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◇9.クロハバキ



≪おねーちゃんっ! あぶないっ!≫


 ――すぐ側まで、大木のような尾が迫っていた。


「(私は、こんなところで、死ねない)」


 雪蛇竜が、氷の棘で舞い上がった雪を隠れ蓑に、尾で薙ぎ払いにきたのだ。


「(絶対、日本に、あの家に、帰るんだ!)」


 これでは、平面移動しかできない小型艇では、避けようがない!


「私は、地球に、帰るんだあああああーーーーっ!!!!」


 少女の髪と瞳が銀色に輝き、力が灯る!



「エクストラスキル!! 後方2回転回避機動《《“ダブル・バック・フリップ”》》ッ!!」



 雪蛇竜の巨大な尾があわや激突かと思われたその時、少女のスキルが発生させたエーテルの台が、機体を20メートルほどの高さにまで打ち上げて薙ぎ払いを回避させた!


「よし! 成功、した!」


 夜空に浮かぶ巨大な地球に照らされ、空高く舞う少女の姿は、煌めく銀の濡れ鴉のように美しい。

 ……物凄い形相で後ろからしがみついている男が台無しにしているが。

 ちなみに、少女の周りで煌めく光は、男の尿がこの寒さの中で結晶化したものである。





「あ、あがん。もう、さっきから死のジェットコースターの連続や゛! このままだと意識が飛びそうなんですが!?」

「ガマン、してくださいっ!!」


 さっきから銀髪の少女が小型艇をウィンタースポーツみたいにぐるんぐるん回転させているから、おしっこだけでなくゲロリンも一緒に出てしまいそうだ!

 その少女は雪蛇竜の猛攻をかろうじて凌いでいるが、こっちは攻め手に欠けているのでこのままではじり貧間違いなしだろう。

 お互い地球へ帰れずに、仲良く雪蛇竜のご飯になる未来が見えてきたな。


「なにか、他に手はないのかっ!?」

「……あなたが、地球から、来たのであれば、私のように、“エクストラスキル”があるはず、です! 勿体ぶらず、早く、使用を!」


 マジかよ! そのために俺を乗せたのか!?

 でもやり方がわからないのだが!?


「そのスキルってやつの出し方がわからないっ! どうすればいいっ!?」

「……やはり、イレギュラー? あなたが、誰に呼ばれたか、しりませんが、召喚者に教わらなかったのは、おかしい、です!」


 イレギュラー? そんな御大層なものではなかったような。

 なんかクッソくだらない理由でこの星に連れてこられた気がするんだが、思い出せん。


「……ステータスと念じ、そこに書かれているクラスを唱えれば、短時間だけ、任意術技アクティブスキルが、使えるはず、です!」


 マジかよ簡単だな。宇宙人が俺を改造人間にしたのか?

 まあいい。やってやるぜ。そしてその力で生き残り、あの糞ガキーズをた~っぷりといぢめてやるぜっ。ゲヘヘヘ!


「ステータス・オープン!」


 出た! 頭の中と目の前になんか変な板が浮かび上がったぞ!

 次はクラス探しだな。クラス、クラスと……なに!?


「クラス、野蛮人だと!? スキルも“追い剥ぎ”に“罵詈雑言”に“ケダモノ”とロクなもんがねぇっ!!」

「……」


 銀髪の少女は何も言わないが、その背中から諦めと絶望が伝わってくるのを感じる。

 生の光が急速に失われていく、そんな感じだ。


「んっ? 待てよ、シークレットクラス? ぐゎッ!」

「あッ!」

≪おねーちゃん!?≫


 その時、雪蛇竜の尾が小型艇を掠めた!

 大きくバランスを崩した機体から、横から叩き付けられるようにして吹き飛んでいく少女。

 そのまま、少しずつ雪の中へと飲み込まれていく。激しく咳き込む少女の口からは、少しだけ血が滲んでいた。


≪リク、はやくたすけないと!≫

≪わかってる! 自動人形オートマタ、早く!≫

≪今、ムカイマス!≫


 馬車が救助に向かうが、距離はかなりある。追い付く前に少女は流砂状の雪の中か、雪蛇竜に飲み込まれてしまうだろう。

 ちなみに俺はというと、50メートルほど上空に打ち上がっている最中だ。

 本来なら色々と諦めて南無三状態であったろうが、ステータスを確認した今の俺は違う。そう、今の俺は―――



「シークレットクラス、解放ッ!! 忍―黒脛巾―《《クロハバキ》》!!」



 俺の声が場に響き渡り、瞳が漆黒に輝き始める。

 それと同時に、首に赤黒く輝くマフラーのようなものが巻き付き、頭の中で女性の声が反響した。


≪クラス解放を確認。ステータスブーストを開始します≫

≪体力……上昇≫

≪霊力……上昇≫

≪攻力……上昇≫

≪守力……上昇≫

≪速力……上昇≫


 次々と脳内にステータス上昇の報告が聞こえてくるが、それを聞き終える前に俺は次の行動に移っていた。

 脳内に浮かぶ“術技”を選択すると、自然と体が動く。次に何をすればいいか、手に取るようにわかるのだ。

 そうして体内に巡る何かを感じ取り、両手で《九字》と呼ばれる“印”を結ぶ。

 臨の印・皆の印・陣の印ッ! よしッ!


「エクストラ“アーツ”、《《土遁・悪路突破ッ!!》》」


 俺の声にエコーがかかったように響き渡る。

 50メートルの高さから難なく着地し、そのまま雪原に沈むことなく凄まじい速度で駆け出した。勿論、銀髪の少女の方へだ。


≪何デス!?≫

≪やっ、やじゅーのひとが、雪のうえをはしってるーっ!≫

≪あいつムチャクチャだーっ!≫


 俺は、雪蛇竜に飲まれようとしている少女に手を差し伸べると――


「掴まれっ!!」


「はいっ!」


 一気に引き上げ、腕に抱いたまま雪蛇竜の頭上を大きく飛び越える!


「たっけええええええっ!!!!」


 予想以上に高く跳躍してバランスを崩しつつも、ある見えない仕掛けを撒く。

 クラスの補正か、着地は問題なくできた!


「ありがとう、ございます! それが、あなたのクラス、ですか? まるで忍者、ですね。ニンニン」


 少女は、俺の首に巻き付いている赤黒く光るマフラーのようなものを触ると、少しだけ微笑んだ。

 よし。乳とかお漏らしとかなかったことになりそうだな。少女の怪我も軽そうだ。


「気にするな。今はあいつを倒す方が先だ。そして、一緒に帰ろう。“地球”へ」

「はい! 帰りま、しょう!」


 俺たちは手を取り、そして離した。

 霊力がどんどん減っていくのを感じるので、これが切れる前に決着を付けないと不味いだろう。

 痛みであまり動けない少女を小型艇に乗せると、俺は追ってきた雪蛇竜に向き直る。


「馬鹿がッ! そこは既に仕掛けてあるッ!」


 陣の印・烈の印ッ!


「死ねッ! エクストラアーツ、《《火遁・埋火発破うずめびはっぱ》》!!」


 雪蛇竜の真下に常在術技パッシブアーツの《忍具設置》で仕掛けられたエーテルの地雷が、印の効果で点火され、爆裂した!


 ――ギイイイイイイ!!!!


 雪蛇竜の鮮血が噴き上がり、鈍く、憎々しげな声が響き渡る。

 ははは、いける! まるでゲームみたいじゃないか!

 傷を負って逃げようとする雪蛇竜を、四方八方に跳び回りながらただの雪玉を投げて追い込んでいく。

 雪玉はダメージにならないと油断した雪蛇竜は、雪玉を気にせずに直線的に進んだ。

 どうやら新しく穴を掘って逃げるだけの体力もないようだな。詰みか。

 動きが単調になり狙いが定まりやすくなったところで、雪蛇竜の体に開いた穴――少女が開けた穴だ――に、雪玉を放り込むと、トドメの印を結んだ。


「烈の印、陣の印! 今度こそ死ねぇッ!! エクストラアーツ!! 《《爆遁・焙烙散弾ほうろくさんだん》》!!」


 雪玉の中に仕込まれた破壊の玉が、雪蛇竜の体内で爆裂、上半身を粉々に吹き飛ばした!

 悲鳴を上げる暇もなく絶命した雪蛇竜。

 その肉片と血飛沫が天高く飛び散って、付近の雪と俺を赤く染め上げていく。


「ははははは!! きッたねぇ花火だな!! 最高だ!! 凛のやつにも見せてやりたかったぜ!! なあっ、キミも見てみ……ハッ!?」


 ぎ、銀髪の少女から冷ややかな視線を感じる!

 紳士な俺としたことが、少しだけゲームのノリになってしまったようだ! オホン。


「ナンマンダブ、ナンマンダブ。雪蛇竜よ、安らかに~……」


 片目をチラっと開けて、少女の方を見やる。

 ダメだ! まだ冷ややかだ! これが大人かって目をしている!

 くそっ、どうすれば、どうすれば騙せ……ごまかせるんだ!


「あ……れ……?」


 一生懸命に言い訳を探していると、急に目眩がして、膝から崩れ落ちるように倒れてしまう俺。そのまま、雪の中へと沈んでいく。

 まさか、これが霊力切れの症状か?


 慌てて小型艇を寄せようとする少女が視界に入ったところで、俺の意識は途切れてしまった……。

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