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月下の狩人  作者: りゅう
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第四章 幻影の侵略

先に言います。獣牙族は『ジュウキ族』とも『ジュウガ族』とも呼びます。

深夜


蒼は一人、家で旅の準備をしていた。

光魔法の照明が途切れ途切れに光りながら、虫を集めていた。その虫たちは光に近寄っては触れて浄化(無にかえる)されていく。蒼はふとこの光景を目にすると、これからの自分と照らし合わせてしまった。蒼の不安はそう簡単に消えない。しかし、この虫たちは勇敢に光へ飛び込んでは自ら消えに行く。いや、目先のことを達成しようとして、なにも知らずに消えているだけに過ぎないのではないだろうか。


ガルシア王国という照明の中に立ち向かって、自分の任務を果たそうとする虫がたかり、消えていくのかもしれない。


また蒼は不安を感じた。


――――――――――――――――――――――――


「見回りご苦労さん。」


ビストはタクラに言った。帝国騎士団(仮)の『紅き鷲』は高台での村の外の監視の他に、村内の見回りを一時間間隔で行っていた。しかし村の外からの侵入が見られない限り、この作業もあまり効果はない。なぜなら「あやかし」や「妖怪」の類は明るく人の多いところからは発生しないからだ。


「まさか帝国騎士から、ガレシアで人助けの依頼に発展するとはね。いつもみたいに洞窟や森とかで魔物を倒すよりも、ずっと高額報酬で面白そうよね。」

「まあ、無事に帰ってこれればいいんだがなぁ。」

「どういうこと?」

「あの国は世界でも有数の魔物出没スポットがあると言われているらしい。おれはそれがどこか分からないから、ちょっと不安でなぁ。」

「いいじゃない。妖怪とかいうのとなら戦ったけれど、最近はたいした魔物も見ていないし、久しぶりにこのチームの本領発揮ができるって考えれば。」

「あのなあ…まあいいや。お前に言っても今更何も変わらんしな。」


ビストは疲れたと言って仮眠しに宿まで戻っていった。タクラは反対方向を見た。街灯が点々とする風景を見て、眠たい気分になってきた。そしてトボトボと歩きだす。目を擦ると、余計眠たくなってくる。


はるか向こうにある一軒の酒場に明かりがついているのが見えた。タクラの次の見張り番は30分後。仮眠をするにもそのまま寝てしまいそうだったので、眠気を覚ますためにその酒場まで歩いていった。大通りから外れた、住宅街も立ち並ぶ東通り。そのようなところでこんなに遅い時間帯になってもやっている酒場に少し違和感を感じたが、今はそれどころではなかった。タクラはいつの間にかその酒場へ着いていた。


「親父さーん、なんか眠くならないようなメニューありますかーぁ?」

「…」


酒場の主人は何も言わなかった。タクラが席に座ると、それを待っていたかのようにお冷と料理が提供された。それは片手で持てる大きさで、串に肉の塊が数個刺さっていた。また、それにかかっているタレにはどこかやみつきになるような匂いがした。


(ああ、なんか眠い…)


料理を食べ終えると、顔を伏せて、串を持ったまま眠ってしまった。

――――――――――――――――――――――――


「遅い…」


バルが声を漏らした。ミナがその横で不安そうに立っている。


30分前、ミナはちょうど見張りの交代の時間がやって来たのでタクラを待っていた。しかし10分待ってもタクラが来ない。ぼーっと町並みを上から見ていると、またちょうど仮眠から目を覚ましたバルが見えたので、声をかけた。


暗い町並みに、街灯だけが照らしている。月も見えない曇りの夜に、怪しげな空気が漂っていた。


バルは南の森の方を見た。蒼がいる家に明かりが灯っている。夕方に蒼から『僕も行きます』と言われたのをふと思い出した。ではこの村は誰が守るのかと尋ねると、『当分妖怪は出ないから大丈夫です』と返された。思えばこの妖怪という存在は、ほとんど傭兵・冒険者生活を通して目にしなかった。だがいきなり帝国騎士団幹部のエリトに命令されてここへ来てから、今まで戦ってきた魔物らよりも遥かに強い夜哭と戦った。今更こんなド田舎といえる場所で妖怪という存在を肌で感じ、退魔人の存在を確認した。なぜこんなに妖怪の情報が出回っていないのか。 バルは考え込んだ。


「バルさん、とりあえず来ないようなので、ビストさんに話してきますね。」

「あいつは今宿屋で仮眠を取っている。3時間後にまた監視があるから、寝かせてやれ。」

「わかりました…ではタクラさんを探してきますね。」

「わかった。」


夜の風は冷たかった。冷えた鎧の隙間から来る風は耐え難いものだったので、一旦鎧を脱いで薄い上着を一枚羽織った。


月光が雲の隙間からうっすら地上に差してきた。


そのときだった。周りがうっすら白っぽく見えた。目をこすっても違和感がある。そしてすぐ村の方を見ると、違和感の正体に気づいた。


「これは…どういうことだ?」


『マサカ小娘以外ニモココニイタトハ』


「なっ!貴様何者だ!」


『黙ッテ夢ヲ見テイロ』


その生き物の表面も夜哭のように真っ黒だった。というよりかは、何か実体のない、液体のような形のないもので、体全体が保護色だった。


「くそう!」


バルは油断していたため、鎧を着ていなかった。しかしその分身軽だった。脇にあった鉄の槍をすぐ取ると、その中心めがけて突き刺した。


しかし槍は貫通した。この時点で、バルはこの『何か』が妖怪であると確信した。


『我ハ闇カラ生マレ出ルモノナリ』


妖怪は口(多分そう)を思いっきり開けると、白いものを吐き出した。これは、先程バルが感じた違和感の正体であるものと全く同じだった。


「おっとあぶねえ。どうせそんな攻撃だろうと思ったさ。この有り様だからな。」


バルはそれを避けると、また構えた。しかし避けられた白い物体はバルの後ろで急カーブすると、無防備な背中に向かって突っ込んでいった。バルは背中からものすごい衝撃を受け、そのまま倒れ込んだ。


眠ってしまった。


(アト一人…眠レヨ人間ドモ…)


――――――――――――――――――――――――


同時刻、大通りを南に走る一つの影があった。ミナだ。慌てて西通りにある宿屋から高台へいこうとしているところだった。彼女はすでにこの村の違和感に気づいていた。


(まさか、見張っていたのにも関わらずこんなにも深く妖怪の魔の手が伸びているなんて…反省しなくては…)


走りながら高台を見た。うっすらと視界が白っぽくなっているのが分かる。ミナは、この白いものの正体が『霧』の類だということに気がついた。


『愚カナ人間ヨ…大人シク夢ノ中デ永遠二過ゴシテイルガイイ。』


背後から突然声が聞こえてきた。妖怪だと察したミナは、杖を取り出して魔法を唱えた。


『ラウト・ファイア』

『トラスパレ・ソウト』


妖怪に向かって炎が放たれた。霧の中を蒸発させながら突き抜け、命中した。妖怪は数秒怯んだ。さらに、時間差でミナの体が透明化した。


(しめた、あの妖怪は火が苦手なのね。)


『許サンゾ小娘ェ…』


ミナは西通りの武器屋の陰に隠れていた。大通りから直接建物の隙間を抜け、たどり着いたのだ。息を荒くして木箱にもたれかかると、状況を整理しようとした。今、村は深い霧の中にある。それはおそらくあの妖怪によってもたらされたものだろう。そして、ミナ以外に『眠っていない』者はいない可能性が高い。


ミナはあたりを見渡した。妖怪の影は見当たらない。この時に、透明化が解除されて実体が現れた。


(多分、この霧のせいで村全体がおかしくなってるから…そうだ、村の外にいる蒼さんに知らせることができれば…まだ勝てるかもしれない。)


ミナは慎重に建物の陰から出ると、道の端をゆっくりと歩き始めた。大通りはもう目の前だ。


高鳴る心臓、先の見えない霧と闇、そしてどこから来るか分からない謎の敵。それでもミナはゆっくり歩く。今、この村の状況を知らせるのは自分しかいない。そのためにやらなくてはならない。ミナはまさにその使命感のみで行動している状況だった。

西通りを北に歩き続けてまもなく、突き当りである岩山が見えた。この前夜哭という恐ろしい妖怪と戦った場所だ。今でもその強力な爪による跡が岩肌に残っていた。とりあえずここまで来たミナは少し安心した。大通りはすぐそこ。そこさえまっすぐに行けば村の外に出ることができる。しかし、その時だった。


『ゴ苦労ダッタナ。』


見つかってしまった。


「―くっ! あなたは何なんですか!」


突然物陰から現れた。それは、門の方向を遮るようにして、大通りにいるミナの目の前に立っていた。

妖怪は分裂した。ドス黒いもやが妖怪の両脇に発生したかと思えば、だんだんと周りの色と同化して、(保護色になって)三体に増えたのだ。ミナは恐怖で体が震えていたが、すぐに切り替えて東通りへ走っていった。


(確か東通りには焼却炉が…)


後ろから二体の妖怪が霧を吐きながら追ってくる。もう大通りから村の外に出ることはほぼ不可能だ。なので、東通りにある焼却炉で煙を発生させて気づかせようと考えた。

ミナは後ろを見ずに、杖だけを後ろに向けてすぐ唱えた。


『ラウト・ファイア』

『ラウト・ファイア!』


直撃し、吹き飛ばした。最後の一体を走りながら目で探していると、前からこちらに走ってきているものが見えた。やはり妖怪だった。


『リラウト・ファイア!』


最後の一体は、凄まじい業火を下から浴びせられて消滅した。周りの霧も蒸発してゆく。

ラウト・ファイアの上位互換であるリラウト・ファイア。強力な一撃であるため、魔道士の負担も非常に大きい。ミナはすでに虫の息だった。


(なんとか…伝えないと…)


やがて焼却炉にたどり着いた。ミナはもう体力の限界だった。最後の魔力を振り絞って少し小さな炎を発生させ、その中に入れた。いくら小さいとはいえ、攻撃用であり、魔法から生成されたものだ。消えはしなかったものの、霧のせいでうまく火を強くさせることは難しかった。しかし脇にあった木の枝をくべたり息を吹きかけたりすることで、炎を増強させて煙を発生させることに成功した。煙は焼却炉の筒から霧のない上空へ放出された。


「蒼さん、私達の分も…よろしくお願いします…」


ついにミナはその場で倒れ込んでしまった。


――――――――――――――――――――――――


蒼は外へ出た。明日の緊張もあってか、よく眠れないらしい。茂みの奥でコソコソとしていたあやかしを横目に星空を見た。しかし曇っていた。何度も夜に訓練は行っていたが、大変すぎて星を見る暇もなかったので、たまには星空を眺めたいと思った。だがそうはいかなかった。蒼は曇っている夜空に向けて祈り、精神を落ち着かせた。宇宙に関する技術や知識がまだほとんどないこの世界では、夜空の星は信仰や畏敬の対象だった。そして、どの星よりもでかい月は数々の思想をもたらし、今に至るまで何世紀も様々な対象として崇められてきた。


夜空の星にもやがかかった。雲にしては薄すぎて暗いことに疑問を抱き、目で発生元を辿っていった。すると、村の焼却炉から煙が上がっているのが見えた。それどころか、村全体が謎のもやで覆われていたのだ。


「なんだこれは。とにかく、村に急ごう。」


何かあるとみた蒼は家に戻り、陽炎が使用していた『退魔の剣』と普段使っている短剣、そして携帯より小さくて便利な妖怪図鑑を持って急いで村に向かった。


こうして一人で何かと立ち向かうのは二度目だ。今回は冷静に、陽炎が話していたことを思い出した。


(蒼よ、もし村が妖怪によって襲われていたら、まずは五感で全体的な情報を得るのだ。そして次に逃げ遅れた人を探し、救出するのだ。すべての人を救出し終えた後に、本格的な戦いを始めろ。そして戦う時は効率よく、相手の弱点を探るように注意深く観察して戦え。)


今日は朧な半月。妖怪だとするなら今の状況は稀なケースだ。おそらくは誰かの恐怖心などがはたらいてこのような結果になっているのだろう。典型的なフラグ回収をしたことに対して、蒼は小さくため息を付いた。


村が見えた。


(やはり真っ白なモヤで村が覆われている。 …中へは普通に入れるみたいだな。)


蒼は最初、火事による煙だと考え、姿勢を低くしながら入っていった。しかし入るとすぐに寒さと空気の極端な湿っぽさを覚えたので、モヤは霧であることに気づいた。蒼はゆっくりと村の中へ入っていく。


(それにしても眠くなるなあ。まさか霧のせいか?)


蒼は服で口元を隠した。

大通りに出た。左手には短剣を持っている。鍵が空いていたので、すぐ脇にあったアパートに入って住民の安全を確かめようとした。


「誰かいますか?いたら返事してください。」


なんの音も聞こえなかった。それどころか、部屋中に霧が充満していて何も見えない。蒼は手で探るようにして前へ進んだ。すると、ソファーと思われる場所で人が寝ているのを見つけた。何度も声をかけるが起きない。しびれを切らした蒼は頬を軽く叩こうとした。その時、蒼は青ざめた。その人の頬が異様に冷たいのだ。一応自分の頬も触ってみたが、やはりそれほど冷たくはない。


蒼は後ろにのけぞった。


人が死んでいる。実は、自分が遅れたから手遅れになったのかもしれない。あの時みたいにまた誰かが…


はっとすると、すぐに首筋に手を当てた。相変わらず冷たいが、かすかに動脈の流れを感じる。蒼はホッとして肩から崩れ落ちた。まだ最悪の結果には至っていない。まだ大丈夫だ。そう心に唱えると、蒼は振り返ってそのまま外に出た。この村はもうほぼすべての人がこのような状態にあるのだろう。そう考えながら、蒼の足は診療所に向かっていた。


――――――――――――――――――――――――


霧の冷たさと緊張が重なって、ライトは眠ることもできず布団にくるまっていた。

思えば30分以上前、なにか違和感があると目を覚ましたら室内が白い霧に包まれていたのだ。あまりの出来事に、大陸ではこれが普通なのかと驚いていた。しかし、そのようなことは聞いたことがない。原因を確かめようと布団から出たらあまりの寒さにまた布団に飛び込んでしまった。そしてそのまま時間が過ぎた。


(さすがにおかしいか。よし、布団から出よう。)


ライトはおそるおそる布団から足を出した。冷たい霧があっという間にライトの足を包み、ひんやりする。

獣牙族は元々温暖な大陸中央下の地域に分布していた。よって寒いものは他よりも好まなかった。


「はあ、大陸は分からないことだらけだ。こんな霧、やっぱ異常事態だろ。」


ライトは部屋を出た。ベッド脇にあったランプに明かりをともして、真っ暗な廊下を進んでゆく。ところどころ病室が空いていたが中を見ても起きている人は一人もいなかった。ライトは気づかなかったが、その中には陽炎も入っていた。


一階に降りると霧は廊下・部屋全体を覆っていた。二階にいた時は足首までだったのに対してこの量であることから、外もこのような感じなのだろうと考えた。一階にある看護師の寮を見たが、やはり誰も起きてはいなかった。楓夏も爆睡していた。


外に出た。すると霧の中で声が聞こえた。


「…」

「誰だ!そこにいるのは」

「おに…い…ちゃん」

「なっ!?」


その声はまさにライトの妹のクエラだった。霧の中、確実にその声が近づいてきているのが分かる。ライトは声のする方へ近づいた。やがて一つの影が見えた。


「クエラ…クエラなのか。良かった、無事で…心配したんだぞ。」

「お兄ちゃん」


ライトは両手を伸ばしてクエラを抱きかかえようとした。その時だった。



グサッ



クエラの背後から何者かが槍で腹部を貫通させた。その血はライトにはかからず、下に落ちて霧の中で消えた。ライトは何が起きているのか分からなかった。その槍がゆっくりと抜ききるまで、言葉が出なかった。クエラは倒れた。そして目の前から違う声がした。


「あーあ。せっかく生きの良いガキを見つけたってのに、殺しちまったから売れなくなったじゃねえか。」

「へへ、逃げ出すのが悪いんですよ。 …そういえばこいつをさらった時にもう一人いやしたよねえ。」

「ハッ!あんな腐ったようなガキ、売れねえ売れねえ。商品ってもんはなあ、品質が良いほど売れるんだよ。まあ、蹴り飛ばされたあげくさらわれて働かされて、ついにこいつが殺されたと知ったときの絶望の顔を見れるってんなら、まださらってやっても良かったかもなぁ。」


その二人は笑いながら霧の中へ消えていった。ライトは膝をついて倒れた。周りにも、下にもなにもない。ただ霧だけが包み込む空間で、怒りと悲しみが激しくぶつかっていた。

周囲からざわめきが聞こえる。


(お兄ちゃん助けて…)

(こいつは連れて行くぞ)

(ヘヘッ、いい金になりそう…)

(貴様みたいなやつはそこら辺で死んじまいな!)

(ライト…)

(殺しちまったから売れなくなったじゃねえか)

(ライト)

(助けて、お兄ちゃぁん!)


「ライトっ!」


――――――――――――――――――――――――


蒼は声を荒げた。蒼はその場に立って、やや下を見ていた。その目線の先にはライトがいた。

ライトはしゃがんで縮こまっていたが、蒼の叫び声についに顔を上げた。後ろを向くと、蒼が立っていた。

蒼は膝に手を当てて様子を見ていた。そしてすぐに手を差し伸ばした。ライトはそれを掴んで立ち上がった。


「あ、あんたは確か…」

「蒼だよ。村がすごい霧に包まれていたのを見てすぐここに来たんだ。それで、何があったの。」

「わからない。おれはさっき寒くて目を覚ましたんだ。そしたらこうなっていた。 …あと、クエラが…」

「クエラ?確か君の妹だっけ、楓夏が言ってたけど。」

「さっき目の前で後ろから槍で…って、あれ、何もない。さっきここにクエラが来て、殺されたんだ!」

「幻覚か? …待て、この霧も。ライト、それは本当のクエラさんじゃない。幻だ。」


蒼はポケットから片手サイズの妖怪図鑑を取り出した。それに挟まっているスピン(しおり代わりの紐)のようなものを引っ張ると、みるみるうちに分厚い本へと変化した。


「おお、なんかかっけー!どうなってるんだそれ。」


パラパラとページをめくり、その手を止めた。そこには、『シン』という主題とその絵、解説が書かれていた。


「こいつは蜃と言う妖怪だ。」

「よ妖怪!?まず妖怪って何なんだよ。魔物とは違うの?」

「簡単に言えば恐怖から生まれるもの。普通に魔族や人間より強いらしいよ。そして、僕がそれらを退治する退魔人なんだ。」

「そういえばあの楓夏って人や傭兵団の奴らも、昼に来た時にそんなこと言ってたような…」


「そして本題だ。さっき、ライトはクエラさんに会ったと言っていたね。これこそが蜃の最大の術の幻影なんだ。そして、ライトから『恐怖』を吸収して力をつけようとした。恐怖が栄養だからだ。」

「なるほど、利用されちゃったのか。そう考えると俺だけがこの時間に起きたのも、恐怖を吸い取るためだと推理できるわけか。」

「多分そういうことだ、多分。そして今、恐怖の供給源を絶たれた蜃は弱っている。そこを一気に叩こう。」

「よっしゃぁ!ご飯をくれた恩返しとして、少し暴れるか!」


ライトの目が光った。手がまさに獣のようになり、鋭い爪が現れた。


「これが獣牙族の力か…」


その時、四方八方から無数の黒い影が現れた。それは紅き鷲のメンバーを眠らせた者と同じだった。

ついに黒い影は二人に飛びかかってきた。それを各々が弾き飛ばし、そのまま大通りを北へと走っていった。


「蒼、とにかくこれからどうする。」

「蜃は水辺に生息して、そこからこの黒い影たちを発生させているはずだ。まずは水辺に行こうか。」

「やっぱ水の生き物なのか。じゃあ火で蒸発させたらいいんじゃないか?」


蒼は焼却炉の方を向いた。蒼がこの騒動を知ったきっかけは焼却炉の煙だった。


(まさか、焼却炉の方にまだ眠っていない人がいるのか…)


「僕がここにさっき来た時、焼却炉から煙が出ていた。だからまだ眠っていない人がいるかも知れない。やっぱり先に焼却炉の方に行こう。」

「オッケー」


真横の建物の隙間から黒い影が飛び出してきた。ライトは獣の速さで爪を振りかざし、それは消えた。

話している最中でもお構い無しに黒い影が湧いて出てくる。おそらく村全体はこの黒い影に覆われているのだろう。村人たちが本当に冷たくなって死なないためにも、蒼たちは焼却炉へ向かった。


――――――――――――――――――――――――


「ここが焼却炉か。」


ライトは顔を上げてその全貌を見た。大気による風の移動を考え、村の一番東側に設置された焼却炉は、今もかすかに火が燃えていた。その側にはミナが倒れていた。


「そうかミナが…ありがとう。」

「この残ってる炎を生き返らせたら、ある程度奴らを遠ざけることができるかもしれない。 …もう周りにうじゃうじゃいるようだから、逃げることもできないしな。とりあえずやってみるぜ。」

「よし、この火は任せるから、僕は背後を見張っているよ。」


すでに黒い影は三人を囲んでいた。そして無限に霧の奥から奴らは現れ続けた。蒼は両手で陽炎の使っていた退魔の剣を少し力任せに振り続け、数え切れないほどの影を切り裂いていった。黒い影は切られてすぐに消滅するが、そうでなければ死体の山が積み重なっていただろう。

そして木炭を入れ続け、息を吹きかけ続けることでようやく火が盛んに燃えだした。その火は霧の中でも勇敢に燃えていた。二人は安心した。それと同時に、先程から無限に現れては攻撃してきていた黒い影は動きが鈍くなり、それ以上近づくことはなかった。


「なんとか収まってきたか。ああ、めっちゃ眠いな。」

「寝ちゃだめだからね。次はいよいよ本体を倒しに行くぞ。」


煙が霧を突き抜けそうな時だった。突然焼却炉の後ろの壁が外側から破壊されたのだ。焼却炉も破壊された。せっかく発生した火も煙も全てが壁の崩壊とともに消滅した。ライトは驚きのあまり一目散に逃げ、蒼はミナを担いで急いで逃げた。


「で、でけぇ…」

「ライト、早く逃げよう!こっちだ!」


ライトは蒼に言われるがままに走った。蒼は一回も振り向かない。しかしライトはその実体を目に焼き付けていた。先程の挿絵からは伝わらない恐ろしさと神々しさを兼ね備えているその化け物は、一大宗教であるナーガ教の神・ナーガを彷彿とさせる東洋龍トウヨウリュウと瓜二つの風貌をしていたのだ。

読んでいただきありがとうございました。続きをお待ち下さい。

また、誤字脱字がある場合は速やかにご連絡ください。

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