊下を抜ければ、メインのお部屋と思われる和室にたどりついた。
「わあ、お庭も見えるんですね」
和室からは風雅な庭園を望むことができる、なんとも贅沢な空間だった。
「ひと通り設備のチェックは終わったので、すぐに使えますよ」
すると、後ろから氷雨と呼ばれていたあやかしが現れた。手には急須と湯飲みを載せたお盆。
邪魔にならないようにするためか、長い薄青の髪は今はひとまとめにされていて、着物の袖はたすき掛けされている。時景様とはまた違った整った顔立ちながらも、切れ長の青い瞳は冷静そのもので感情が読み取りにくく、どこか冷たさを感じるあやかしだと思った。




