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斑紋の赤ずきん  作者: オリハナ


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3・斑紋の赤ずきん⑥

 

「嫌だ! 待って……待って!」


 ハンスは叫びながら、荷車の上に乗った。片足を踏み入れる際、影の下にいた獣達はわっと逃げ出す。


「こんなの、やっぱりダメだ! 頼むから、連れて行かないで!」


 泣き出しそうな顔で、ハンスは木箱の周りに積み重なっている獣達を掴んでは、外に放り投げた。傷つき、手が穴だらけになっても、ハンスはその手を休めなかった。


 当然獣達は邪魔立てされていると知ると、憤怒(ふんぬ)の声を上げた。木箱を運んでいた一部の獣がハンスに飛びかかり、更にハンスに放り投げられた者も戻って来て、手を貸す。鋭い針が突き刺さり、五体に激痛が走る。耐え凌ぐ事が出来ずに、ハンスから呻き声が飛び出た。思わず手を引っ込めてしまったが、ハンスのその目に迷いはなかった。


「太っちょ! お前、何やってんだ!」


 異変をようやく察したオオカミが、声を張り上げた。その後、すぐにプリーチが飛びかかってきたので、オオカミは舌打ち。左手に握ったナイフで、プリーチの胸に刃を突き立てた。


「くっ! なるほど、最初から荷車が目当てだったというわけですか!」


 狩人は悔しがりながら、腕に噛みついてくるプリーチを、銃のグリップ部分でど突いた。


「赤ずきん!」


「りょーかいだ!」


 狩人に命じられた赤ずきんは、周囲を取り囲むプリーチを蹴散らすと、すぐさまハンスの救出に向かった。プリーチは荷車周辺にもうじゃうじゃいる。戦いに余分な手間をかけるのは避けたいところ。


 赤ずきんは助走をつけて、目に留まった木の幹に両手をかけた直後、勢いよく地面を蹴った。逆上がりの要領で、太い幹の上に着地。実にダイナミックな技を披露すると、他の木々に飛び移りながら移動した。


 高い所に登ってしまえば、プリーチは追って来れないし、結構な時間短縮になる。そう思われたが、甘くはなかった。プリーチは慣れた手つきでスルスルと木を登ってきて、赤ずきんに襲いかかって来た。これに赤ずきんは少し驚いた様子だったが、すぐに戦いの顔に戻った。腰を低くして攻撃を交わすし、正面から狙ってくるプリーチを蹴飛ばしながら、別の木に飛び移る。あくまでハンスの元へ辿り着く事を念頭に置いて、戦いをやり過ごした。


 そして、最後の一本から飛び降りた赤ずきん。綺麗に荷車の上に降り立つと、今までハンスを攻撃していた獣群が、一斉に注目した。やばい相手だと察知したのだろうか。束になって彼女に掛かって来る。


 赤ずきんは動じなかった。ずきんの端をつかんで、マントで全身をつつみこむように、無数の針の攻撃から身を守る。そこからずきんを素早く翻して、降り飛ばした。針に刺さっていたコスモスが、大きな円を描いて舞い踊る。


 簡単にやってのけたが、かなりの腕力を要する技だ。ハンスは瞼の上を伝っていく血を拭うのも忘れて、魅入ってしまった。


 密集していた獣の五分の一を蹴散らしてしまうと、赤ずきんは温存していた力を思いっきり発揮させた。目にも鮮やかな足技で、残りを一気に片付けていく。そこへ、プリーチとの戦いが粗方ついたオオカミと狩人も混じる。


 少し経って、ようやくハンスが帽子にしがみついた獣を取っ払った頃には、荷車の上で動き回っていた小さな生き物達は、動かなくなっていた。


「もう大丈夫だぞ、ハンス」


 ハンスに向けられた、穏やかな表情。赤ずきんはくるっとハンスに背を見せて、空を仰いだ。


 青い空と、赤い彼女。

 優しい風によってはためいているそのずきんは、新たな赤で、より複雑な斑紋(まだら)をつくりあげていた。



 ――3・斑紋の赤ずきん  終――


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