第六十五話 異形との戦い
わたしは、フラニールさんに抱っこされて元竜の髭ギルドに行く。
遠目からでもわかるが、なにか禍々しいオーラが立ち上っていた。
どうなっているんだろう。
近くまで行くと、野次馬が集まっていて、ギルドには火も付いているようだった。
「くそっ、俺の産まれた家だぞ」
そう嘆きたくなるくらい、天上の歌の建物は半壊していた。
ヴァンパイアの襲撃を喰らい、戦ったんだろう。
天上の歌のギルド員にも多数の被害が出ているようだった。
「やめろラドクリフ! まだ早い!」
アインザックさんの叫ぶ声が聞こえる。
そちらを見ると……コールゴッドに集中しているラドクリフがいた。
ラファエル達を退けるためにコールゴッドを一度使っているみたいだから、連続での使用になるのか。
そして……そこに、ラドクリフの信じる神、アルクメーネが現れた。
「愛息子よ、何度も呼ばれる程、我は暇でも寛容でもないのだがな」
「我が神よ、今一度願います、この者に命を」
ラドクリフは蓋をされたガラス瓶をうやうやしく捧げ持った。
「命を宿すか、この貸しは簡単ではないぞ」
アルクメーネはガラス瓶に向かって電撃を放つ。
そして……消えていった。
「おお、神よ……ありがとございます。このラドクリフ、一生を掛け、全てを捧げ、我が神のご恩に報います」
「遅かった?」
邪神の創造がどれくらい準備できているのかわからないけど、アインザックさんはまだ早いと言っていた。
苦し紛れの一手なら、上手くはいかないと思うけれど……。
小さな音を立てて、ラドクリフの持っていたガラス瓶が割れる。
そして、そこに人型の何かが立っていた。
見た目は二十歳くらいの青年。
金髪碧眼で、細い身体ながらも筋肉が付いている。
白く透き通るような肌。
人を遠ざけるような風格。
神……これが神の創造?
「なんか、やべえのが出て来てるな」
「アレと戦うの? 無理じゃない?」
フラニールさんとパーシアさんが軽口をたたき合っている。
「神よ……貴男は神ですか?」
ラドクリフが側に立つ男にそう話し掛ける。
「神……我は神か……?」
「おおお、お名前を、是非にお名前を!」
「名前……な、ま、ええええぇぇぇぇぇぇっ」
そこで、美青年の姿をした何かが裏返った。
内側にあった赤黒い何かが全身を埋め尽くし、触手のような物が伸びてくる。
「くそっ、失敗だ! だから早いと言ったのに!」
アインザックさんが舌打ちしている。
でも、アレを放ってはおけない。
鑑定する。
せめてレベルがわかれば……。
「うっ」
しかし、この何者でもない異形を鑑定は出来なかった。
存在しないはずのもの……なのかも知れない。
「かかれ! あの化け物を押さえ込め!」
アインザックさんの号令で、まだ動ける天上の歌のギルド員が突っ込んでいく。
剣で、槍で、魔法で、攻撃を加えるけれど、そのほとんどが効いていない。
多分だけど、攻撃無効に似た何かを持っているんだろう。
「キシャアァァァァァァァ」
異形の攻撃で、元々傷ついていた天上の歌のギルド員達が倒れた。
尋常じゃない攻撃力だ。
「ふっふっふ、凡俗共が束になっても勝てんわなぁ」
「セレシュ!」
「脳筋のサーリャには出来ない、この姿をご覧あれ!」
トレイシーが杖を振るうと、異形が八つに別れる。
えっ!? 増やしてどうするの!?
でも、新たに現れたその異形は、赤や黄色、オレンジなど様々な色をしていた。
そして、それぞれに違う声を発している。
「あの分身は、あの異形に訪れるいくつもの未来の選択肢です! あの中に一つでも破滅する未来があれば、あの異形は滅びます!」
「おー」
パーシアさんが感心している。
パーシアさんは練金にも興味を持っているし、呪詛にも興味があるんだろうか。
それにしても、トレイシーの技は確率が付きまとう技ばかりだった。
でも、分身したどれもが、元気というか強そうに見える。
あの異形は、これから強くなる未来だってこと?
分身が一つに集まり、本体が苦しみだす。
どうなるんだろう。
トレイシーが戦っているところは、あんまり見たこと無いからわからない。
そして……異形は、たくましく巨大化していた。
「強くなってない?」
「大丈夫です、ここからが見せ所です!」
強がりじゃないよね?
「プラスされた全てをマイナスへと落とす、更に倍化で、消滅です!」
「おー」
パーシアさんは楽しそうだ。
でも、わたしはなんか胸が苦しかった。
どんどん強くなったらどうしよう……。
「さー、ヤー!」
変な掛け声で、トレイシーが杖を振るう。
すると、巨大化していた異形がボコボコと形を変え始めた。
プラスされた部分がマイナスになり、マイナスされた部分がプラスになっている?
じゃあ、これ、最終的にどうなるの?
「相手の未来に干渉して、滅ぶか強化されるか二択の術を掛ける。そして、強化された場合は、強化された分だけ弱体化する術を掛ける。すごいね」
本当かなぁ。
パーシアさんは楽しそうだけど、本当かなぁ。
そして……そこには、巨大な右手と退化した左手、顔中ボコボコの頭、筋肉の異常な盛り上がりと贅肉の弛みがある身体、股が太く、膝から下が異常に短い異形が誕生していた。
「いいぞ、あんなの戦えるはずがない」
フラニールさんが斬りかかっていく。
「デスタ!」
「ワオーン!」
デスタの本気の咆吼を聞いた。
今までとは違う、空気を振るわせるような咆吼だ。
「守護天使様!」
オリーブが走りながら胸元のオーブを握りしめて、背後に守護天使を出す。
「スピンドルストライク」
パーシアさんが無数の炎を発生させ、紡錘形になったそれを異形にぶつける。
デスタが最速で接近した。
そして、前足を振るうと風が起きて異形を切り刻む。
「よし、いいぞ!」
フラニールさんはデスタの邪魔をしないように、頭を狙っていく。
ボコボコの顔を切り取るように、袈裟切りにした。
そこに、パーシアさんの魔法が着弾する。
異形は、肉が剥がれ落ち、腕をもがれ、短い膝をついた。
「とどめですわ!」
そこにオリーブの守護天使が斬りかかる。
その光の剣は、異形の心臓の辺りを貫いていた。
オリーブが笑う。
そして、その次の瞬間。
異形は、凶暴状態に陥った。
「キヤァァァァァ!」
全身に口が現れ、その口から悲鳴と毒霧が噴き出される。
「まずい!」
フラニールさんは離れようとするけれども、毒霧に捕まって倒れた。
「うっ……」
レベルの低いオリーブも倒れ、守護天使が消える。
「オリーブ!」
デスタは前足を引きずりながら、なんとか毒霧の範囲から離れていく。
凶暴状態。
モンスターが大ダメージを負うと、最後の命の力を爆発させて、相手を倒そうとする必殺技だ。
これは、ゴブリンでもドラゴンでも、モンスターと呼ばれる種全てが持っている技で、冒険者が特に気をつけなければいけいないものだった。




