第六十三話 ヒュギーアの詩
「う……うぁ……うぅ……」
オリーブに案内されて、実家のお屋敷に来た。
結構大きな家で、格式を感じる。
お爺さんは寝たきりで、あまり話もできないようだ。
看病しているメイドさんに下がってもらって、オリーブとシールズとわたしの3人になる。
「うぅ……う……」
お爺さんはうなされているけれど、目の光が消えていない。
ちゃんと話は通じるように見えた。
「これからヒュギーア神のコールゴッドを使います。お覚悟はよろしいですか?」
お爺さんは、なんとかコクリと頷いた。
他に手はないことも、もうそんなに先が長くないことも理解しているんだろう。
「じゃあシールズ、始めて」
「では、ヒュギーア神の誕生を讃える詩です。ご静聴よろしくお願いします」
シールズは、持っていた弦楽器を軽やかに奏で始める。
ちょっと格調高い感じで、神の誕生という曲目にピッタリだと思った。
「――ヒュギーアは粗たる六大神の一柱、光神バルリオンの6番目の横暴な娘として生まれる」
「――光の巫女たる母女王は、ヒュギーアを嫌い、地下深くの闇に落とした」
「――闇にはルルカがいて、ヒュギーアに仕えた」
「――闇から這い上がると、ルルカは灰になり消え失せた」
「――悲しんだヒュギーアは改心し、母女王に助けを求める」
「――闇に戻るならルルカを元に戻すと約束した母女王は、洪水で死んだ」
「――バルリオンは改心した娘に治癒の力を与える」
「――ヒュギーアがルルカの灰に治癒を施すと、ルルカの姿をした母女王が生まれた」
「――そして、母女王は成長しバルリオンと子をなすと、その子は世界樹となりヒュギーアに永遠の治癒の力を与えた」
9節の物語を歌い終えると、シールズの背後に光が差した。
その光は溢れる程に大きくなっていき、思わず目を瞑ってしまう。
そして、その光が収まると……そこには、美しい少女の姿をした威厳ある女神が降臨していた。
「芸術のコルシアに愛されし娘よ、我を呼んで何とする」
わたしは、輪廻の女神アニエル様としか話したこと無いけど、もっとずっと古い神様のように思えた。
話しやすさとか、親しみ易さみたいなものが感じられない、純然たる『神』だ。
「この者に治癒の施しを」
シールズが、やっとそれだけを言う。
そして、ヒュギーア神はわたしを見た。
「そこの幼子よ、お前は見たことがあるぞ、アニエルの愛娘だな」
「あ、え……」
そ、そうなの?
でも、口で答えるよりも心がそうだと答えているようだった。
「幼子に免じて施しを与える、恢復よ」
お爺さんに光の雫が落ちる。
どこか虚ろだったお爺さんの目がカッと見開き、ベッドから飛び起きた。
そして、消え去るヒュギーアに向かって深々と頭を垂れる。
「終わった……んですの?」
オリーブが静寂を破る。
すると、お爺さんが起き上がり上着を羽織った。
「お嬢さん方、ワシを助けてくれたのですな」
「いえ、下心があってのことです」
「その下心とやら聞かせて頂こう」
神様を見た後だから麻痺してるけど、さすが威厳がある。
人間としては、かなりのレベルで威厳があった。
「国王がモンスターを司る神をこの街で創り出そうとしていますが、邪神です。
それを止めてもらいたいのです」
お爺さんは、髭を撫でつけるようにしながら考えている。
「信じないわけには行きませんな、もう少し事情を聞きましょう」
わたしは、話せるところを全部話していった。
オリーブとシールズにも聞かれてしまうけど、問題ない範囲でだ。
「国王の私生児に、その付き人、天上の歌のギルド員ですか」
「そうです、国王陛下の後ろ盾がある以上、わたし達ではなにもできません」
「ふむ……そして、アルクメーネという土着の神……すぐに裏を取らせましょう」
「お願いします」
「オリーブ、お前の父親を呼んできてくれ」
「はい、お爺さま」
オリーブに、行くぞと視線を向けられる。
わたしは、シールズを引っ張ってお爺さんの部屋から出ていった。
「いやあ、上手く行って良かったですよ」
「上手くいかないこともあるの?」
「そりゃあ、神様を呼べるかどうかは、やってみなければわかりませんて」
そうなのか。
しかも、気安く呼ぶと罰を受けることもあるとか怖すぎる。
「今回の仕事料は、オリーブが払ってくれるから」
「わかりました、それじゃあ、もういっちょ仕事をしますかね」
ギルドに帰ると、シールズは早速営業を始める。
遅い朝食を取っているパーティーのところに行くと、曲を奏でていった。
一曲いくらなんて言わずにタダで何曲か歌っていく。
「夜になったらテーブルに呼んでください、そのときにはお代を頂きます」
はぁ、シールズは戦っても強そうだけど、吟遊詩人って戦えるのかな。
戦の神とか雷の神とか効果がありそうだけど……。
訓練で適正無しだった子に、吟遊詩人の適正があるなら教えてもらったりも出来るんだろうか。
なんにせよ、シールズの加入は心強かった。




