誤算
その後、自己紹介を済ませる。
クラスの人数は二十人、一学年の総数は八十人、つまり一クラス二十人か。
成績が悪かったりすると入れ替えもあるとか。
「そうか、成績を下げれば良いのか」
そうすれば、自然とアークと離れることができる。
更にはセシリアと関わる機会も減るだろう。
「ねえ、リオン」
「……なんだ?」
「さっき、あの平民の男子……アークっていったけ? 一瞬、貴方のこと睨んでなかったかしら?」
「ああ、そうみたいだな」
俺は特に何もしていないはず。
もしかしたら、悪役である俺は自然と主人公の敵意を買ってしまうとか。
そうなると、益々近ずくわけには行かない。
「そ、それだけ? 平民の分際で俺を睨むとは何事だとか言わないの?」
「お前は俺をなんだと……いや、俺のことを知らなかったのだろう。最初くらいは見逃してやるさ」
否定しようと思ったが、確かにリオンなら言いそうだなと思った。
そんなことをしたら、余計にヘイトを買ってしまうではないか。
「……まるで、昔の貴方に戻ったみたいだわ」
「ん? どういう意味だ?」
「覚えてないの? 貴方は昔、馬車の前に飛び出してきた平民の子供を許したのよ? 王族の馬車の前に出るなんて、普通なら処罰の対象なのに」
……そんなことがあったような、もしくはなかったような。
ゲームの内容がわからないのもそうだが、今の精神状態も良くない。
俺とリオンが混ざり合っているので、リオンの方の記憶もあやふやになっている。
「そんなこともあったか」
「ふふ、今の貴方は……その、良いと思うわ」
「褒めても何も出ないぞ。俺は王太子争いに負けた男だからな」
「わかってるわよ……それがわざとってくらいは」
「最後、なんと言った?」
「別に何も言ってないわ。ほら、授業が始まるわよ」
確かに先生が入ってきたので、きちんと前を向く。
成績が落ちるのは良いが、授業態度が悪いのは良くない。
少しでも、イメージアップに努めなくては……ん?
「あのさ……」
「え、えっと、授業始まりますよ?」
どうやら授業が始まるというのに、隣にいるカレンに話しかけているようだ。
おそらく、話しかけるのに夢中で気がついていない。
このままだと、他の生徒や先生の印象が悪くなるぞ。
ふむ……俺は破滅したくないが、彼の栄光の邪魔をするつもりもない。
「おい、アークとやら」
「は、はい?」
「先生が来ているぞ」
「あっ……す、すみませんでした!」
「なに、気にするでない」
すると、前の席にいるカレンがぺこりと頭を下げた。
何故、彼女が頭を下げるのだ?
……よくわからないが、まあ良いだろう。
その後、授業が始まる。
「この大陸はアガレスト大陸といい、三つの大国と少数の国々から成り立っております。まずは、国王陛下を頂点とした氷と土の国フレイヤ王国。次に教会を頂点とする、光と水のセイント共和国。最後に皇帝を頂点とする、風と火の国ガイア帝国が中心となっています」
「そうか、それも王太子争いの原因だったか」
フレイヤ、それは北欧神話の氷の女神を意味する。
この国は、氷使いの英雄が作った国とされていた。
それもあり、氷魔法が使える俺の扱いが難しかったのだろう。
「なんの話よ?」
「いや、国の成り立ちを改めて考えていた」
「私は土を司る家で、国王になる方の相棒だったのよね」
「ああ、そうだったな」
冷たく笑うこともない氷の王と呼ばれた初代王。
その王の隣にいて国を支えたのが、ブリキッド家の初代だ。
……そういえば、ゲーム本編では俺の最大の敵でもあったな。
氷魔法を土魔法で粉砕し、その隙に主人公達が攻め立てるのだ。
というか……確か拳で俺の氷魔法を砕いてたっけ。
「ど、どうしたのよ? じっと見たりなんかして……」
「いや、お前とは敵対したくないなと思ってな」
「な、何よ……離れろって言ったり、敵対したくないとか」
そう言い、自慢の紅髪を触りながらそっぽを向く。
その後も授業は進み、お昼休みとなった。
すると、こちらにアークがやってする。
俺はセシリア狙いだと思い、その場をさっと離れることに。
そして食堂に向かおうとすると、そこにカレンが現れた。
「あ、あの!」
「……どうした?」
「あの、お昼を一緒にしてもいいですか!?」
「どういうことだ?」
「その……わたし、知り合いいなくて」
いや、だとしても俺に頼むとは。
どうやら、助けたことで懐かれたらしい。
一瞬断ろうとするが……別にいいかと思い直す。
攻略対象の女の子じゃないし、そこまで気にすることもない。
「そうか、別に構わん」
「えっ? い、いいんですか?」
「くく、聞いたのはお主だろうに」
「そ、それはそうですけど……」
カレンは両手をわたわたさせ、何やら小動物のようだ。
すると、後ろからセシリアの声がする。
「ちょっと!?」
「どうした?」
振り返ると、そこには焦った顔のセシリアがいた。
当然、その隣にはアークがいる。
「どうしたって……私も行くわ」
「……なんでそうなる」
「貴方が、平民の女の子にいたずらしないようによ」
「そんなことするわけが……おい」
「いいから。ほら、早くしないと時間なくなっちゃうわ」
セシリアが俺の腕を引き、教室から出ようとする。
その後を、カレンが付いてきた。
俺の最後の目には……俺を悔しそうに睨みつけるアークが映る。
——どうしてこうなったァァァ!?




