エピローグ
あれから二十年の歳月が流れ、私は故郷の町にいる。
健太と結婚してすぐに子を身ごもった。
生まれてきた娘は天使の様に可愛かった。その子は健太の希望で鈴夏と名付けられた。
結婚当初、健太は私と鈴夏を愛してくれた。家事や育児にも協力的で、鈴夏のおむつ交換も嫌がる事無くやってくれた。一本桜の下で誓った通り、健太は私を幸せにしてくれたのだ。
しかし、そんな幸せも三年で終止符を打った。健太の想いは三年しか持続しなかった様だ。
可愛い盛りの鈴夏と共に故郷へ帰った私は、地元の企業へ就職して生活を安定させていた。全て両親の協力あっての事だが……。
両親は鈴夏を可愛がってくれたし、鈴夏も素直な良い子に育っている。親戚の勧めで再婚話もあったが、私は全ての再婚話を断り続けて五十歳を迎えた。
鈴夏には、父親がいない事で寂しい思いをさせたかも知れない。しかし、新しい家族関係を構築するよりも、鈴夏と二人で穏やかに暮らす事を選択したのだ。
この二十年、私は一度も不幸であると思った事が無い。幸せな二十年を過ごしてきたつもりだ。
鈴夏も「自分は誰よりも幸せだよ。私にはママがいるし、やさしいお祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいるもの。友達だって、みんな親切で優しいんだよ」そう言ってくれた。
そう言う意味では、あの日の健太の誓いは守られている事になる。一本桜の伝説も嘘ではなかったようだ。
鈴夏も今年高校を卒業した。今日は一本桜の前での記念撮影だ。町会長がカメラ片手に卒業生達を整列させている。
一本桜は満開の花びらを風に舞わせている。あの日、私と健太の幸せを祝福してくれた時の様に……。私の目の前には、幸せな光景が広がっていた。
ただ、気がかりなのは、一本桜の前に並んでいる鈴夏の手と、その隣に居る男子の手が、身体の後ろに隠されている事だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あなたはどのように感じましたか?
私の中では、この物語はハッピーエンドなのです。
幸せの形には普遍的定義は無く、それぞれの心の中に有るものですから……。
感想などいただけると幸いに思います。
ブクマ、評価、レビューなどもよろしくお願いします。




