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未知標  作者: 一族
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第七〇六話 よいよいよい(二)

 ――いかに。

 ――精査の上、改めて、報告する。

 孝子はずっこけた。なんのことはない。みさとが最初に頼った識者氏と同じだ。

「仕方ないでしょう。車なんて動けばいい、ぐらいにしか思ってない人間なんですよ。僕は。知識が絶対的に足りていないんだ。この場で、なんて無理です。そうだ。今の条件を踏まえて、正村さんに選んでいただくのは、どうです?」

「駄目。時間の無駄。君が決めて」

「では、今日中に」

「今」

「まあまあ」

 仲裁を買って出たのはみさとだ。

「社長ににらまれてたんじゃ、郷さんも、おちおち作業していられないよ」

 そんな玉か、と一笑に付す。

「確かに、そんな玉ではありませんが」

 いつの間に取り出していたのか、スマートフォンを操作しながら、尋道がつぶやいた。

「ただ、知識がない事実は、いかんともし難いので。今、は無理です。どうしても認めていただけないのなら、お役目は返上しますので、あなたが決めなさい」

 一気に押し返された感があった。こうなった以上、深追いは禁物であろう。

「わかったよう。怒るなよう」

「怒ってません」

「目も合わせないで言われたって、信ぴょう性がないんだよう。いつもみたいに甘やかせよう」

「はい。かわいい、かわいい」

 スマートフォンとのにらめっこを継続しつつの、気のない返事だ。

「ばかにしやがって。全部、みさとが悪いんだぞ」

「なんでさ」

「つまらない話を持ち込んできた。お前なら一人で決められるだろ」

「一人で決めたら時間がかかるでしょうが。私も車については門外漢なんだよ」

「三人寄れば文殊の知恵、ってか」

 わいわい騒いでいるうちに終わっていたようだ。尋道が立ち上がり、DKの隅で寝転がっていたロンドの元に向かう。

「何してるの」

「ロン君と遊ぼうかと」

 振り返って、尋道は答えた。

「車は、どうしたの」

「その前に、斎藤さん。今日は半休を取られているんですよね。具体的には何時まで?」

「一四時出勤でっす」

「では、舞姫館に行った後、重工に付き合ってください。正午です。螺良さんにお願いしました。車を見せていただけます」

 螺良千歳は重工の自動車事業本部を統括する人物だ。

「平然と螺良さんの名前を出してきたけど、郷さんのゴルフ場外交、本気ですごいね」

「それほどでもあります。多分、本社になると思うんですが、ショールームとかになるかもしれません。場所は、追って」

「おい。私は誘わないのか」

 しらっとした視線が向けられた。

「お誘いしたところで、どうせ来ないでしょう? ちなみに、僕、先方では黒須さんのお気に入りと認識されていますので、僕が出向く、となったら、まず間違いなく、あの方に連絡が行って、下手すると、来ますよ?」

 孝子は詰まった。重工の巨人、黒須は苦手だ。

「まあ、押して来る、とおっしゃるのでしたら、斎藤さんを重工さんで預かっていただける件とか、機を見て僕がぶつける高鷲化成アグリサービスの紹介依頼とか、適宜、茶々を入れてくださったら、ありがたいですね」

「その会社には知っている人がいるんじゃなかったの?」

「僕のお願いより、黒須さんのお達しのほうがアグリさんには応えるでしょうね。全力で当たってくれますよ」

 なんという機転。いやさなんという奸智。カラーズの詐欺師、ここにあり。

「ねえ。ロン君。あなたのご主人さまは僕に含むところがあるんでしょうね。いつもあしざまにののしってくる」

 尋道が抱え込んでいたロンドに話し掛けるや、ロンドは頬擦りで歓待する。孝子は愛犬の仕草に便乗した。

「尋道君、誤解だわーん。孝子さまはカラーズで一番、君を買ってるわーん。みさとなんか目じゃないわーん」

 飛び火を食らったみさとが噴き出した。

「なんで私は呼び捨てなのよ!」

「犬の中では、孝子さま、尋道君、それ以外の下々、ってなってるのさ」

「うそつけ!」

 もめる二人を尻目に尋道はロンドとの交流を満喫している。その愉悦に満ち満ちた表情といったら、ない。鬼の目にもなんとやら、などと孝子は脳裏に浮かべるも口にするのは控えた。またぞろ怒らせて道化る羽目になるのはごめんなのだ。

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