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不安な気持ちを思わず吐露してしまったのは、美鶴さんがもつ優しげな雰囲気のせいだろうか。ちらと隣を見ると、ふと頬を緩める彼女と目が合った。


「私自身は、人間だから、あやかしだからと色眼鏡で見るつもりはありません。それに大旦那様がぜひにと連れてきた御方ですから」


時景様は、そんな風に私のことを言ってくれていたんだ……。「あかねさんが作るお菓子を私も楽しみにしていますよ」と続いた言葉にも、ほっと肩の力が抜ける。


「ただ……この宿で働くあやかしすべてがそうであるとは限りませんから、気を付けてくださいね。何かあれば、私にご相談くださいな」


困ったように笑う美鶴さんに、先ほど出迎えのときにいたあやかしたちのことを思い出す。彼女が言うように、すべてが万事うまくいく……というわけにはいかなさそうだ。だけど──。


『諦めたくない夢があるのなら、叶えられるまで続けてみればいいじゃないですか』

『あかねが作ったすいーつ、私は好きですよ』


そう言って私を鼓舞してくれた時景様の言葉に、今度こそ懸けてみたかった。ダメであり続ける私から、変わりたい。


「私、がんばりますね」


両手をぐっと握りしめ、そう宣言すれば美鶴さんは同じように両手を握りしめ笑いかけてくれた。


「さあ、次はあかねさんのお部屋となる離れに行きましょうか。おそらく、もう氷雨さんの準備も整っているでしょうから」


そうして連れられたのは、瓦屋根に木の扉と日本家屋風のこじんまりした離れだった。辺りには青々とした木々が離れを取り囲むように植栽されていて、趣のある佇まいだ。


「わあ、すごい……」


私が目をぱちぱちさせながら建物を眺めていると、美鶴さんは「さあ、中へどうぞ」と扉を開けて手招いてくれた。

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