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月下の狩人  作者: りゅう
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第一章 ある満月に…

昔から人は暗いところを怖がりました。そこから、闇には『妖怪』が潜んでいるといわれ、さらに恐れられてきました。やがてその噂は人々の間に瞬く間に広がり、闇自身も、精神を持つようになっていきました。これはどの世界においても、人間さえいれば同じことなのです。そう。たとえ剣を振り、魔法を放つような世界であっても…

かつて、人間と魔物が共存していた大陸があった。

 

人は力に弱く、知識に強かった。魔物は知識に弱く、力に強かった。


両者は多少の壁はありながらも互いの長所を信頼し、短所を支えあいながらひたすらに生きていた。



しかし大陸歴650年、300年周期の大寒波に地上が襲われた後、人国家グラ帝国は突如ナプド共和国とガーナ法王国を滅ぼし、東にガルド帝国を築いた。


これを受けた西の大国、魔国家ヘルは、ガルド帝国に魔物の大軍を送り込み、帝国の平民に対して大粛清を行った。


魔物が弱い立場の人間を襲った事実が全世界に広まり、魔物に対する不信感が人間の間に広まった。一方魔物側は魔国家であるナプドとガーナを襲われ、さらに魔物たちの中の一大宗教であるナーガ教の本堂を人間に奪われたことでの人間への不信感が高まっていった。



653年、ついにガルド帝国の辺境の村で魔物に対する抵抗運動が起きた。


これを聞いたガルド帝国は国を挙げて『大粛清』に対する『大制裁運動』を実施。今度は魔国家ヘルに大軍を送り込んだ。魔国家ヘルは周辺の魔国家と組んで『魔族』と名乗り、防衛線を張った。


激しい戦いの後、両者に停戦条約が結ばれた。そして、大陸は不安を抱えたまま300年の時を過ごしていった。


――――――――――――――――――――――――



ドカン!!



土煙が上がった。星空を濁らせると、闇に紛れていく。消えてゆくのを最後まで見守ったところで、今日は満月だとようやく気づいた。


「おーい、今日は満月だぞ。貴重な日だから刃先まで感覚を研ぎ澄ませ、違いを味わってみ。今のお前ならなにか気づくと思うぞ。」


老人は明かりのない森に声をかけた。すると、腰掛けていた縁側から移動しようと腰を浮かせた。


左手に持っていた湯呑みを揺らすことなく素早く置き、また音もなく、また素早く森の闇へと移動した。


縁側には、お盆と湯呑みだけが残った。



ザクッ、ギーッ…



「ははは。焦りおって。灯骨トウコツのあばらに食い込んどるではないか。わしゃこの音は好かんと言ったぞ、蒼。」


老人は草むらから現れた。ズカズカとわざとらしく歩く。


一方、目の前には内部から火を噴き出し続けている骸骨がいた。その後ろに、ズタボロの服を着た少年が立っていた。

彼の名はアオイ。そして今、『実践訓練』を行っている最中だ。


蒼は短剣を弱々しく握りしめていたが、老人の声に気づくと背筋を真っ直ぐにして、短剣を持ち替えた。


「じいちゃん、ちょっと今日は遅いんじゃない?満月なんだし、もう少し早く助けに来てくれても良いじゃんか。…ほら、早く教えてよ。」


「早く早くと、もう少し落ち着いていられんかい。まあそうだな、さっきの音や爆発から思うに、その短剣はちとお前には短すぎたのかもしれんな。敵の最適範囲と手首がピッタリ重なり合っているだろ?特に灯骨なんかは。」


老人の名は陽炎カゲロウ鳳家オオトリケの4代目当主にして、蒼の祖父である。鳳家は代々、大陸の東にある六波村という田舎で退魔人タイマビトという役職を担ってきた。


突然、月おおかみの群れが現れた。


「蒼よ、さっきのよりも長い剣をやるから、敵との距離を測ってみなさい。」

「わかった。」


蒼は剣を前に突き出し、地面と比べた。


「6…5…7…よし、」


ついに月おおかみの一匹が群れから飛び出して蒼の方へ走ってきた。すぐに、続々と残りもやってきた。


蒼は月光を剣で反射させて先頭の目に当て、すぐさま走る― 

そいつの右肩めがけてものすごい勢いで剣を振り、首をえぐるように左前足ごと切り裂いた。


仲間がやられたことも気にせず2,3匹の月おおかみが飛んだと思えば、蒼も飛び、流れるように首を切り落とす。


背後から来たと思えば、蒼は前に走り、ターンしてから斬りかかろうとした。


「背後からの攻撃への転換が遅いぞ!右手を軸にしてその場で回れと言っただろう!」


最後の一匹が陽炎の方を向いた。陽炎はそれに気づくと、軽く睨んだ。すると月狼は、一目散に闇へと逃げていった。


「ああっ、ごめんなさい。やっぱ腕を噛まれるのが怖くて。」

「…まあ剣を変えたばっかだからな。すまない、じゃあそろそろ帰るか。」


こうして今日の『実践練習』は終わった。



――――――――――――――――――――――――



帰り道


「そういえば、満月の日の『あやかし』とか『妖怪』らは何がいつもより違うかわかるか?」


「そりゃあわかるよ。満月の日のほうが強いんだよ、早いし、硬いし。ああ、あとなんかいつも思ってたんだけど、あやかしとか妖怪とか魔族とかって、何が違うの?」


「おまえそんな事も知らなかったのか。魔族は西側諸国にいる人と同じようなものだ。妖怪は夜に人の恐怖心から現れる怪物たちのことで、あやかしはその下位互換だよ。」


「ふーん、帝国はたしか魔族による襲撃に備えて防衛線を張ってるんでしよ。なんで妖怪やあやかしには対応してくれないのさ。絶対そっちをなんとかしたほうがいいと思うんだよねーえ。」


「まあそうだが、平民でなんとかまわってるから大丈夫だと思ってるのではないか?」


蒼は話をはぐらかされたような気がした。しかし深追いはしなかった。こんな田舎村の自称自警団のような連中に直接関わる話ではないと少なくとも思うからだ。



ドドーン!!



家の明かりが木々の間から見えてきた頃、東、つまり家のある方向から轟音が鳴り響いた。

直後風が顔に当たり、心臓がゾワッとする感覚を二人は覚えた。


「蒼、すぐ家に帰るぞ。多分この音は向こうの六波村だろう。」


「妖怪かな。」


「わからないが、今日は帝国からも警備団が来ているはずだ。きっと大丈夫だろうが…」


葵の心はとても焦っていた。

過去何度も同じ事があり、そのたびに陽炎は戦ってきた。


しかし、どれだけ強くとも死んだ瞬間それは過去になる。死ぬと人は泣き、日常は『思い出』と勝手に呼ばれるようになる。蒼は、そのことを知っている。


先に蒼は家へ入った。やはり街の方から煙が上がっていた。


焦った陽炎は蒼をとりあえず家に帰らせると、いつもの装備一式を持って街に行ってしまった。


いつものお留守番。

いつもの不安な夜。


いつもいつもと言っていられるのはいつまでなのか。


いや、待っていてはだめなのかもしれない。 どんな結末であれ、自分から行動しないといけないのかもしれない。


蒼は上を見た。光魔法で構成された照明しかこれといったものはない。

しかし、なにかは、何かしらはありそうな気がした。

今、上を見たことでなにか心の中が変わったような気がした。



―ここで待っているのはもう嫌だ。身につけた剣技を確かめたい!



靴下をまた履いた。おじいちゃんのマネをして準備運動をした。もう、気持ちは十分らしい。


戸を開け、周りにあやかしがいないか確認する。さっきの実践練習のおかげで、当分現れることはない。


蒼はその場から走って村へ行った。

いつもの自分ではない。


特別な今日の満月に、蒼は少し笑みを浮かべた。村を囲む壁はあと少し。

読んでいただきありがとうございました。

このように、一夜(一つのまとまりが終わるまで)につき何章もかかる予定です。



初めての小説作り大変でした…

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