表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カクリモン  作者: 廿楽 亜久
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/38

24話 始まりの一閃


「さぁ、始めましょうか」





 6時間目。教師はいない。

 このクラスだけではない。すべての教室が自習になっていた。生徒もバカではない。そんな異常事態であれば、携帯で情報を探す。


「なーこれってさぁ」


 梶が見せてきたのは、SNSに上げられたどこかで見たことのあるビルの一角。

 どこだっただろうかと、頭を捻らせれば、脳裏に過ぎったその場所。特徴的な形がなくなっているおかげで、わかりにくいがこれは、


「都庁……?」

「が、半分なくなってるらしい」

「……は?」


 爆発して無くなったにしてはキレイで、直線に切れていた。

 まるで、刃物で切られたように。


「その付近で、銃声めっちゃ聞こえるって。写真は…………遠いのばっか」


 粗い画像だが、覚えのある特徴的な青緑色の髪の色。

 ミントだ。


「知ってる顔?」

「ミントさんだよ」

「例のあの人か!」


 ついに動いたのかと、梶はもう一度、ミントがしたであろう被害情報を集めていると、部屋のドアが開いた。


「あー……調べたやつはいると思うが、今、新宿区で大規模なテロ事件が発生している。危険もあるため、収まるまで学校に留まること」


 帰宅禁止令が出されてから1時間。すっかり、終礼の時間は過ぎているが、今だに禁止令は解除されない。

 教室にいるのにも飽きた干川と梶は、部室へ移動していた。


「ヒマだー」

「……」

「なんだよ。辛気臭い顔して」


 先程、逵中たちに連絡を入れてみたものの、返事はなかった。ミントが出てきているなら、逵中たちも対応に追われているのかもしれないが、前に斎藤がミント関連で動いていたこともあり、少し気がかりだった。


「気にすんなって。あの人たち、死ななそうだしさ」

「まぁ、確かに……ん?」


 窓の向こうに見える、白い筋。

 飛行機雲だろうか。自衛隊が動いているのかと、窓に近づくと、一直線に続く白い筋。雲とは違うような気もする。


「戦闘機でも飛んでた?」

「いや、飛んでないけど、あれ、戦闘機の飛行機雲かな?」

「マジで!? どこ!?」

「ほら、真っ直ぐのところの、細いけど」

「んん?」


 目を細めて、干川が指さす先を見ようとするが、そこには澄み切った青空。


「……」

「……」


 最近、慣れてきた感覚。ふたりが目を合わせるのと同時に、震えた携帯。


「ナイスタイミーングッ!!」


 梶が干川の携帯を手に取り、ディスプレイを見れば、逵中の文字。


***


 急遽用意された対策本部は、騒々しいものだった。

 数時間前、ミントが都庁の前で確認され、盗難された刀を振った瞬間、都庁は崩れ落ちた。

 逵中や榊などのカクリシャや警察が、ミントを抑えようと戦っていたが、決着はつかず、現在、ミントを見失い、戦闘員である逵中と榊は一度戻ってきるところだった。


「む……干川君からだ」

「あぁ……一応、避難命令出てるからね。それに、SNSでミントみたいな人影も映ってるみたいだし、気にしてるんだろう」

「少しかけてくる」

「了解。僕は、状況の確認をしてくる」

「頼む」


 逵中が廊下に出るのを見送ってから、政府、自衛隊、警察がごちゃまぜになった会議室の中を歩く。

 どうやら、各組織の京極などトップクラスがいないようだ。ミントが一度引いた今、今後の会議が開かれているのだろう。


「警部」


 見知った顔と何度も目が合うが、適当に笑って誤魔化し進めば、地図の前で難しい顔をする警部を見つけた。


「会議内容でも持ってきたか?」

「いやいや……それはさすがに無茶ですって……」


 むしろ、今戻ってきたのだ。

 たとえそうでなくても、各組織トップクラスの会議を覗こうなど、命がいくらあっても足りない。


「状況は?」

「お前のとこの嬢ちゃんが言うには、状況はまだいいらしいぜ。こっちの技術班も同意見らしい。まだ口止めされてるみたいだが」


 ミントたちの対応もそうだが、今、カクリモノの被害も増えてきていた。

 今は、ミントたちの対応で警備の人員が減ったせいで、カクリモノへの対応ができていないと言うことになっているが、宮田がいうには、空間が不安定になっているそうだ。

 そのため、カクリモンが各地で開き、カクリモノが現れている。


「今はまだ少しだが、もっと不安定になればもっと強いカクリモノが出てきて、大戦の二の舞だとよ」

「それは困るな……今、大戦が起きたら対応できる人間は少ないってのに」

「テメェの弾除けだけはお断りだな」

「いやだなぁ。私に弾除けは必要ありませんよ」


 笑う榊に、警部も睨むがすぐに視線を落とす。


「……ま、遠くから撃ってるだけだしな」


 それだけ言うと、地図を指さしながら状況を説明する。

 避難地区、人数、場所、警備の配置場所。


「今のところ、こんな感じだ。予想じゃ、このあと、避難場所をまとめるかもな」


 カクリシャも少ない今、できるだけ人は集めた方が護衛しやすいが、人を収める場所の広さも必要だ。


「てか、お前のとこのヤベー嬢ちゃんどうした? ただでさえ、頭数が欲しいんだ。合流しないのか?」

「結城? あぁ……合流は難しそうですね。あぁ、でも、護衛はしてくれると思いますよ。あとで確認しておきます」

「なんだ? その曖昧な答え」


 なんとも言えない表情を返されると、肩を叩かれ、振り返れば、逵中が立っていた。


「どうした?」

「ちょっといいかね?」


 その言葉に、榊も警部も目を細めた。


 逵中に連れられて、天ノ門に与えられた部屋に入れば宮田が逵中の携帯で通話しながら、なにかを作っていた。


「あ、逵中さ――え゛っ」

「俺がいちゃ悪いか? 相変わらず秘密主義だな」


 警部がいることに、宮田も困ったように逵中に目をやるが頷かれるだけ。


「今は協力しなきゃいけねぇ場面だろ?」


 ニヒルに笑いながら榊の肩をつかむ警部に、榊もなんとも言えない笑みを浮かべていた。


「あーだったら協力しましょう。ただし、電話先については詮索はなしで」

「んなやぶ蛇誰が詮索するか」


 天ノ門はただでさえ秘密事項が多く、その秘密を知ったらどうなるかなど、警察内部で噂になっているものは、幽閉や人体実験など、あまりにも突拍子もなさすぎて信じられないものばかりだが、やりかねないというのが恐ろしいところだ。

 逵中はパソコンをのぞき込めば、東京に描かれた黄色い線。


「視えた範囲が赤、角度などから予測されるのが黄色い部分です。写真では見えないみたいで」

「直接確認する必要があるのか」

「円? 魔方陣ってやつか」

「まだ情報が少なすぎて確証は持てませんけど、おそらく」


 円が魔方陣の一部だとするなら、とても大きな魔方陣だ。それこそ東京23区を覆うほどの大結界と同規模だ。


『あ、だったら俺たち外出て見ましょうか?』

「危険だ。許可できない」

「今は交通も麻痺してるからな。徒歩で回る気か?」

『う゛……タワーにいくとか……』

『いやいやいや! 無理だって!』

『えー……でも、結構重要な情報じゃね? それがマジで魔方陣ならさ』

「……とにかく、今はその場で待機。そちらの指示に従うように。こちらからは、必要があれば連絡する。携帯は常に持っているように」

『わ、わかりました』


 通話が切れると、逵中はまた別の人物に連絡を入れる。

 それと同時に、部屋のドアが開き、入ってきたのはいつもは天ノ門のエントランスに座っている女性。


「公共施設にいる方々を避難所に誘導するそうです。詳細を今から会議室で。お集まりください」


 逵中に先に行くと目だけで伝えると、ふたりは会議室に向かった。


 梶は屋上のフェンスに寄りかかり、空を見上げる。

 新宿、都庁の方角には、黒い煙が上がっていて、別の場所でたまにカクリモノらしき化け物の影が見え隠れする。


「いやーこのまま世紀末入りかねぇ? 肩パッドが必要かね?」

「冗談になってない」

「つってもさー」


 同時にけたたましい音を立てて屋上のドアが開いた。


「やっべ……」


 そこにいたのは生活指導の教師だ。事件直後、何があったのか知ろうと、屋上にきた生徒は多かった。だが、危険ということと、教師が管理できないということで、現在は体育館に集められている。

 一部、それを振り切り、部室や教室にいた生徒もおり、見回りが行われていた。


「梶ィ! さっき戻るっつったよなァ!?」

「言いましたー! だから、一旦戻りました!」

「ヘリクツいってんじゃねェぞ! 危ねェから集まってろって言ってんだよ!」

「危ないって……カクリモノが来て体育館全滅とか」

「梶」

「は、不謹慎ね。はいはい。でも、まだ向こうの方ですよ」


 実際、カクリモノに対応できる装備はこの学校にないし、戦える人だっていない。そんな場所で一ヶ所に集まってなんの意味があるのか。

 それは他の抜け出していた生徒全員が同じことを言っていた。つまり、慣れている。


「なるほど。よしわかった。お前らの度胸は認めてやる」

「ヤな予感」

「だったら、その度胸を認めて仕事をやろう。非常食運びだ」


 嫌そうな顔をする梶と干川の腕を掴むと、早速倉庫に向かった。恐らく、ふたりと同じように抜け出していた生徒が、めんどくさそうな顔をして倉庫から食料を運び出している。


「もうすぐ警察が来て、移動することになる。ただその避難所にも多くの人がくることになっていてな、食料や薬が足りなくなる可能性が高い。だから、少しでも運んでいこうというわけだ」


 しっかり教師も混じっていて、抜け出すのは難しそうだ。

 仕方なくふたりも荷物運びを手伝えば、遠くに見える集団移動の様子。


「見ろよ。ほっしー。まさかの移動が徒歩だぜ」

「生徒全員乗せる車用意できないんだね」

「むしろ、俺たちがこれ持って移動しろって言われる方がイヤだ」

「ありそう……」


 容易に想像できるそれにため息をついたその瞬間、背中から加えられる衝撃に息が詰まる。

 必然的に前を歩いていた梶にもぶつかり、梶も同じように倒れ込んだ。


「なんだァ!?」

「またアンタかッ!!!」


 すっかり慣れた干川は、素早く起き上がると、下敷きになった友人など気にせず、後ろにいたチンピラに吠えた。


「たまには普通に声かけろよ!!!」

「あ゛? んでテメェの言うこと聞かなきゃいけねーんだよ」


 珍しくケンカしている干川と斎藤に、ダンボールの下敷きになったまま、梶は友人の妙な進化になんとも言えない表情を作っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ